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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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第19話 裏切りの魔法

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 限界まで強化された脚力は、シュウの安全活動時間を凄まじい勢いで消耗していく。

 しかし、そのおかげでシュウの体は弾丸となり、銀色の軌跡を置き去りにしながらミノタウロスの懐まで接近することができた。


 『ヴォオオ!?』


 一瞬で間を詰められたことに驚愕したのだろう。

 ミノタウロスはルナから視線を外し、ハルバードを振り上げたままシュウを見下ろした。

 その紅い瞳には困惑と疑惑が込められている。いきなり加速したシュウの変化に戸惑いを隠せていなかった。


 「これはさっきのお返しだ」


 次の瞬間、シュウの左手に銀色の光が集束し始めた。

 【全能強化(ゼウスブースト)】によって回復したシュウの左手は原形すら見えなくなるほど眩しく輝き、ボスモンスターにも引けを取らない威力を獲得する。

 螺旋を描いた銀の一撃はそのまま加速を増していき、ミノタウロスの強固な胸板を打ち抜いた。


 『ヴォガアアアアアアアアアアアッ!?』


 ぶっ飛ぶ。

 シュウの倍以上もあるミノタウロスの巨体が、決河の如く地面の上を疾走した。


 「もう二度とお前に攻撃はさせねぇ!」

 『そうよ! その調子よ! 勢い良くぶち殺せぇ!』


 その雄叫びは覚悟の証。

 もう二度と同じ失態は見せない。本当の意味で強くなる。そんな思いを抱いた決意であった。

 己の弱さに怒りを灯し、シュウは渾身の力を足に込めた。

 銀の光と紫紺の光が揺らめき、次の瞬間には体勢を立て直しているミノタウロスに向かって突撃。

 その軌跡として銀光の残滓が弾け飛び、ダンジョンの地面が次々と砕かれていく。

 ――ミノタウロスはその光景に瞠目した。


 「イレイザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 『――――ヴォッ!』


 放たれたのは破壊の一撃。紫紺の剣閃が宙を走る。

 ミノタウロスが咄嗟に構えたハルバードを容赦なく切断し、その鍛え上げられた筋肉に到達した。


 『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 ――直後、一閃。

 刃に触れた部分からミノタウロスの体は消失し、あたかも剣で斬られたかのような傷口が生まれる。そして何かに阻まれるような感覚すらなく、シュウはミノタウロスの胴体を真っ二つに斬り落とした。

 ミノタウロスは絶叫しながらその姿を徐々に黒く染め、体の切断面から大量の瘴気を噴出す。それはまるで大量の血液を撒き散らすようで、確かな命が潰える瞬間であった。

 やがて放出された瘴気は大気に混じりながら浄化され、跡形も無く消え去った。

 カランっと音を立てながら、この場に再形成されたハルバードが転がり落ちる。


 「はぁ……はぁ……! 最初から……こうしとけば良かったんだよな」


 シュウは完全に消滅したミノタウロスから視線を外し、そっと自嘲の笑みを浮かべた。

 無理に体を強化していた為、その分スキルの反動も凄まじいことになっている。まだ一分も経っていないというのに、すでにシュウの肉体は活動限界を迎えてしまっていた。

 初めから出し惜しみをしていなければ、こんなことにはならなかったのに。そんな自責の念がシュウを襲う。


 『――危ない、シュウ!』


 だがその時放たれた一条の閃光によって、シュウの思考は強制的に切り替えられる。

 シュウは地面に転がっていたハルバード咄嗟に掴み、無理矢理加速してその場を離れた。

 同時に、シュウが先ほどまで立っていた場所には衝撃波が生まれる。

 凄まじい爆音がシュウの耳朶を突き抜けた。


 「~~~~っ!?」


 直撃したら即死する威力。

 その事実にシュウは体を強張らせ、これまでとは比べ物にならないくらい警戒を露にした。

 右手に魔剣。左手にハルバードを構え、攻撃の出所に目を向ける。


 「なっ!?」

 『嘘でしょ!?』


 しかし次の瞬間にシュウは目を見開き、アンが驚愕の声を上げた。


 「…………」


 二人の視線が向かう場所には一人の少女が立っていた。

 銀髪を靡かせ、右腕にボウガンを構えるダークエルフ。

 それはまさしく、先ほどまで自分達と共に同行していた仲間に違いなかった。


 「なん……で」


 ――ルナは金色の瞳(・・・・)をこちらに向けて、次の攻撃に移る途中だった。

 シュウが一歩前に出て、掠れた声で問いかける。

 そんな彼に待ち受けていたのは、大量に放たれた風と氷の弾幕だった。





*****



 ……どうしてこうなった!

 俺は放たれた魔法の嵐を【紫紺光剣(イレイザー)】で無効化しながら必死に現状把握に力を注ぐ。

 しかし、ルナが急変した理由が未だに分からない。そもそも何故俺達を攻撃してくるのかも分からない。

 一体何を何処で間違って、今のような状況になってしまったのだろうか。


 「ルナ! 頼む! 目を覚ましてくれ!」

 「……」

 「くそっ! 駄目か!」


 必死にルナの名前を呼ぶが、返ってきたのは無慈悲に放たれる緑光の矢だった。

 ルナは無表情のまま何の反応も示さず、機械のように即死級の攻撃を繰り返す。

 無視しているだけなのか、それとも意識が無いのか。

 とにかく、ルナは容赦なく俺を殺そうとしてくる。それだけは確かだった。


 『……ルナの真意はともかくとして、色々とおかしい点はあるわよね』

 「ああ。だけど何でそうなったのかが分かんねえ!」


 俺は間髪入れずに飛んでくる緑の閃光を切り払い、苛々しながら舌打ちした。

 ルナの瞳の色は確か紫色だった筈だ。しかし、何故か今は金色に変わっている。

 そして今のルナは無詠唱を完全に使いこなし、矢を媒体とせずに直接魔法を発動させていた。

 殆ど連射と変わらない攻撃に俺は額に汗を滲ませる。

 一度でも防御し損ねたら死ぬかもしれないという焦燥が、心身に余計な負担を掛けていた。

 幸い、ハルバードが思っていたより頑丈だったおかげで両手を使って防御ができる。だがそれもいつまで持つかは分からない。

 何よりも、【全能強化(ゼウスブースト)】の反動によって、体は悲鳴を上げていた。


 「はぁ……はぁ……ちっくしょう!」

 『シュウ! このままじゃジリ貧だわ! 必殺技(アレ)を使いましょう!』

 「駄目だ! アレは威力があり過ぎて、ルナも一緒に吹き飛ばしちまう!」

 『もうしょうがないじゃない! このままじゃアンタが先に死んじゃうのよ!』


 アンが泣きそうな声で叫ぶ。

 俺は耳が痛くなる心境でそれを聞き流し、とにかく目の前の攻撃から身を守ることだけに集中した。

 時々ダンジョン内を走り回って疾風の嵐を掻い潜り、氷の刃を跳ね除け、徐々にルナとの距離を埋めていく。

 息を切らしながらも脚の動きは止めず、ただひたすらに防御だけに力を注ぐ。


 「…………ふふ」


 そんな時、俺はルナの表情が変わったのをはっきりと視界に捉えた。

 それはとても少女とは思えない妖艶な笑み。

 その金色の目にはっきりと意思を宿しており、見た相手を魅了するような蠱惑的な雰囲気を纏っていた。


 「……ルナ?」

 「【ブリザードウェイブ】」

 「――ッ」


 ぞくり、と背筋が凍る。

 俺は途端に体を反転させ、全力でルナから距離を置いた。

 だが、白銀の津波は容赦なくこちらへ切迫する。

 今にも俺を飲み込む勢いで四階層全域を侵蝕していった。


 「不味い不味い不味い不味い!」


 俺達が入ってきた方の階段はルナが立ちはだかっている為、俺は必然的に五階層へと続く階段に向かって走るしかない。だが、疲労している俺の足は思うように前へ進まず、今にも津波に追いつかれそうになっていた。

 いや、もう追いつかれている。階段まで……間に合わない!


 『シュウーー!』

 「……くっそがぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


 アンの必死な叫びに、俺は悔しさを込めてこの現状を罵倒した。

 魔剣を背中に構え、【紫紺光剣(イレイザー)】の安全装置(リミッター)を外すように念じる。

 すると紫紺の光がこれまで以上に迸り、俺の周囲を明るく照らした。


 「【紫紺光滅波(イレイザードライブ)】!」


 直後、俺は迫り来る津波に向かって最凶の魔剣を振り下ろす。

 そして目の前に映る光景が、全て紫紺の光で埋め尽くされた。


汚物は消毒だぁあああああああああ!

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