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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第一章 魔剣の覚醒
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第2話 適正魔力:無属性

もうブックマークしてくださってる方、ありがとうございます。

 ――御守。お前、あの子とはどうなったんだよ。


 人懐っこい笑みを浮かべながら、親友の□□□はそんなことを聞いてきた。

 勿論、その質問には答えられない。

 未だに告白できていないって知られたら、またヘタレ呼ばわりされて弄られるからな。


 ――どうして兄さんはもっと努力しようとしないんですか!


 柳眉を吊り上げながら、妹が俺に詰め寄ってくる。それに対して、俺は何も言い返すことができなかった。

 何度も「期待するな」って言ってるのに、どうして俺を見限ってくれないんだ。

 手が届かないほど先に進んでるくせに、気まぐれで後ろを振り向いてんじゃねーよ。

 そんな急かされたって、俺はお前の才能には追いつけないんだ。


 ――雑魚は雑魚だ。テメーが弱いままでいる限り、何を教えたって意味なんかねーよ。


 □□□□が見下しながら吐き捨てる。

 ……ああ、そうだな。テメーに教わるくらいなら落ちこぼれの方が百倍マシだよ。

 所詮は弱い者いじめで強がってるだけの臆病者じゃねーか。

 現状維持に努める暇があるなら、ちったぁ進歩する努力もしてみろよ。

 テメーが妹と戦ってるところ、一度も見たことねーぜ?


 ――ではしばらくお休みになられては? 貴方はこの後『魔霊の森』で無様に喚き続かなくてはならないのですから。


 聖女が侮蔑を込めて俺に宣言した。

 くそっ! 冗談じゃねえ! 俺を元の世界に返しやが……れ……。




*****




 そこで映像が途切れ、俺は真っ白な世界に佇みながら考えた。

 ……これは、もしかして走馬灯ってやつか? だとしたら最悪だな。最後にあのクソ女の顔で終わるだなんて。

 ていうか記憶喪失でも走馬灯って見れるんだな。随分短かったけど。

 俺はさっきまで見ていた映像を思い返した。

 親友、妹、嫌いな奴。

 あの三人は元の世界で、俺とどんな時間を過ごしていたんだろうか。

 残念ながら名前も顔も、はっきりとは思い出せない。それが酷くもどかしかった。


 ――意識が現実に回帰する。


 俺の視界には前後から同時に襲ってくるモンスターの姿が映っていた。

 多分、今から動いても遅すぎる。それほどまでに俺は化け物達に接近されていた。


 「……こんな所で死ぬのか?」


 断片とはいえ、せっかく思い出せることが見つかったのに。

 自分が何者なのか、せっかく分かり掛けたばかりだというのに。

 俺は、こんな所で死んでしまうのか?


 「……ふざけんな。冗談じゃねえ!」


 これじゃあまりにも酷すぎる。なんて理不尽な世界なんだ。

 記憶を奪われ、存在を否定され、意味も無く殺される。

 こんなことが許されて良いのか? 理不尽な現実に抗う事もできないのか?

 俺は拳を握り締め、この世界に呪詛を吐いた――その時。

 体内で怒りが膨らみ、眠っていた力が押し上げられた。


 ――爆発。


 『ギャアア!?』

 『ギギギ――ッ!?』

 「……は?」


 突然俺の体から見えない波動が広がり、勢い良く化け物達が吹き飛んだ。

 その光景はあまりにも異質で、まるで俺を中心に暴風が生まれたかのようだった。

 だが俺はその様子を見て、不思議と何が起こったのかを理解する。

 まるで説明書が頭の中に入ってるように、この力の正体に気付く事ができた。


 『適正魔力:無属性』


 確証はないが、恐らくそれが原因だ。

 一体どうやって魔力を解き放ったのかは分からないが、あの力を上手く使いこなせれば俺の生存率は格段に上がるだろう。


 「……でも、使い方が分からなきゃ意味ねーよな」


 時間を掛けて研究すれば色々と応用が利きそうだが、今はこの場を離れた方がいい。

 なにせ化け物達は吹き飛んだだけで、死んだというわけではないのだから。

 そういうわけで、俺は多少戸惑いながらも三度(みたび)の逃走を開始した。







 森の中を疾駆する。

 噛まれた足は腫れ上がり、抉れた肩はすっかりドス黒く汚れている。

 それでも俺は止まることなく、ひたすら前に向かって走り続けた。

 ただただ愚直に、出口が見つかることを願って。


 「……おおっ!?」


 そして願いが通じたのか、俺は木々の迷路を通り抜け、広場のような空間に走り出た。

 俺が召喚された神殿と同じくらいの広さがあり、中心には小さな祠が建てられている。

 その範囲だけは木々が生えておらず、上を向くと、美しい夜空が視界一杯に広がった。

 銀色の満月が雲の隙間から顔を覗かせ、俺の体を優しく照らしてくれている。

 おかげさまでズタボロになった自分の体が良く見える。思わず顔を顰めてしまった。


 「それにしても……出口じゃないのか。ていうか、何でこんな危ない場所に祠が?」


 この場所だけは明らかに人の手が加えられている。

 こんな化け物達がうろつく森に、俺以外の人間が……出入りしていたのか?

 もしかしたら、あの祠に何かヒントがあるかもしれない。

 こんなわけ分からない場所に建ってあるんだ。何かしらの情報くらいは得られてもいいだろ。

 俺は祠まで駆け寄り、その今にも崩れそうな戸口に手を掛けた。

 

 「……え?」


 驚愕する。

 そこに俺の望むものは何も無かった。

 ただし、それ以外の物が置かれていた。

 星の紋様が刻まれた台座。そこに黒い剣が突き刺さっている。

 大した装飾がされているわけではなく、実用性だけに特化したような片手剣。

 柄から刀身まで、全てが黒一色で統一されている。

 唯一違う輝きを放っているのは、刀身の根元に埋め込まれた緋色の石だけだ。

 その剣を見て、俺の脳裏に聖女の言葉が甦る。


 「――漆黒」


 女神の加護も与えられない、邪神と同じ容姿。

 俺と同じ、嫌われ者の姿。

 もしかするとこの剣も、俺と同じ理由でこの森に置き去りに去れたのかもしれない。

 そう思うとなんだか親近感が湧いてくるな。

 ……誰の武器だったのかは知らないが、有り難く使わせてもらおう。

 俺は、その黒い剣を引き抜いた。


 『――んあっ!』

 「……ん?」


 その瞬間、近くで可愛らしい女の声が聞こえてきた。

 しかし辺りを見ても誰もいない。俺は自分でも分かるくらい落胆した。

 もしかしたら俺と同じような境遇の子がいるのかと思ったが……やっぱり気のせいだったか。


 「……はぁ」

 『……いきなり引っこ抜いて、溜息は無いんじゃないの?』

 「うおわっ!?」


 俺は慌てて剣を投げ捨てた。

 ……え? 今、剣から声がしたような……。気のせいだよな?

 俺がそう思っていると、突然手元に光が集まり、捨てた筈の剣が再び手元に収まった。


 『ちょっとぉおおおおおおおおお! 勝手に抜いたくせに捨てるとか、アンタどんだけ鬼畜なのよ!』

 「~~~~~~っ!」


 やっぱり気のせいじゃない!?

 剣に埋め込まれた緋色の石が点滅し、凄まじい怒りの声が轟いた。

 俺は呆気に取られて剣を取り落とす。

 しかし、地面に落ちる前に剣は俺の手の中に瞬間移動していた。


 「ど、どうなってんだよ……これ!」

 『アンタの頭がどうなってんのよ! 久しぶりに目が覚めたと思ったら急に捨てられるっていう相手の気持ちになってみなさいよ! トラウマになったらどうすんの!?』

 「何で、剣が喋ってんだよ!」

 『そりゃ、私が生きているからに決まってんじゃない。普通でしょ? 魔剣だもの』

 「いやいやいや! んなこと言われても知らねーから!」


 さも当然のように言われて、思わず俺は言い返す。


 『なんで知らないのよ! 私、魔剣なのよ!? 凄いレアものなのよ!?』

 「んなこと言われても俺はこの世界の人間じゃねーし、記憶も無いからそんなこと言われても分からないんだって!」

 『……あ、なんだ。アンタ勇者なのね。そりゃお気の毒。心の底から同情するわ』

 「え……。何でお前がそんなこと知ってんだよ?」


 突然の勇者という単語に、俺の目は限界まで見開かれる。

 そして、魔剣とやらは更に驚愕の事実を明らかにした。


 『私は昔、聖剣っていうエリート職に就いてたからね。当然勇者についての知識もあるわけよ。それにしても今って何年なのかしら? 時が経っても勇者の不遇は変わらないのね』

 「……聖、剣?」

 『そう! ……まあ、今は色々と封印されて、ただの魔剣に成り下がっちゃったけどね』


 魔剣は悲しそうに呟く。

 心なしか石の輝きも弱くなったような気がした。


 『おまけに次のマスターは私をいきなり投げ捨てるキチガイだし。……まあ絶対離れられないから構わないんだけど』


 おい、今度は俺を非難するのか。……いや待て。今なんて言った?


 「なあ、絶対離れられないってどういう意味だ?」


 俺が恐る恐る尋ねると、魔剣はあっけらかんに答えた。


 『決まってんでしょ。こんな人が寄り付かない場所で封印されてるような剣よ? この機を逃したら絶対自由になれないじゃない。だからアンタにマーキングしておいたのよ』

 「……マーキング……だと?」

 『別に不思議な事じゃないでしょ? いわく憑きの武器って滅多にマスターが見つからないから、触れた相手を逃がさないように色々努力してんのよ』

 「……」


 絶句した。

 この世界の武器には自我があるのか、という疑問はさておき、とある懸念が俺の脳内を駆け回る。

 一度装備したら最後。二度と装備は外せない。

 そんな武器の名称が、不思議と鮮明に思い出された。


 『そういえば自己紹介がまだだったわね! 私は魔剣アンサラー! アンって呼んでいいわよ。えーと、それで、マスターの名前は?』

 「……集。……御守集……だ」

 『ミモリ・シュウ……か。中々いい名前ね。覚えておくわ! それじゃシュウ。これから一生(・・)よろしくね?』


 魔剣――アンは親しげな友人のように話してくるが、俺は彼女にどう反応すればいいのか分からなかった。

 だってそうだろ。こいつ、自分がいわく憑きだって言ったんだぜ?


 決して外れない。二度と外せない。

 そのような武器は普通、こう言われている。


 ――呪われた装備、と。


 俺は思わず息を呑む。

 頭の何処かで、警鐘が鳴り響いた気がした。

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