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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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第24話 エキドナの正体

 なんだかんだでルナのダメージは相当酷い。

 俺はよく覚えていないんだが、どうやら【カースドオーラ】で凶暴化した俺と、途中から体を乗っ取ったアンが手加減無しで暴れていたらしい。まさか俺が虐待を行ってしまうとは……クソッ! なんか死にたくなってきた。

 俺はあらかじめ店で買っておいた回復薬を意識を失ったルナに無理矢理飲ませる。それからダンジョンを出るか奥に進むか一通りアンと話し合い、最下層まで進むことにした。


 「……おおっ?」

 『何興奮してんのよ。この変態』


 ルナを背負うと、柔らかい何かが背中で潰れた。そのなんとも言えない感触につい声を漏らしてしまったが、そんな俺をアンは冷たく非難する。……気のせいか、今まで以上に不機嫌そうだ。

 これは多分嫉妬だな。自分は平べったい剣だから、ルナが持ってる双丘が死ぬほど羨ましいんだ。うん。きっとそうだ。


 『……なんかムカつく』

 「馬鹿言ってないで、さっさと五階層に行くぞ」


 アンの話を信じるならば、このダンジョンのボスは間違いなくエキドナという闇精霊だ。だがそのエキドナも俺達との戦いでかなりの力を消耗したらしく、さっきみたいな魔法の行使はできないらしい。

 つまり、奴にトドメを刺すなら今がチャンスってわけだ。

 俺達は迷わず五階層へと足を進めた。







 不思議なことに、五階層は俺が見た夢と全く同じ構造をしていた。おかげで俺は行き止まりに道を阻まれることなくダンジョンの最奥へと辿り着く。


 「……え?」


 俺は目を疑った。

 闘技場のような広い空間。周囲に設置された篝火。全て夢の通りだ。

 だけど、一つだけ肝心な場所が夢と全く異なっていた。

 台座である。

 魔法陣が刻まれていた筈の広場の中心には、俺の身長と同じくらい大きな台座が建てられており、その一番上に真っ黒な宝玉が嵌っていたのだ。

 そして俺の【鑑定眼】は、その宝玉こそがエキドナであると判断していた。


 『……まさか、私の同類?』

 「はぁっ!? まさか、アレも呪われた装備だって言うのか!?」

 「……むにゃ。あれ……? ここは?」


 アンの呟きに過剰反応した俺は、思わず声を荒げてしまう。当然だ。まさかボスの正体が呪われた装備だなんて誰が予想できただろうか。

 しかしあまりにも声が大きかったせいか、ルナが俺に背負われた状態で目を覚ましてしまった。

 最初は寝ぼけ顔で周りを見渡していたようだが、俺に背負われていることに気が付くと、急激に顔を紅くする。

 そして「ふわわわわわっ!?」とか変な声をあげながら、慌てて俺から降りてしまった。


 「あ、あの! 私、何がどうしてここにいるんでしょうか!?」

 『ああ、暴れていた時の記憶は無いのね』

 「まあ後で説明するから、今はじっとしててくれ」


 俺はちょっと不安になりながら魔剣を起動させてみる。すると凶暴な形をしていた魔剣は、すぐに見慣れた【紫紺光剣(イレイザー)】に変形した。

 まだ混乱しているらしいルナをその場に待たせて、俺はそっと台座に近付いていく。

 そこで、俺は台座に刻まれた文字に気が付いた。


 「……これは、勇者の試練である?」

 『……え?』


 エキドナは意識が無いのか、俺達を襲ってくる気配がない。いや、襲う為には誰かに憑依しなければならないのか。

 まあいい。その時は魂を喰らい尽くす【紅蓮闇鋏(ディザスター)】を使うまでだ。今の俺ならルナを傷付けずにエキドナだけを始末できる自信がある。

 俺は周りを気にせず、台座に刻まれた文字を読み進めていった。


 「我々は邪神を甘く見すぎていた。邪神はほんの少し接触しただけで、勇者の心を闇に堕とす力があったのだ。おかげで四人いた勇者のうち、三人は闇に堕ちてしまった。

 憎しみと恐怖に支配された彼等は、敵味方も分からず刃を向けて、多くの者を傷付けた。光の加護を持っていた私だけが邪神に対抗する事ができ、闇に堕ちずに済んだのだ。

 しかし私一人では邪神を倒す事などできない。そこで私は、闇に落ちた勇者達の魂を生贄にすることで、邪神を封じるという禁忌の手段に手を染めた。そうすることしかできなかった」


 そこには過去に邪神を封じたと言う、過去の勇者の記録が残されていた。

 どうやら過去の勇者は闇というものにかなりの危惧を覚えていたらしい。そこで闇の精霊に協力を求め、次に現れるだろう勇者に試練を与えて欲しいと頼んでいたようだ。

 しかし、それには当然リスクが伴う。

 試練を乗り越えられず、闇に堕ちてしまった勇者は最早脅威だ。だからその場合は闇を統べる精霊の力で、勇者を隷属させても良いと言う約束が取り付けられていたらしい。

 なんて勝手な話だろうか。俺は胸糞が悪くなり、思わず舌打ちを鳴らした。


 「つまり、全ては俺に向けられた試練だったってわけか!」

 『子供達だけこのダンジョンに通れるようになっていたのは、その時期が一番精霊との融和性が高かったからなのね』


 アンの答えに俺は頷く。

 あくまで過去の記録を信じるならばの話だが、どうやら闇の精霊から闇の耐性を授かりやすいのは、ちょうどルナ達のような年齢の頃らしい。

 おそらく、手当たり次第に闇に耐性を持った人材を増やし、誰が勇者になっても構わない状態を作りたかったのだろう。

 俺は邪神を封じたという勇者に酷く嫌悪感を覚えた。

 例えそれが必要なことだったとしても、そのやり方が気に入らない。

 自分の理想を勝手に人に押し付けて、そいつがどうなろうともお構いなし。まるで実験動物のような扱いだ。

 こんな奴が勇者として崇められているのなら、俺は勇者じゃなくてもいい。なれなくて本当に良かった。


 『それで、どうするの?』

 「……どうするかな」


 俺は台座に填められた宝玉を見つめる。

 エキドナは一体どんな気持ちで過去の勇者に協力していたのだろうか。俺にはさっぱり分からない。

 ただなんとなく、俺はエキドナに同情していた。

 気が遠くなるほどの長い時間、こんなダンジョンの奥に閉じ篭って、ただ勇者が現れることを待ち望んでいた。ただ律儀に勇者との約束を守る為に。

 そりゃ試練に負けた勇者を隷属させられるっていうのは、さぞ魅力的なことなんだろう。だけど相手は勇者だぞ? そう簡単に出てくるような相手じゃない。

 そんな奴が現れることを期待して、エキドナは一体何を望んでいたんだろう。


 「ちっ! ……悪いのは俺に嫌われた勇者だからな」

 『シュウ? アンタ、まさか!』


 俺は魔剣を通常状態に戻し、台座から宝玉を掴み取った。

 その瞬間、誰かの声が頭の中に語りかけてくる。


 ――どうして、私を殺さないの?

 ――私は貴方に酷いことをしたのに。

 ――どうして、私に触れてくれたの?

 ――私は貴方を傷付けたのに。


 そんな疑問の呟きに、俺は自分でも呆れながら苦笑を浮かべた。

 どうしてか、なんて……俺が知りたいくらいだ。なんでこんなことをしてるのか、自分でさえ分からない。

 だけど。俺は嫌な人間だ。偽善を嫌った偽善者だ。

 だから、きっと打算が働いたんだろう。

 過去の勇者が残した試練を、俺がここで終わりにさせる。そんな嫌がらせと共に、エキドナには無理にでも力になってもらおうとか考えたに違いない。まあ、賠償請求みたいなもんだ。

 ……それなのに。


 ――ごめんなさい。ありがとう。


 エキドナは俺にそんなことを言った。

 くだらない。謝罪ならこれからの働きで示せば良い。間違っても感謝されるような覚えはない。だから、エキドナがそんなことを言う必要は全く無いのだ。


 「……チッ」

 『アンタって、昔からそんな感じなのかしら?』


 アンは「素直じゃないわね」と呆れたように溜息を吐く。一体何のことかちっとも分からず、俺は静かに首を傾げた。

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