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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第三章 災禍の魔女
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メモリアル2

「君は私と出逢って、幸せだった?」


 巨大な神核(コア)を前にして、彼女は唐突に言った。

 別に大声を出したわけでもないのに、その声は嫌にはっきりと聞こえる。まるでこれが最後だからと、神様が余計な気を利かせてくれたみたいに。


「……はぁ。それ、こんな時にするような話じゃねぇよな」

「じゃあ普通はどんな時にするの?」

「そりゃまあ、人生を十分に満喫した後にベッドの上とかで笑いながら――」


 少年はそこで口を閉ざす。すでに手遅れであると知りつつも、これ以上話を続けるわけにはいかなかった。

 だって、認めたくない。認めるわけにはいかない。

 だからこそ(・・・・・)彼女は笑っているなんて、そんなこと……。


「私ね。君に言いたいことがあるんだ」


 淡く、優しく、彼岸を眺めるように微笑む兵器。

 選ばれた子供たちの中で唯一、『覚醒』の境地に至った化け物。

 そんな彼女の眼差しは、まるで少年にこう告げているようだった。


――貴方と私は違うから。隣で歩くことはもうできないから。だからここでお別れ。


「ふざけんな」

「残念、ふざけてないよ。今回だけは大真面目」

「やめろ」

「やめない。お願い、聞いて?」

「――うるせぇって言ってんだよ!!」


 少年は叫ぶ。

 自分はこんなことのために戦ってきたわけじゃないのだ。

 こんな「最期」を見届けるために、こんな場所に立っているわけじゃない。


「もう時間がないの。だからそれまでに、本当のことだけは伝えたい」


 侵略者たちの置き土産。神核(コア)はすでに限界を迎え、いつ爆発してもおかしくなかった。そうなれば世界の十分の一、下手をすれば五分の一くらいは消滅してしまうかもしれない。

 でも、そんなことはどうでもよかった。


「なんで急にそんな話するんだよ! お前は生粋の嘘吐きだろ! だったらいつも通りに嘘だって言って笑ってろ! お前の役割なんか知るか! もうちょっと他に言うことがあるだろ! 冗談の一つでも言えよ! 頼むから……そんな目で俺を見んじゃねぇよ」


 もっと自分に力があれば。

 もっと心を開いておけば。

 もうちょっとマシな結果になっていたかもしれないのに。

 どうして、こんなことに。


「私は君に出逢えて、本当に幸せでした」


 今までにないくらい穏やかに笑って、彼女は言う。


「今までごめんね。今までありがとう。そして、さようなら」


 神核(コア)が激しく輝いて、大地を震わす振動音が鳴り響く。

 あまりの眩しさに視界は奪われ、全ての音も掻き消された。

 しかしきっと、世界が傷付くことはないだろう。

 なぜなら彼女の能力は『庇護』。

 あらゆる攻撃を一身に引き受けることで無力化する、絶対無敵の盾なのだから。


「――アン!!」


 例え見えなくても、聞こえなくても、少年は必死に手を伸ばす。

 だって、これじゃ笑えない。

 この世界は女一人を見殺しにして平和になった世界だよ、なんて冗談じゃない。そんなの認めてたまるか。

 しかし虚しくも伸ばした腕は空を切り、なぜか頭の中で彼女の声が優しく響く。


「――私は、ずっと貴方のことが好きでした」


 それが、彼女が遺した、最期の言葉だった。

※メモリアル1と2に登場する女性は別人です。

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