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第四話:サトリが視た未来

今回は後半少しシリアスです。

『「・・はい、というわけで今から未来視の方を始めたいと思いまーす。」サトリは澄ました顔でそう言った。』


「なに何事もなかったかのように始めようとしとるんや!さっきの歌いったいなんや!?」


 音楽を止め、何事もなかったかのようにけろっとしているサトリに舞がツッコミをいれてくれた。

 あ、良かった・・。やっぱりあれはツッコんでいいやつだったんだな。舞さんは俺より年下なのに頼りになるな。

 俺がそんな感想を抱くなか、サトリはあくまでもマイペースに話を進めていた。


『「あれは集中力を高めるために必要な儀式みたいなものだ。未来視はかなり難易度の高い技だからな。」サトリはおもむろに舞の額に自分の額を近付けつつそう言った。』


「いや、あの歌むしろ集中力切れそうな感じがするんやけれど・・って、サトリちゃんいきなり何するん!?顔近い近い!」


 会話の流れで自然に額を近付けて来たサトリに、舞が慌てた様子で顔を赤らめる。しかし、サトリはそんな舞の様子は一切気にせずに、熱を測る要領で自分の額を舞の額にコツンとぶつけた。ただし、聞こえてきた音は随分鈍いものでとてもコツンという感じではなかったが・・。案の定、舞は額を押さえて地面に転がっている。対するサトリは全く痛がる様子を見せていない。

 

「いったー!?サトリちゃん、いきなり何するねん!びっくりしたやろ・・。」


 しばらくして起き上がった舞は涙目でサトリを睨み付けたが、非難の言葉は尻すぼみになっていく。

 それは、焦点の合っていない目で舞を見つめるサトリの異様な様子を目の当たりにしたからであった。しかし、その異様な様子は一瞬で、サトリは目をつぶると静かに言葉を紡ぎ始めた。


『「・・お前は、故郷で昔の友人と再会するだろう。そして、その友人の助言を信じれば、お前の大切な人を守ることができる。」サトリは、舞の未来をそう告げた。』


 サトリの口から告げられたその予言に、舞はしばらくポカンと口を開けていたが、少ししてぼそっとこう呟いた。


「・・なんや、やたらと意味深な予言やな。その予言が本当なら、うちかなり重大な役目を担ってるみたいなんやけれど。」


『「私の告げる未来は絶対だ。それは、運命というものが不変のモノである限り変わることがない。私の予言を受け、せいぜい賢い選択をすることを願うよ。」サトリは、真面目な顔でそう告げた。』


 サトリの口から告げられた舞の未来の意味深な内容に、シーンとその場が静まりかえってしまう。

 そんな空気を払うかのように、"ご隠居"がやたら明るい声でサトリに話しかけた。


「そうじゃ!折角じゃから儂の未来も視てはくれぬか?こんな機会はなかなかないのでのう。」


「そうですね!じゃあサトリちゃん、俺の未来も視てくれるかな?」


 "ご隠居"の言葉に便乗する形で、俺もそうサトリに頼んでみる。この微妙な空気を何とかしたいという理由もあるが、半分以上は純粋に自分の未来に興味がある故の提案である。

 サトリは、"ご隠居"と俺の頼みを快く受け入れてくれた。曰く、一度貯めた集中力はしばらく続くので未来視などで使わなければもったいないらしい。

 ちなみに、晴明に一緒に未来を視て貰いませんか?と言ったところ、「俺は自分の未来には興味がないからいい。」と言われた。花と空も別にいいということで、俺と"ご隠居"の二人だけが改めてサトリに未来視をしてもらうことになった。

 まずは、"ご隠居"の番である。サトリは、先程舞にやった時と同じように、"ご隠居"の額に自分の額をぶつける。そして、またもや鈍い音が響いたが、今度はぶつけたサトリの方が痛そうに額を手で押さえ、"ご隠居"は澄まし顔で佇んでいた。

 

『「くっ・・!この石頭め・・!」サトリは涙目でロリ婆さんを睨み付けた。』


「ふふふ、儂は頭突きでダイヤモンドを砕けるのが自慢じゃからな。それより、早く儂の未来を告げぬか。あと、その呼び名は止めろと前も言ったじゃろ。」


 "ご隠居"に軽い威圧と共に未来視の結果を促されたサトリは、『馬鹿な。ダイヤモンドは砕けないはず・・クレイジーダイヤモンド・・。』などとぶつぶつ呟いていたが、やがて渋々といった感じで未来視の内容を告げた。


『「・・お前は、身近な人物からの思わぬ攻撃を受け、激怒するだろう。そして、その怒りは新たな災いを呼ぶ・・。」サトリは、ロリ婆さ・・じゃなかった。似非ロリの未来をそう告げた。』


「これはまた、なんとも意味深な内容じゃのう・・。あと、その似非ロリとはなんじゃ。」


 "ご隠居"は、告げられた未来の内容とは裏腹に、非常にあっけらかんとした雰囲気を醸し出している。そんな"ご隠居"の様子に疑問を抱いたのか、舞がこう尋ねた。


「"ご隠居"ちゃん・・アンタ怖くないんか?身近な人に攻撃を受けるとか災いを呼ぶとか、めっちゃ不吉な予言やんか。」


「うーむ・・確かに不穏な内容ではあるが、今から気にしていてもしょうがないじゃろ。もしその時が来れば、その時考えればいい。むしろ、今未来を知ったことで儂はその攻撃とやらを警戒することができるわけじゃ。サトリはああ言っておったが・・儂は運命は変えられると思っておる。じゃから、もし予言の通り災いがやってくるとしても・・儂はそれを自らの力で払ってみせようぞ。」


 そう言ってどこか不敵な笑みを浮かべる"ご隠居"は、自らの未来に全く恐れを抱いていない様子であった。そんな"ご隠居"を見て、それまでかなり不安気な表情をしていた舞の顔も少し晴れたようであった。

 ・・もしかして、"ご隠居"さんは舞さんの不安を取り除くためにあえて未来視を受けたのかな?

 もしそうだとすれば、流石としか言いようがない。晴明も俺と同じことを思ったのか、「流石だな、"ご隠居"!」と"ご隠居"を褒め称えていた。"ご隠居"は、「はて、なんのことじゃ?」と惚けてはいたものの、晴明に誉められて少し頬を赤く染めていたのは可愛らしいなと思った。


『「・・おーい、響也。ここに美少女がいて今からチューできそうなくらいの至近距離まで顔を近付けようと言うのに、他の女のことを考えるとはなかなかやるではないか!」サトリは怒りを込めて響也の額に頭突きをかました!』


 サトリのこの声にあっと思った時には既に遅く、これまでよりも数倍強い勢いで額をくっ付けられた俺はあまりの痛さにぐわー!っと呻き声をあげて悶絶してしまった。額が触れた時、勢いがありすぎて別の柔らかい何かが頬に当たった気もしたがそんなことを忘れるくらいの物凄い痛みにただただ地面を転がる。

 しばらくそうしていた俺だが、前の二人の時ならサトリが予言を口にするタイミングになってもサトリの声がいっこうに聞こえてこないので気になって顔を上げる。

‐するとそこには、真っ青な顔をしたサトリの姿があった。

 表情が顔に出ないはずのサトリの顔に現れた明らかな変化に、思わずぎょっと目を見開くと、俺が顔を上げたことに気付いたサトリはすっと元の無表情に戻った。そして、何事もなかったかの様子でこう告げた。


『「・・響也、お前は、絶世の美少女であるサトリちゃんと結婚するだろう。なお、これは運命なので絶対なのです。」サトリはニヤリと笑みを浮かべてそう告げた。』


 どんな衝撃的な未来を告げられるのかと内心ガクガクしていた俺はその内容に思わずガクッと崩れ落ちる。そして、明らかに違うであろうその予言の内容に文句をつけた。


「ちょっとサトリちゃん!真面目に未来を視てよ!」


『「私は大真面目だが?少なくともこれは私の中で確定事項だしな。それに、さっきのロリ婆さんの未来視で疲れたから今日はもう寝たいので部屋に帰っていいか?」サトリは気だるげにそう言った。』


 そのサトリの発言に舞が呆れた表情を浮かべる。


「アンタ、じゃあやっぱり響也さんの未来視はちゃんとやってないんやないか。しかもさっき起きたばっかりやろ・・。」


 俺も舞とだいたい同じ気持ちではあったが、こんな能力を使った後では疲れるのも確かであろうし、自分の未来視のことは諦めて部屋へと戻っていくサトリのことを見送った。しかし、いつもなら、サトリが『響也も一緒に寝るか?』などと言ってくるところだが、よほど疲れているのか、俺に目を向けることすらせずに部屋に戻っていった。

 そして、そのことに少し寂しさを感じた自分に対し、内心苦笑を浮かべる。サトリから好意を向けられることが当たり前だと思っていた自分に気付いたからだ。

(本当に、俺ってダメな男だな・・)

 サトリの好意を拒んでおきながら、それを当たり前のものだと思っていた自分に、嫌悪感を覚える響也であった。


▼▼▼▼▼


『「・・そこにいるんだろう。ロリ婆さん。隠れてないで出てきたらどうだ?」』


 自分の部屋へと戻ったサトリは、しばらくベッドに顔を埋めていたが、ふと慣れた気配を感じ、顔はベッドに埋めたまま、そう声をかけた。


「やれやれ。やはりお主相手には簡単に気付かれてしまうのう。まあ、最初から気配を隠すつもりはなかったんじゃが。」


 そう声が聞こえると同時に、"ご隠居"がサトリのいるベッドにふわりと降り立った。着地の際ベッドが軋む音すら立てない。まるで羽根のような軽やかな動きに内心舌を巻きつつ、サトリは"ご隠居"に話しかけた。


『「いったい何の用だ?私は眠いと言ったはずだが。」』


「惚けるでない。先程の未来視、お主一体何を視たのじゃ?明らかに響也の未来視をしてからのお主の様子がおかしい。正直に話すのじゃ。」


 やはり、ばれていたか・・。サトリは内心そう苦笑しつつ、顔を上げた。そのサトリの顔を見た"ご隠居"が驚きの声を上げる。


「お主、泣いておるのか・・!?」


 しかし、サトリは"ご隠居"の声は無視してただ自分が"視た"事実のみを告げた。


『「・・響也は、二週間後に死ぬ。」』


「な!?」


 その衝撃の事実に、流石の"ご隠居"も言葉を失う。そんな"ご隠居"に、サトリは何故か止まらない数百年ぶりくらいの涙に戸惑いつつも、こう言葉を投げ掛けた。


『「・・なあ、"ご隠居"。貴女はさっき、運命は変えられると言ったな。ただ、私は自分のこの力のことをよく知っている。知っているからこそ・・この未来が変えられないことが誰よりもよく分かる。なあ、教えてくれないか?私は、どうすれば響也を救うことができるんだ?」サトリは涙を流してそう懇願した。』


 サトリのその問いかけに、"ご隠居"はすぐに答えを返すことができなかった。

次回、ようやく依頼人がやってきます。

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