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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第三章 災禍の魔女
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プロローグ『白と黒の決別』

「あんたの正義なんか知ったこっちゃねぇよ」


 全身血塗れになったシュウは吐き捨てるように言った。


「話して通じる相手だと思ったか? 違うよな。だったら最初っから剣なんて抜いてるわけがねぇ。どうせ実力行使で止めるつもりなんだろ。何が俺とは戦いたくないだ。そんな被害者面してんじゃねぇよ鬱陶しい」


 目の前に立ち塞がるのは赤い髪をした青年だ。

 もしも異世界から召喚された者が『勇者』であるなら、この世界で超越者となった彼は『英雄』と呼ばれる存在だろう。

 しかし、だからなんだ。

 例え相手が親しくなった相手だろうが、シュウを遥かに上回るような強さを持っていようが関係ない。

 今、シュウのやることは一つだった。


「分かっているのか? あの力は危険過ぎる。下手をすれば国が滅びるかもしれんのだぞ」

「危険? ……はっ! 女一人を見殺しにして英雄気取りか。何様だよあんた。いいさ。将来は英雄らしくふんぞり返って、美人の嫁さんでももらって、自分のガキにでも語ってろ。この国は女一人を犠牲にして平和を保っているんだよってな!」


 どこまでも冷静な英雄に腹が立つ。

 シュウは右手に破壊の魔剣――『紫紺光剣(イレイザー)』を構え、自分でも何を言っているか分からないほど怒りを込めて叫んだ。しかしそんな彼に英雄は問う。


「なぜだ?」

「あ?」

「どうしてあの“魔女”のために命を張れる? たった一ヶ月程度の付き合いだろう。多くの民のことを――他人のことなど知らぬと、どうして切り捨てることができる? どうして周りの迷惑を考えない?」

「考えてるさ」


 無茶な強化を繰り返したせいで、シュウの身体は既にボロボロだ。

 異様に重い身体を気力で支え、閉じかけた瞼を強引にこじ開ける。気を抜くとこのまま倒れてしまいそうだ。それくらい意識を繋ぐ糸が細くなり、視界はぐにゃりと揺れていた。

 正直、喋るだけでもかなり辛い。それでもシュウは口を開く。

 だって、どうしても黙っているわけにはいかなかったから。


「俺が掛けた迷惑ならどうにかしようって思うさ。当たり前だ。おかげでルナには頭が上がらねぇよ。“あいつ”の暴走を抑えるためにすっげぇ無茶をさせちまったからな」

「だったらなぜ立ち向かう! 分かっているんだろう! あの魔女を放っておけばルナだって死ぬかもしれないんだぞ!」

「だからくそったれだって言ってんだよ! ふざけんな! おまえらはこの国を守るために何をしたってんだよ! 全部あいつだけの責任か!? 冗談じゃねぇぞ! あいつが悪くないことはお前だって知ってんだろ! それとも上の命令を守るだけがお前の『正義』か!? そんなもん俺にまで押し付けようとすんじゃねぇよ!」


 シュウは荒い息を吐きながらも思っていることを全てぶちまける。

 せめて皮肉な笑みでも浮かべてやろうかと思っていたのは最初だけで、今ではもうそんな余裕さえなくなっていた。

 だけど、本気でそう思っているのだから、仕方がない。


「――分かった。つまり俺たちはどこまで言っても平行線というわけか」

「俺を散々ボコった後で何を今更」


 英雄は覚悟を決めたように眼光を強め、浄化の力を持つ白銀の槍を構えた。

 浄化の聖槍と呪われた魔剣。

 最強の英雄と欠陥勇者。

 元々、この二人は最初からこうなる運命だったのかもしれない。

 静かに二人の成り行きを見守っていた魔剣は、このことを少しだけ悲しく思った。




 ******



――事の発端から約一ヶ月前。


 シュウはステラ帝国の首都、プリステラに到着していた。

 そしてちょうどこの時、プリステラの中にはある指名手配書が貼られていたのだ。

 そこに記された名前は――『災禍の魔女』。


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