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閑話:『黒の女王』、天国出張(後編)

前話を読んでない方は、まずそちらを読んでからご覧ください。

 皆さんこんにちは。私は閻魔大王の補佐を務めております、小野篁と申します。そして、私の横に立っている白髪の女性(本当は男)の名前は、鏡夜響。彼女もまた、閻魔大王の補佐をしています。

 そんな私達は今、地獄から天国に逃げたという罪人を捕獲するため、天国の入り口に来ています。天国の入り口には、二つの門があり、その門には地獄の門と同じように門番が立っていました。この門を入らなければ天国には行けないのですが・・どうやらこの門番、相当頭が固いらしく、私達が事情を説明しても門を通してくれません。


「緊急事態だと言いましたよね?さっさと通してくれませんか?」


「私達天国の門を守る者としては、怪しい奴は入れるわけには参りません。そちらの篁さんは以前も来たことがありますが、貴女は見たことがありませんので、ここを通すわけにはいきません。」


 無表情でそう答える門番に、響の額に青筋がぴきっと浮かびました。・・うっわー、あの門番、響が女だからって舐めてるのかもしれないけれど、随分と命知らずなことをしたな。今のうちに拝んでおこう。南無南無。

 しかし、いつまでもこうしていては埒があかないので、少し助け船を出すことにしましょう。


「門番さん、ここは私の顔に免じてここを通してはもらえませんか?」


「・・しょうがないですね。それでは、そこの女性が閻魔大王の補佐であることを証明するために、我々の出す謎に答えられたらこの門を通すことにしましょう。閻魔大王の補佐を務めるくらいなら、これしきの謎、簡単に解けるはずです。」


 どうやら、条件付きではあるものの天国の門を通る許可を得られたようです。しかし、門番たちの表情から伺うにまだ響のことを侮っているように思えます。どうして彼らはそんな態度が取れるのでしょうか。響ほど地獄で激務をこなしている人物はいないというのに。なんだか少し腹が立ってきました。

 しかし、響本人はその背後にどす黒いオーラを漂わせながらも、あくまでも平静な表情で門番に声をかけました。 


「御託はいいので、さっさとその謎とやらを出してください。」


「生意気な・・いいだろう。それでは謎を出そうではないか。」


 そう言って、門番が出した謎は次のようなものでした。


『ここに、天国へと続く門が二つある。ただし、一つは本物でもう一つは偽物の門だ。門の前にはそれぞれ門番が立っているが、一人は正直者の門番で、もう一人は嘘つきの門番だ。さて、この二人の門番のどちらかに一度だけ質問をして、正しい門を選ぶにはどんな質問をすればよいか?』


 謎を出した門番は、得意そうにニヤリと笑って、「貴様にこの謎が解けるか?まあ、小娘には無理だろうがな!」と早速勝ち誇っています。

 この謎に答えるのは響ですが、私は既にこの謎の答えは分かっています。こう見えても、昔あの嵯峨の馬鹿天皇から出された謎にも答えてみせた程こういった類いのことは得意なのです。

 この謎の答えは、ズバリ、どちらかの門番に、『お前ではないもう一人の門番に、「この門は正しい門か?」と尋ねたらそいつは「はい」と答えるか?』と尋ねることです。

 もし、尋ねた門番が正直者の門番で、彼の門が正しい門だとしたら、相手は嘘つきの門番なので、「いいえ」と答えるはずなので、正直者の門番は「いいえ」と答えます。

 また、尋ねた門番が嘘つきの門番で、彼の門が偽物の門なら、相手は正直者の門番なので「いいえ」と答えますが、尋ねた門番は嘘つきなので、「はい」と答えます。

 その逆に、正直者の門番の門が偽物の門で嘘つきの門番が正しい門の場合は、正直者の門番は「はい」と答え、嘘つきの門番は「いいえ」と答えます。何故そうなるかの考え方は同じなので省略。

 そして、どちらの場合でも、「いいえ」と答えた門番の門が正しい門となるのです。

 さて、この謎、私は頭の出来がいいので割と簡単に分かってしまいましたが、門番達が無駄に自信を持っているように、なかなか難しいです。果たして響はこの謎が解けるのでしょうか?不安半分、期待半分で響を見守ります。

 響は、しばらくその細い顎に手を当てて考えていましたが、徐に動き出すと、二人の門番の方に近づいていきました。お、謎が解けたのでしょうか。果たして、響はどちらの門番に質問するのか・・そんなことを考えていたら、何故か響は二人の門番の首根っこを同時に掴んで持ち上げました。


「「え?」」


 突然の事態に、驚きの声をあげる門番二人。響は、そんな二人ににっこりと笑いかけると、右手で持ち上げている方の門番に向かってこんな質問をぶつけました。


「それでは質問します。天国の門を守る門番でも、首を折ったら死にますか?」


 質問を受け、最初はぽかんとしていた門番でしたが、深まる響の笑みと、徐々に増していく首を絞めつける力にその質問の真意を悟り、二人揃って顔が真っ青になっていきます。


「あれ?質問に答えてくれないのですか?なら大丈夫ということで、このまま首をへし折らせていただきますね。カウントダーウン、さーん、にー、いーち・・」


「「ごめんなさい舐めた真似してすいませんでした!正しい門を教えますのでどうかその手を放してくださいぃ!」」


 涙目で必死に謝ってくる門番達を冷ややかな目で見つめ、「最初から素直に門を開けばこんなことをせずに済んだのです。」と言い捨て正しい門の方へと向かう様は、まさしく『黒の女王』の名に相応しいほど堂々としたものでした。

 私は、腹の底から込み上げてくる笑いを抑えることが出来ませんでした。響は、正攻法ではない予想外の方法でもって、本当にたった一度の質問だけで正しい門がどちらかを聞き出してみせたのです。なんと痛快で愉快なことでしょうか!

 やはり、彼女と居ると愉しいことが起こるな・・。そのことをしみじみと噛み締めながら、私は響の後に続いて天国の門を潜りました。


▼▼▼▼▼

 

‐そして、その数十分後。

 そこには、見事な土下座を披露する閻魔大王と天国の支配者である天使長の姿が。

 そして勿論、そんな二人を冷ややかな目で見下ろすのは我等が女王様である響です。


「さて、散々私と篁さんに散々迷惑をかけた罪はどう償ってくれるのですか?この豚共が。私、天国に侵入した罪人をブッ殺してやろうと決心していたんですけれど・・百辺くらい死んでみますか?」


「余、余はむしろお主に折檻されるためにわざわざ罪人に成り済ましてこの騒動を引き起こしたのだが・・ど、どんな風に余をいたぶってくれるのだ?」


「こ、これが閻魔っちの言っていた『黒の女王』・・。確かに、ボクも何か新しい性癖に目覚めそうな気がする・・。」


 そう、この一連の騒動、閻魔大王様が響にお仕置きをされるために仕掛けたモノだったわけです。通りで、あの牛頭と馬頭が倒されたはずです。しかし、何やってんだ地獄の支配者・・。

 ちなみに、今回閻魔大王に協力した天使長は、閻魔大王と同じく幼い女の子の姿をしています。しかし、水色のショートカットの髪に、下はホットパンツで上はサラシという、ドレスに赤マントがデフォの閻魔大王とは対称的なボーイッシュな姿です。

 ただ、今はお二人とも何やら恍惚とした表情で響を見つめており、地獄と天国の支配者とはとても思えない有り様になっていますが・・。

 その後、閻魔大王と天使長にみっちりお仕置きを加えた響は、何故か天使長に気に入られ、天使の称号を与えられました。

 そんなわけで、響は、閻魔大王の補佐で『黒の女王』でなおかつ天使というさらにカオスな存在に成り果てたのです。面白っ!

 流石の響も、この事態には困惑し、天使の称号は断ろうとしましたが、天使の称号に付随して付けられた特権の存在を知り、考えを改めたようです。

 天国に住まう天使だけが持つ特権、それは、『地上の生き物への観察と交信』でした。

 この特権の存在を知った響は、何を考えたか天使の称号を受けることを決めたのです。

 さて、彼女はいったい何をするつもりなのでしょうか。私に分かることは、彼女が何をするにしても、彼女の側にいれば愉しいことが見れるということだけです。

ちなみに、本編で篁が語っていた嵯峨天皇が出したと言われている謎は、「子子子子子子子子子子子子」を読めというモノだったそうです。

 この謎に対し、篁は「猫の子子猫、獅子の子子獅子」と読んでみせたという逸話が残っています。

 次回は、久しぶりに視点を戻して、依頼に突入します。

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