メモリアル1
しばらく書けそうにないので、とりあえずサイドストーリーを小出しで。
聖剣は使った者の魂を食らう。
そうして宿主を完全に食い尽し、新たな宿主を見つける度に、その能力を増やしていく。
初代勇者は『断絶』の力を持っていた。
勇者は邪神を追い詰めることはできたが、その前に虚しくも聖剣に食われてしまう。
二代目勇者は『拒絶』の力を持っていた。
全てを断ち切る聖剣の力と合わせて、今度こそ邪神を倒しきる。
しかし邪神とは不滅の存在。二代目勇者が死んだ頃に改めて復活したことを当人は知らない。
こうして聖剣はあらゆる勇者を渡り歩き、力を蓄え、白銀の刀身もゆっくりと黒く染まっていった。そしてそれは、とうとう五代目勇者――あたしの手に渡る。
「為すべき時に為すべきことを為せなかった貴方が――なぜ今も生きているのですか?」
全てが終わった時、あたしに告げられたのはそんな辛辣な一言だった。
この時あたしは気付いた。
聖女が望んでいたのは、世界が望んでいたのは勇者ではなく、「邪神のいない未来」そのものだったということに。
あたしは所詮そのためだけの道具だ。あたしの生存に、あたしのやったことにはなんの価値も見出されない。
それが世界の真実だった――。
「あたしが……あたしたちがやって来たことは……いったい?」
あたしはあの時死ぬべきだった。いや、殺されるべきだったのかもしれない。
だけど、あたしは今もここでのうのうと生きている。
そう思って静かに絶望していると、片手に持っていた漆黒の剣が、その柄に嵌められた銀色の魔石が、刹那に瞬いた。
『――逃げるのか?』
逃げる? 私が?
久しぶりに聞いた魔剣の声。てっきり邪神を封じた際に死んだとばかり思っていたのに。しかしそれは間違いなく、あたしがカロンと呼んでいた相棒の声だった。
「あたしが、今更どこへ逃げると言うの?」
『未来から』
「――ッ」
『未来に立ち向かうことから、逃げるのか?』
未来なんて知らない。もうあたしの使命は終わったんだ。
あのクソ聖女には認められなかったけれど、あたしのやるべきことはもうどこにもない。
あたしが生きる意味なんて、生きていることを許される理由なんて、もうどこにも。
「あたしはもう――貴方に食われるだけよ」
『――まだ終わっていない』
「え?」
『どうせ死ぬつもりだと言うのなら、せめてその命。もっと有意義に使ってから死ね』
「急に何を言って――!」
『お前は勇者だろう? ならば、それだけで世界に生きることを許されているはずだ』
カロンの言葉に、私は耳を疑った。
『そもそも人というのは理由もなしに行動できる強みを持っている。お前とてそうだ。最初はなんの目的もなく、正義感もなく、ただ聖剣に適合できたからというだけで勇者の道を進んだだけではないか』
「それは――」
『結局何かを決めるのは当人の意思だ。他人の評価などに意味はない。……もしお前が少しでも生きたいと願っているのなら、まだ間に合う。――私を、捨てろ』
「カロン……貴方……」
聖剣は使った者の魂を食らう。
しかし完全に侵食される前ならば、まだ手放すこともできるのだ。
だって、聖剣はあくまでも対神兵器。呪われた武器ではないのだから。
けれどあたしは――。
「ごめん。あたし、まだやるべきことを思い出したから」
『お前は――』
「食べる時は、ちゃんと美味しく味わってね? ――大好きよ、カロン」