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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第一章 魔剣の覚醒
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第7話 覚醒前兆

 【ライト】によって生み出された光球が、洞窟の天井に待機している。

 その光の下で、二つの影が幾度もぶつかり、激しい動きを見せていた。

 それほど広くない洞窟内で、金属音が反響する。漆黒の剣閃が互いを弾き、辺りに無数の火花を散らしていた。


 (――よく見ろ)


 シュウは黒の双眸に意識を集め、相手の攻撃を全力で回避する。

 腕の振り方、体の向き、お互いの配置。先読みのヒントは何処にでも転がっている。

 観察眼に長けたシュウにとって、敵の行動を予測するのはそう難しいことではなかった。


 (――相手の動きを……見極めろ!)


 純粋な身体能力ならカルマウィザードの方が圧倒的に上。

 相手が動き出してからじゃ遅すぎる。だから、その前に対処しなければならない。

 シュウは思い切り地を蹴り、全速力でカルマウィザードに特攻を仕掛けた。


 『――オオオオオオオオオオ!』

 「うるせぇええええええええええええええええええええええ!」


 シュウにできることは限られている。

 出来損ないの勇者には、ボスモンスターにも一歩及ばない程度の戦闘力しかないのだ。

 しかし、そんなことは一週間前から分かっている。だからこその悪足掻き。

 諦めない。勝つまでひたすら挑み続ける。大丈夫、死なない限り負けはしない。

 シュウは不安を吹き飛ばすように声を張り上げ、両手で魔剣を握り締めた。

 

 『オオオオオオオオオオ!』


 カルマウィザードも負けじと己の両腕を振りかざす。計八本の剣爪が縦横無尽にシュウの進行を遮った。

 しかし、シュウの勢いは止まらない。

 凄まじい速度で繰り出された斬閃を掻い潜り、怪力任せの横薙ぎを魔剣で受け止め、ずらし、威力を散らす。

 僅かに生じた隙に踏み入り、カルマウィザードの懐に侵入。魔剣を上から下に振り抜いた。


 『――――ッ!?』


 縦一閃に切り裂かれたローブから、充満した瘴気が溢れ出す。それに構わず、シュウは二度、三度と魔剣を翻し、連続で鋭い斬撃を繰り出した。


 (シュウ……やっぱりアンタは……強い!)


 主の望むがままに振るわれる魔剣は、突如変貌を遂げた太刀筋に歓喜する。

 これまでのシュウは安全を最優先にした一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)という戦法を取っていた。

 だが今は違う。

 今のシュウは、限界まで己の命を危険に晒して戦っている。

 敢えて自分を追い込むように、防御する時間すら惜しむように、純粋に攻撃だけを繰り返す。そんな無謀にも思える戦い方を好んでいた。


 「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 シュウは体を素早く回転させ、襲い掛かる剣爪を避けつつ相手の背後に回り込んだ。

 間髪入れずに叩き込む魔剣の一撃。

 漆黒の軌跡は黒ローブの上を走り抜け、カルマウィザードの背中にバツ印を刻みつける。


 『――オオオオオオ!』

 「……なんだアレ? ……鍵?」


 耐久性に限界を迎えた黒ローブが崩れ去り、カルマウィザードの実体が明らかになる。そこでシュウは初めて疑問の声をあげた。

 カルマウィザードの姿を一言で例えるならば「影が実体化したようなもの」である。

 漆黒の瘴気が揺らめきながら人の形を形成しており、唯一物質化しているのは両腕から鋭い爪先にかけてのみ。顔と思しきものは何処にも存在しなかった。

 そんな生物とも呼べない化け物の首には、およそ似つかわしくないものが掛けられている。それが白銀の紐に通された、蛍光色の鍵であった。


 『……まさか……!』


 続いて震えるような声で呟くアン。

 彼女は刀身をブルブルと震わせると、次には怒りを孕んだ声で思い切り叫んだ。


 『それを寄越せぇえええええええええええええええええええええええええええ!』

 「――っ!?」


 突然発動する魔剣の補正機能。

 シュウは暴走した魔剣に引っ張られて、気が付けば勝手に前へと飛び出していた。

 それに反応して両腕を交差するように繰り出されたカルマウィザードの剣爪。

 半ば体を操られたような状態のシュウに回避行動は不可能。

 咄嗟に無詠唱で【バーストフォース】を発動させ、交差された剣撃を押し返した。

 その間もアンの勢いは止まらず、シュウはカルマウィザードのすぐ傍まで誘導される。


 「――ぐはぁっ!?」

 『シュウ!?』


 そしてシュウの体は、いとも容易く吹き飛ばされた。

 決河の如き勢いで体が宙を飛んでいき、離れた岩壁に叩きつけられる。


 「かはっ……!」


 背中から伝わる衝撃がそのまま激痛となり、肺の中から空気が奪われた。上手く呼吸ができず、シュウは意識を朦朧とさせながらうつ伏せに倒れる。続けて大量の血を口から撒き散らした。

 何とか立ち上がろうと体を動かすが、すぐに表情を歪め、膝を付いてしまう。鈍い痛みを感じて腹部を触ると、ぬめりとするものが手に付いた。


 「……ああ……くそったれ……」

 『シュウ! ごめんなさい! 私……!』


 べっとりと赤く染まった右手を眺め、シュウは弱々しい声で悪態を吐く。傍に落ちていた魔剣からは、泣き叫ぶような少女の声が必死に謝罪の言葉を紡いでいた。

 しかしシュウは何も返事を返さない。アンはますます声を震わせて、何度もシュウの名前を呼んだ。


 (……驚いたな。まさかあんな攻撃パターンもあったのか)


 シュウはぼやけた視界に映る、カルマウィザードの姿に瞠目していた。

 両腕を除いて全てが瘴気のままだったモンスターは、現在、両足さえも物質化させている。

 恐らく、あの黒い足で思い切り蹴られたのだろう。今思えば最初の突進も今のように足を強化させていたのかもしれない。

 そんな憶測を導き出している間も、カルマウィザードの体はどんどん物質化を続けていた。今では胴体部分までもが黒い肌を形成している。


 (まさか、ここで強くなって確実に止めを刺すつもりか? ……いや、あいつを強化しているのは俺達か)


 ――『カースドオーラ』。

 カルマウィザードが持つ固有スキルの発動。その事実に気付いたシュウは、傍で泣き叫ぶ相棒を一瞥した。

 無力な自分に対しての怒り、突然暴れ出したアンへの疑惑、今のアンが感じているであろう罪悪感。

 カルマウィザードは恐らく、これらの負の感情に反応して強さを増しているのだろう。

 

 (なるほど……性質が悪い能力だ)

 

 カルマウィザードがあれから動こうとしないのは、恐らく自分達を殺さずギリギリまで負の感情を与えたいからだ、とシュウは推測した。

 勝てない相手が更なるレベルアップを果たすのだ。より強い絶望を感じるのは当然である。

 そうやって、あのモンスターは限界まで己の体を強化するつもりなのだろう。

 シュウは負のスパイラルに陥っている自分に自嘲し、続けて一つ、疑問を覚えた。


 (なんで俺……こんなに冷静なんだ?)


 こんな時でも頭が冴え渡っているのは、流石におかしいのではないか。

 瀕死の人間にしてはやけに思考がはっきりしすぎている。これでは健全な状態の時と変わらないではないか。

 そこまで考えたところで、シュウは自分の異常な回復力を思いだした。

 そして、アンが前に言った言葉も甦る。


 ――シュウの回復力は凄かったけど、あれが勇者の力とは思えないのよね。

 ――聖剣時代に知り合った勇者達の能力を考えてみると、そうとしか思えないわ。


 「……もしかして……?」

 『――シュウ!? 駄目よ! 無理しちゃ……!』

 「……無理しないと殺されるだろうが。ていうか、誰のせいで無茶しなきゃいけないと思ってんだ」

 『――――ッ! ……ごめんなさい。でも、私……』

 「……回復だけをイメージすると……ああ、なるほど」

 『……シュウ?』


 シュウは荒い息を吐きながら、血塗れの体を再起させた。

 すでにガクランは破けており、青痣に覆われた素肌が曝け出されている。しかし、不思議なことにその足取りはしっかりとしていた。

 落ちていた魔剣を再装備。目の前の敵を睥睨する。


 「俺に宿る勇者の力……か。正直、まだ全然よく分かんねーや」


 シュウは今まで自動的に体力が回復する能力だと思っていた。しかし、アンはそれを本来の能力による副次効果ではないかと推測していた。

 それは何故か。答えは簡単だ。


 「けど、あの子に言われてんだよな。自分に自信を持てって。だから――!」

 『――ヴォ!?』

 「――『スキル』発動!」


 勇者の力とは本来、任意発動(アクティブスキル)なのである。





******



 シュウ・ミモリ(ヒューマン)

 適正魔力:無属性

 潜在魔力:D

 スキル:【全能強化(ゼウスブースト)

 ・あらゆるものを強化、増幅する(術者の身体限定)。

 ・未発動時は強化対象が学習能力、思考能力、回復力に固定される(威力弱)。

 ・心象具現が明確なほど威力上昇。

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