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第二話:チーム『百鬼夜行』、朝の集い

「なあ、“ご隠居”。近似値って言葉を知っているか?有名なところでいえば円周率がそれにあたる。円周率は3.14159と続いていくが、どれだけ続けても真の値をとることができない。だから、基本的に計算では3.14という数字を使うんだ。実際、小数点3位以下の数字などカスみたいに小さい数字だからこの近似値は真の値とほぼ同じと言えるだろう。また、数学では1と0.99999999・・を同じとする考えがある。これは、『ある数字を同じ数字で割ってかけたら元のある数字に戻る』という小学生でも分かる理論から導き出される考えだ。」


「・・・つまり、お主は何が言いたいのじゃ?」


「だから、俺が『和菓子詰め合わせ』の中の『もち最中』を食べたと言ってもそれは気にするまでもない誤差の範囲であり、1と0.9999999・・のように本質は変わらないのだから俺がお前に怒られる筋合いはないという・・」


「ほほう!つまりお主は儂の好物の『もち最中』をカス同然と言いたいわけか・・。屁理屈はいい加減にするのじゃ!儂の『もち最中』を返せぇぇぇ!!」


 リビングに出てきた途端、俺が聞いたのは無駄に長々しい晴明の言い訳と、それを非難する“ご隠居”の可愛らしい声だった。


『「あいつらは朝っぱらから何をやっているんだ・・。」サトリは呆れ顔でそう言った。』


 隣のサトリの台詞に、俺も苦笑いを返す。・・声にさえ出さないものの、俺も大体同じ気持ちだった。こんな朝からよくやるなーと。

 俺を雇ってくれたこの店の店主、安倍晴明は、初対面の時は高校生かと勘違いしたくらい見た目は若々しい。彼の年齢が俺よりも上だと知った時は思わず吹き出してしまったほどだ。しかし、彼の、その黒い髪と同色の瞳の奥に宿る強い光を見れば、彼が俺よりも年上であるという事実が不思議と納得できたのも確かだった。・・今目の前で土下座している姿からは、そんな威厳は全く感じないが。

 そして、土下座する晴明の前で仁王立ちしながらやや涙目で晴明を睨み付けているのは、晴明と同じ黒髪の美少女、晴明の式神の“ご隠居”である。彼女は、主である晴明以上に不思議な存在だ。

 まず、その見た目からして普通ではない。先述した黒髪は、それが光とは正反対な存在であるにも関わらずいつもキラキラと輝いている。その様を形容するなら―彼女の髪を形容する時皆が言うたとえだが―まるで夜の闇、それも満点の星空のような美しさである。そして、その髪が流れる先には、彼女を着飾る美しい着物がある。この着物には彼女自身もこだわりがあるのか、これまで一度も被ったデザインのものを見ていない。サトリも、『あのロリ婆さんは毎回着るものが違う。』と言っていた。ちなみに、ロリ婆さんとは“ご隠居”のことで、サトリの着る服は一張羅のパジャマだけである。

 なぜ、サトリが“ご隠居”のことを『ロリ婆さん』と呼ぶのか。それは、彼女がどこからどう見ても幼い女の子、つまり幼女にしか見えないからである。それなのに実際はこの店で最年長であると聞かされた時は流石に魂が抜ける思いだった。


「おはようございます。晴明さん、“ご隠居”さん。・・相変わらず仲がよろしいですね。」


 流石に晴明が可愛そうに思えてきたので、俺は二人に挨拶することで晴明の土下座をやめさせようとした。この作戦は効いたようで、“ご隠居”が「おはようなのじゃ。響也。」とこちらに顔を向けて挨拶した隙に、晴明は立ち上がり何食わぬ顔でテーブルにつき朝食を食べ始めた。

 さっきまで怒られていたのに流石にその態度はないでしょう・・。と思ったが、怒っていた張本人である“ご隠居”も何事もなかったかのように食事を食べ始めたので、おそらく晴明のことは許してあげたのだろう。

 そんな二人にサトリと顔を見合わせ肩をすくめつつ、俺達も食卓についた。その際当然のようにサトリは俺の膝の上に座ってきたが、流石にこれは邪魔だ。


「ちょっと、サトリちゃん、流石に食べにくいよ。」


『「ここが私のサンクチュアリだ!」サトリはドヤ顔でそう言った。』


「いや、意味わからないし・・。それに、食べにくい以外にも膝から降りてほしい理由はあるんだけれど・・。」


 俺は先ほどから感じる視線の方向に、おずおずと顔を向ける。そこには、案の定殺気むき出しでこちらを睨み付けてくる、この店に住んでいる座敷童の姉弟の姉の方、花の姿があった。


「・・私のサトリを横取りしやがって。あの男、えげつなく反社会的な方法でぶっ殺してやるわ・・!」


 ・・何やら不穏な台詞が聞えてきた気がするが、気にしないようにしよう。あーんを強制的にしてこようとするサトリとその度膨れ上がる殺気に冷や汗をかいている時、ようやく待ちわびた救世主が姿を現した。


「こら!花アンタ響也さんをそんな風に睨み付けたらアカンやろ!・・あ、響也さんおはようさん。それに“ご隠居”ちゃんもおはよう!響也さん、うちの子らが迷惑かけてゴメンな~。」


「おはようございます舞さん。・・って、その髪どうしたんですか!?」


 俺と同じくこの店で住み込みで働く存在であり俺にとっては仕事の先輩である上に響の親友でもあった彼女。そして座敷童達の実質親代わりでもある舞の登場に思わずほっと胸を撫で下ろし振り向いて・・彼女の髪を見てギョッと目を見開く。

 見ると、無表情なサトリはいつも通りだが、“ご隠居”も彼女の髪を見て驚いた様子であった。晴明は一人、「おい、なんで俺への挨拶はないんだ?」などと言っていたが・・。

 そんな皆の視線を一編に受けた舞は、照れくさそうに頭を掻きながらこう言った。


「あははは・・。やっぱり変よな。うちも正直そう思っとるわ・・。」


「いや、変ということはないのじゃが・・お主、その髪の色はどうしたのじゃ?」


 そう、“ご隠居”が尋ねたように、いつもはピンク色に染めているはずの舞の髪が、何故か今日は晴明や“ご隠居”と同じ黒色だったのである。


ちなみに、響也の髪は暗めの茶髪です。

次回のタイトルは未定。今回思ったより話が進まなかった!

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