第七話:サトリの事情
おまたせしました。サトリの事情が明らかになります。
『「私がこの店にした依頼・・それは無期限の保護だ。」サトリはぽつりとその事実を述べた。』
サトリが俺に事情を話してくれることになったため、俺とサトリは正面から向き合う形で座っている。既に事実を把握済みの晴明と"ご隠居"は、俺の後ろに控えてくれていた。
「『無期限の保護』?いったい何に対する保護なんですか?」
俺がサトリにそう尋ねると、サトリは俺から目を逸らし明らかに返事に躊躇う素振りを見せた。
そんなサトリに、後ろの晴明からフォローが入る。
「サトリが俺にしてきた依頼は、『追っ手からの保護』だ。・・その追っ手が何者かも俺が話そうか?」
晴明がサトリにそう問いかけると、サトリは一瞬迷ったように目を泳がせたが、すぐ首を横に振って真っ直ぐ俺の方を見てきた。
『「・・いや、ここはちゃんと私が話しておくべきだ。ただ、私が何を言ってもなるべく驚かないでほしい。」サトリは覚悟を決めた目でそう言った。』
そのサトリの真剣な様子に俺も自然と息を呑む。ただ、驚かないでほしいというくらいだからその追っ手は相当ヤバイ人物なのだろう。よし、俺も覚悟を決めたぞ!どんなヤバイ奴が追っ手でも驚かない!
そんな俺の覚悟は、次にサトリの口から語られたその追っ手の名前を聞いた瞬間、呆気なく打ち砕かれることとなった。
『「私を追っている奴ら・・それは、この国、日本の政府の連中たちだ。・・奴らは、私の力を政治に使おうと狙っているのさ。」』
へー、そうなんだー。日本政府がねー。・・・・
「えーーーー!!?」
俺の絶叫が、店の中に木霊した・・。
▼▼▼▼▼
それから数分後。
そこには、すっかり拗ねてしまったサトリと必死で謝る俺、そしてそんな俺たちを見て爆笑する晴明と我関せずと言った様子でお茶を飲む"ご隠居"という何ともカオスな状況が広がっていた。
『「・・驚かないでって言ったのに。響也めちゃくちゃ大きな声で叫んでた。鼓膜が破れるかと思ったぞ。」サトリはショックを受けた様子でそう呟いた。』
「いや、叫んじゃったのは悪かったよ。でも、あんなことを聞いて流石に驚くなっていうのは無理があると思うんだ・・。」
確かにヤバイ奴らが関わっているとは思っていたよ?でも誰が国が関わっているとか想像できるんですか!?一庶民の俺がこんな大事知ってよかったの!?
『「・・だから私も話すのを躊躇ったんだ。知ってしまえば、関わらずにはいられなくなるからな。」サトリは後悔を顔に滲ませつつそうぼやいた。』
そんなサトリに対し、晴明の態度は非常にあっさりとしたものだった。
「どっちみちこの店で働くからにはいつか知ることになっていただろう。それが早いか遅いかだけの話だ。」
そう言うと、今度は俺に向かいにいっと笑みを向けてきた。
「良かったな響也。これは鏡夜でさえ知らなかったことだ。それを1ヶ月も経たないうちに知ったお前にはなかなかに見込みがあるぞ?」
いやあ、そんな所で見込まれても困るんですけれど・・。
「そんなことで誉められても響也も困るだけじゃろうが!」
"ご隠居"が晴明の頭をスパァン!と叩き戒める。この二人は本当にいつも通りだなあ・・。
「あの・・晴明たちは驚かなかったのですか?サトリちゃんから依頼を受けた時・・。」
俺が二人にそう尋ねると、二人は揃って顔を見合せた。
「いやあ、だって・・なあ?」
「そうじゃなあ・・。」
「「俺たち(儂ら)は、もっと驚くような体験してるからなあ?」」
そんな二人に、俺は頼もしさを覚えると同時に、いったいこの二人はどんな体験をしてきたのだろうと半ば飽きれもした。
サトリはと言えば、そんな二人のやり取りをぽかんと口を開けて見つめていた。先程まで真面目に話していたにも関わらず、突然二人の空気となってしまい困惑しているのだろう。安心しろサトリちゃん。俺も同じ気持ちだ。
そして、晴明と"ご隠居"の二人はなおもマイペースで話を進めていく。
「さあ、これでサトリの事情は分かっただろ?サトリが国という大きな組織に狙われている以上ここにいるのが一番安全なんだ。」
「そうじゃ。サトリにも思うところはあろうが・・儂らもお主の依頼を受けておる身として・・お主を外に出す訳にはいかぬ。分かったな?」
そう言ってこちらににこりと笑みを向けた"ご隠居"の目はしかしながら全く笑っていなくて・・俺とサトリは、ただ頷くことしか出来なかった。
次回のタイトルは未定。明日は更新休みますね。