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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第一章 魔剣の覚醒
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第8話 全能強化と紫紺光剣

だいぶまどろっこしい話になっています。

 森の中で初めて魔法を使った時、頭の中に漠然とした知識が流れ込んできた。

 だからモンスターを吹き飛ばした時、誰にも教わらずに適正魔力、無属性魔法が関係しているって分かったんだ。

 だけど今回はあの時の比じゃない。もっと鮮明に、詳細に、望んだ知識が頭の中に焼き付けられている。まるで最初から知っていたかのように、この力の使い方を理解できる。

 やっぱり初めてスキルを使うことが、俺に何らかの影響を与えているのか?


 『シュウ? ……傷が塞がって……!?』

 「はぁ……はぁ……こりゃ……下手したら死ぬな」


 スキルが発動した途端に俺の体は修復を始めた。同時に、立っているのも辛くなる。

 体の中にどっと疲れが蓄積される感覚。魔剣がいつも以上に重く感じられた。

 どうやらこのスキル、発動中は常に体力を消耗し続けるらしい。

 少しでも気を抜くと倒れそうだ。これじゃ、精々数分くらいしか動けそうにねーな。

 だけど、それ相応の力が今の俺には宿っている。そのことに関してだけは流石勇者の力だと褒めておこう。

 俺は一度深呼吸をして、それから地面を思いきり蹴りつけた。


 「――フッ!」


 爆走する。


 『――――ッ!?』


 カルマウィザードとの間合いを一気に食い潰し、俺は勢いのままに黒の剣閃を走らせる。

 魔剣の一撃は寸分違わず相手の腹部を直撃し、そのまま遥か後方までぶっ飛ばした。


 「おらぁあああああああああああ!」


 カルマウィザードは、くの字に折り曲がった体勢で洞窟の最奥に叩き込まれる。

 その直後に響いたのは爆砕音。あまりの衝撃に周辺の岩壁は皹が入り、天井からパラパラと岩の欠片が降って来た。

 今までの戦いでは垣間見ることもなかった展開に、俺は勝機を見出しかける。

 しかし――。


 「……硬すぎだろ……くそ!」


 揺らめく大気の中で、風を切る音が聞こえてくる。

 砂煙を切り裂き、姿を現す黒の鎧。

 全身の物質化を終えたカルマウィザードが、窪んだ岩壁を背景にして、ゆらりと立ち上がっていた。


 『――――』


 分かってはいたが、認めたくなかった。

 どうやらスキルで強化しても、完全体になったボスの力を上回ることはできなかったらしい。

 まるで泣くことしか知らなかった赤子が、知識を覚えて寡黙な大人に変わったような、そんな静かな空気がカルマウィザードの周りに漂っていた。

 だけど驚いている暇は無い。俺の力はあいつと違って制限時間があるのだから。

 俺は眦を吊り上げて剣を構える。


 「行くぞ……!」

 『――ッ!』


 俺達は互いに地を蹴り、地面を粉砕し、己の武器を振るって激突した。

 先に相手の体に届いたのは、沈黙したまま繰り出されたカルマウィザードの黒爪。

 今までとは段違いの難撃によって、俺は防戦一方を強いられた。

 相手の攻撃は決して洗練されたものじゃない。しかし、単調でありながら俺を瞠目させるほどの威力と速度を秘めている。

 これまで体験したことのない暴力の嵐が、狂ったように連続して振るわれ、容赦なく衣服ごと肌を抉っていく。俺の胸中で鼓動が激しく鳴り打った。

 さっきの寡黙な大人が……って言う感想は無しだ。これは癇癪を起こした馬鹿な怪力男という感じだぜ。

 眼前を通過する攻撃を防ぐと、今度は視界の隅から四本の黒爪が急迫する。俺はそれを何とか回避し、負けじと魔剣を振り回す。

 しかし倍の斬撃に押し返され、頬と腕にぱっくりと赤い筋を刻まれた。

 能力差はそこまで離れていないが、持てる武器の数が圧倒的に違いすぎる。これじゃあ俺の不利は変わらねーじゃねーか!


 「このやろぉ!」

 『――!』


 俺は制限時間がぐっと減るのを覚悟して、自分の腕力を更に強化する。

 力技で強引に相手の攻撃を押し返し、僅かに見えた隙を突いて、魔剣の切っ先をねじ込んだ。

 しかし、渾身の一撃はあっさりと防がれる。

 カルマウィザードは素早く自分の腕を引き戻し、交差するように防御姿勢を取ったのだ。

 だけど別に気にする必要はない。なにせ俺の狙いは、カルマウィザードを傷付けることではないのだから。

 俺はニヤリと唇を持ち上げ、魔力の衝撃波をイメージする。

 無詠唱で構築された【バーストフォース】が発動し、相手の首に掛けられていた白銀の紐を揺らし、吹き飛ばした。

 それに合わせて蛍光色の鍵が宙を舞っていく。俺達は咄嗟に頭上を仰ぎ見て、同時に鍵の奪い合いを始めた。


 「取らせるかよ!」

 『――!』


 最初に鍵に触れたのは俺より身長が高いカルマウィザードだったが、その手で掴み取ることはかなわなかった。

 初めて奴の長所が欠点に変わった瞬間だ。その長すぎる爪が鍵に当たり、見当違いの方向へ弾いてしまったのだ。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 思考能力が強化されている俺は、人間離れした速度で鍵の軌道を予測できる。

 カルマウィザードの爪に弾かれた鍵が頭上から離れていく前に、俺はその手を伸ばしていた。そして、ギリギリのタイミングで鍵を掴むことに成功する。


 『――ッ!』


 ――直後、カルマウィザードの斬撃が幾多に渡り襲い掛かってきた。

 回避不可能の攻撃が容赦なく俺の首を狙ってくる。間違いなく即死の一撃だ。

 しかし、俺には地味魔法(わるあがき)という手段がある。


 「【バーストフォース】!」


 最早俺の十八番とも呼べる無属性魔法が吹き荒れる。

 体内から魔力の衝撃波が放たれ、迫る黒爪を押し返した。

 その隙にカルマウィザードから距離を取り――俺は入手した鍵をアンの傍に近づける。


 『――シュウ……ごめんなさい。私……!』

 「気にすんな。これがお前の封印を解く鍵だったんだろ? 俺だって、記憶を取り戻す術が目の前にあったら、同じように暴走してた自信がある」

 『……ごめん……ありがとう』


 アンは涙を堪えるような震える声で礼を言い、刀身に埋め込まれた深紅の魔石を輝かせた。

 すると蛍光色の鍵は同色の粒子に変わり、魔石の中に吸い込まれていく。

 同時に、ドクンッ、という脈動を感じさせ、漆黒の刀身は紫紺の光を纏い始めた。

 その様子はまるで炎が無限に溢れ出ているようだ。

 揺らめく光が空に向かって立ち昇るように、神秘性を放ちながら魔剣全体を包み込んでいく。


 「……これは……!」

 『――第一形態【紫紺光剣(イレイザー)】。私の本来の姿よ。ちなみにこの姿だと正真正銘の超絶剣技が使えるわ。と言っても、ここだと狭すぎて使えないんだけど』

 「んだよ、拍子抜けだな。てっきり一撃であいつを葬れるかと思ったのに」

 『大丈夫よ。今の私達なら、普通に戦っても余裕で勝てるから』

 「だーかーらー、その余裕はどっから来るんだっての!」


 すっかり本調子に戻ったアンに呆れながら、俺は【全能強化(ゼウスブースト)】を解除する。

 本当ならもう少しスキルの恩恵に頼りたかったが、これ以上使うのはマジでヤバイ。今の俺の体力では精々二~三分程度しか強化していられないのだ。

 無理をすればもう一分くらい頑張れそうだが、それをやると多分、取り返しの付かないことになる。

 まあ、アンの封印が解けた以上はスキルに頼る必要もないけどな。


 『――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 「んだよ。また吼えんのか? うるせぇから黙ってな!」


 カルマウィザードは怒りを爆発させるかのように絶叫し、高速接近してきた。

 今の俺にはあいつの速さに対応することはできない。だから行うのは防御姿勢。

 相手が黒爪を振りかざす前に魔剣を翳して受け止めた。

 紫紺の刃と黒の剣爪が交差する。

 しかし、そこから鍔迫り合いに発展することはなかった。

 

 『――ヴォ!?』

 「……事前に話は聞いていたが、こりゃすげーな」

 

 【紫紺光剣(イレイザー)】は触れた物を消滅させる――『断絶』という能力を持っている。

 この力に対抗出来るのは同等の能力を持った魔剣だけだ。それ以外であれば、魔法だろうがモンスターだろうが防ぐことは出来ない。 

 事実、カルマウィザードの黒爪は紙切れのようにあっさりと切断されていた。

 カランッ、と音を立てながら四本の爪が地面の上を転がっていく。

 俺はその様子を視界の隅に捉えつつ、魔剣の切っ先を前に向けた。


 『~~~~~~~~~~~っ!』


 予想外の事態に驚いていたのだろう。動きを止めたカルマウィザードは、格好の的だった。

 俺はカルマウィザードの胸板――心臓の位置を躊躇いなく貫く。

 そのまま持ち手の向きを変えて、突き刺した剣を頭上に向けて振り抜いた。


 「ああああああああああああっ!」


 紫紺の剣閃が縦に昇り、漆黒の頭部を分断。

 カルマウィザードは血飛沫の代わりに大量の瘴気を撒き散らし、声無き絶叫をあげながらその姿を霧散させていった。

 まるでボスモンスターの死を告げるように漆黒の瘴気は浄化され、大気と混じりながら跡形も無く消滅していく。

 そして最後に残ったのは、ドロップアイテムらしき黒いローブだけだった。

 俺はカルマウィザードが完全に消え去ったことを見届け、掠れた声で笑う。


 「これで――」


 ――終わりだ。

 そう言おうとして、俺は抗うことなく地に伏した。

 緊張の糸が千切れ、蓄積された疲労が決河の勢いで押し寄せてくる。

 起きる気力すら湧いてこない。この戦いで乱れた呼吸を整えるので精一杯だ。

 こうして、俺の意識はあっという間に闇の中に流されていった。

 ただ、意識が途切れる直前に、俺は誰かの嬉しそうな声を……聞いた気がした。


 『ボス攻略、おめでとう』

一章の終わりまであと一話。

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