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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第一章 魔剣の覚醒
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第5話 ボス攻略、開始

今回は三人称で。

 洞窟の中は外部の光が一切入らない、完全な暗闇と化していた。

 シュウ達もまた闇の中に呑みこまれ、お互いの姿を視認できずにいる。

 このままでは前を歩くだけでも大変だ。そこでシュウは手のひらに魔力を集め、自分達を照らせるだけの大きな光球を生み出した。


 『――――っ!』


 暗いから明かりをつける。その行動は実に当たり前のことで、何も驚くようなことではない。シュウの行動におかしな点は何一つなかった。

 しかし、それでもアンは驚愕せざるを得なかった。それどころか戦慄さえ覚えていた。


 (……無詠唱……たった数日で?)


 先程シュウが発動させたのは【ライト】。一時的に光源を作り出す魔法だ。

 潜在魔力が低いシュウの為に、アンが真っ先に教え込んだ生活魔法の一つである。

 生活魔法は消費魔力が少なく、適正魔力の影響を受けない為、非常に使い勝手がいい。おまけに魔法の中でも基礎中の基礎である為、早ければ一日で習得することが可能なのだ。

 ただし、それは『詠唱』することを前提にした場合に限る。


 「どうかしたか?」

 『……あ……えっと……なんでもないわ』

 「? そうか」


 そもそも『詠唱』とは砲台作りの一環である。

 術者が呪文を唱えることで砲身が形作られ、初めて『魔法』という名の砲弾が発射できるのだ。

 当然、発射される弾が大きいほど砲台作りは困難になり、逆に弾が小さければ砲台は簡単に作ることができる。

 ここまでで分かるとおり、『魔法』と『詠唱』は密接に関係しており、容易に切り離すことはできないのだ。

 ……ところが、『無詠唱』はこの理論を全て破綻させてしまう。

 それを可能とするのが心象具現――心意によって魔力を強引に魔法へと昇華させる高等技術だ。

 言ってしまえば、砲弾を素手で投擲するようなものである。普通ならまず試してみようとも思わない。

 しかし、シュウはそれを無自覚のままに実行している。恐らく、自分がどれだけ非常識なことをしているのか気付いてもいないだろう。

 それも当然だ。アンは無詠唱に関して、一切の知識を与えていないのだから。

 

 (だからこそ信じられない。これは才能なんて次元じゃないわ!)

 

 どんなに優れた魔術師であろうとも、無詠唱を習得するには最低でも一年以上掛かる。これは魔法に特化した勇者であっても例外ではない。

 もしもシュウの潜在魔力がSクラスであったなら、さぞ強力な魔術師になれていただろう。むしろ、ここまで魔法の才能があるにも関わらず、潜在魔力が最低値という方がおかしい。これでは宝の持ち腐れだ。


 (――出来損ないの勇者ならぬ、出来損ないの魔術師か。持ってる才能は凄いのに、それを活かせるだけの地力が無いっていうのがまた悲しすぎるわ)


 ただし、単なる才能だと断定することはまだできない。

 アンには一つだけ、気になることがあった。


 (もしもその才能すら勇者の力――『スキル』による副次効果だとしたら……?)


 この一週間で、そう思わせるだけの判断材料は揃っている。後は、自らの予想が当たっているか見極めるだけだ。


 「……おいおい。何かでかいのが待ち構えてんだけど」

 『大丈夫よ。もっと自分を信じなさい!』


 シュウは洞窟の最深部に辿り着くと同時に足を止める。そして、目の前の存在を見上げて、圧倒されるように息を呑んだ。


 『――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 ダンジョンの中には必ず瘴気溜まりが存在する。

 その濃密な瘴気によって構築されるモンスターは、他のモンスターの追随を許さないほど強く、場合によっては人に近い思考能力さえも手に入れる。

 それがダンジョンを統べる者――ボスモンスターであった。

 

 『こいつは……カルマウィザードね。人の負の感情に反応して強さを増していく厄介な亡霊よ!』

 「マジかよ。ここで厄介とか言っちゃう?」


 カルマウィザードはシュウの身長を優に超えており、全身が黒いローブで隠されている。それは一見すると体格のいい魔術師のようであった。

 しかし、その見た目とは裏腹に、カルマウィザードが得意とするのは接近戦である。

 四本の指先から伸びる爪は異様に長く、鋭い。まるで一つの腕に魔剣を四本装備しているかのようだ。

 そして先程アンが言ったとおり、カルマウィザードは負の感情に反応して強さを増すという特性を持っている。

 その名も『カースドオーラ』。ボスモンスターだけが持っている固有スキルの一つである。

 それは皮肉にも勇者の力と通じるものがあった。


 『――来るわよ!』

 「――――ッ!」


 カルマウィザードが剣爪を振り下ろす。

 シュウは咄嗟に後ろに跳んで攻撃を避けたが、その威力に思わず顔を引き攣らせた。

 地面は粉々に砕け、陥没している。まさに一撃必殺。

 こんな攻撃が当たり前のように繰り出されるのかと、シュウは気が気でなかった。


 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!』

 「くそっ! 何なんだよ!」


 シュウは目の前の理不尽に悪態を吐く。

 しかし攻撃はこれで終わりではない。必死に敵の動きを読みながら、シュウは回避行動に専念した。


 『ちょっと! ちゃんと攻撃に移りなさいよ!』

 「おいコラ! てめぇに情けはねーのかよ!」


 こうして、シュウは己の自由を賭けた戦いに身を投じるのであった。


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