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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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第17話 試練の洞窟2

 どうやら結界が張られていたのはダンジョンの入口だけだったようだ。二階層へと続く階段には何の障害物も見当たらなかった。

 まあ正直なところ、冒険者達に見られる心配がなければ魔剣の力は惜しみなく使える。また結界が張られてあったとしても、その時は【紫紺光剣(イレイザー)】で消滅させてしまえばいいだけだ。


 『ふん! どうせ両手が塞がってるから、ルナと手は繋げないしね! 二刀流をやめるなら別だけど!』

 「……俺が石斧を使うのってそんなに嫌か?」

 『嫌!』

 「ふーん」

 『それだけ!?』


 アンには悪いが、一度も試さずに二刀流をやめるつもりはない。

 俺はアンの『無視すんな!』という言葉を無視しながら二階層の迷宮内を見渡した。

 一階層は単調な通路みたいな構造になっていたが、二階層からは本格的な迷路のように道が入り組んだ構造になっている。迷ったりしないか心配だ。


 「わぁ……! さっきより広くなってるです!」

 「そうだなぁ。これじゃ精霊石を見つけるのも大変そうだ」

 「でもでも! お兄さんとなら確実にダンジョン内を歩き回れるですよ!」


 ルナは嬉しそうに笑いながらはしゃいでいた。そのたびに彼女の双丘がたゆんと揺れ、俺は視線を逸らさなくてはならなくなる。

 その時、俺は通路の端から三体のオークがこちらに近付いてくるのを見掛けた。

 真ん中の一体だけ肌が黒く、石斧を二本所持している。恐らくオークの上位種だろう。良く見れば他のオークと違って胸筋が引き締まっているような気がする。腹は相変わらず弛んでいるが。


 「よし、早速戦ってみるか。ルナはそこで待っててくれ」

 「はいです! 頑張ってくださいです!」


 ルナのボウガンは小型で持ち運びが楽な反面、装填できる矢が小さく、一撃の威力が低い。その為、ぶ厚い脂肪に覆われたオーク相手には魔法の補助無しでダメージを与えることができないのだ。

 故にオークと戦うのは俺、ボウガンでも攻撃が通じるグレイウルフはルナが相手にするようにしている。


 『『『ゴオオオオ!』』』

 「――フッ!」


 俺は右手に魔剣、左手に石斧を構え、三体のオークに肉薄する。

 まずは右端にいた普通のオークの腹を斬り裂き、そのままオーク達の背後に回った。

 真ん中のオークの攻撃だけは意識的に避けなければならなかったが、普通のオークは斧を振り下ろす速度が遅い。

 おかげさまでこっちはただ前進するだけでオークの腹を斬り裂けるわけだ。


 『ゴオオオオ!?』


 漆黒の剣閃が赤い血飛沫と共にダンジョンを舞う。

 俺は力なく倒れたオークを無視し、黒いオークに石斧を向けた。

 しかし、流石は上位種か。黒いオークは俺の速さに危機感を持ったようで、すぐに俺から距離を取る。

 俺はその間にもう一体の普通のオークを始末し、黒いオークと一対一の状況に持ち込んだ。


 「……なるほどな。確かにこいつが相手じゃ、新人冒険者にはちと厳しいかもな」


 俺は黒いオークを睥睨しながら、ロカル村で実力試験が行われている理由を思い出した。

 確かにこのダンジョンの難易度は高い。少なくとも目の前のオークはそれくらいの強さを持っている。


 『ブォオオ!』

 「――ッ!」


 先に動いたのは黒いオークだった。

 幸い、足が遅いおかげで相手の行動は予測しやすいのだが、反応速度は凄まじい。

 俺がオークの斧を躱して反撃を行うと、すかさず両手の斧で弾いてくる。

 しかし、ここで二刀流という戦闘スタイルが活きてくる。俺は左手の石斧を本格的に振り回し、魔剣と交互で素早い連撃を開始した。


 「うおおおおおおおおおおおお!」

 『ゴブッ!?』


 イメージするのは完全体となったカルマウィザード。あの黒き鎧が繰り出した攻撃だ。

 今はあいつのように拙い動きで構わない。ただ、圧倒的な手数と速度で相手の防御を上回る!

 黒いオークは負けじと両手の斧を上手く動かして俺の剣を受け止めているが、徐々に受け止めきれなくなって押されていく。


 「今だ!」


 魔剣の黒い剣撃を、オークは両方の斧で受け止めた。

 その瞬間、無防備となったどでかい腹に向かって、無骨な石斧を叩き込む。


 『ブギャアアアアアアアアアア!』


 ――直後、撃砕する。

 黒いオークは悲痛な叫びをあげながら、瘴気の塊となって霧散した。

 やはり強いモンスターほど肉体を構成する瘴気濃度が高いらしい。普通のオークと違って、黒いオークから血が流れることは無かった。


 「……ふぅ。やっぱりいきなりは難しいか」


 オークは小回りが利かない。それを利用して背後に回れば、もっと楽に仕留めることができた筈だ。しかし、俺は二刀流を意識しすぎてそういう立ち回りを完全に忘れていた。

 ……もっと周りを良く見ないといけないな。今後の反省点だ。

 だけど、二刀流はやっぱり俺の戦い方にしっくりきた。

 なんていうか、間髪入れずに剣を交互に振り続けるのは気持ちが良かったのだ。

 俺は確かな手ごたえに頬が緩む。そんな俺に対して、アンが悔しそうに歯軋りしていた。


 『……ただのドロップアイテム風情が……シュウの左手を占領して……叩き壊さなきゃ』


 この魔剣。まさかとは思うけど、他の武器を破壊する呪いとか掛かってないよな?

 そんな不安を抱えながら、俺はルナの元に駆け寄った。







 「……あ! これです!」


 三階層の中盤まで進んだ頃、迷宮の壁から突き出た鉱物を見つけてルナが嬉しそうに叫んだ。


 「へぇ。それが精霊石か」

 『中々綺麗な石じゃない』


 アンの言うとおり、それは宝石のように色鮮やかな鉱石だった。

 その鉱石は一度壁から引っこ抜くと、また後から別の鉱石が生えてくる。恐らく、ここは精霊石の採取ポイントなのだろう。

 ダンジョンの中には極稀に、瘴気が勝手に物質化してドロップアイテムのようになる場所が存在する。

 その原因は未だ解明されておらず、外から人という名の餌を呼び寄せる為だとか、ダンジョン内で循環し切れなかった瘴気が凝固するからだとか、色々な説があるそうだ。

 まあそれはともかく、これで成人の儀はほぼ達成だ。後はこれをギルドに持っていけばいい。

 俺はここで、一旦ルナの気持ちを聞いてみることにした。


 「なぁ。これからどうする? 俺としてはこのまま四階層まで進みたいところなんだけど」

 「ふぇ……。ほんとにボスと戦うつもりです?」

 「まあな。一応、ルナが嫌ならここで引き返すつもりだけど」


 そう言うと、ルナは今にも泣きそうな目で俺を見上げてきた。


 「その後……ルナを置いて、一人でボスと戦うですか?」

 「……まぁ、そうなるな。元々五階層まで足を踏み入れるつもりだったし」

 「だったら、ルナも一緒に行くです!」

 「うおっ!?」


 ルナは俺のローブを引っ張ってそう宣言する。アメジストのような瞳に涙を溜めて、懇願するように俺を見上げていた。


 ――置いていかないで。一人にしないで。


 そんなルナの気持ちが、否応無しに俺の心に響いてくる。

 クソ聖女のせいで美人そのものに拒否反応を起こすようになった俺だが、やはり根底の方では未だに女性に対して免疫がない。

 こういう時、女の涙というのは卑怯だと思う。


 「……分かった。けど、無理はするなよ?」


 俺は溜息を吐きつつ、ルナの頭をくしゃりと撫でた。

 ルナの魔法ははっきり言って強力だし、敵に対する立ち回り方も中々のものだ。それは例えボス戦においても足を引っ張るものじゃない。

 それに今の俺には魔剣とスキルがある。余程のことが無い限り、危険なことにはならないだろう。

 ……まあ、その「余程のこと」が起きるのがボス戦だとも思うのだが。


 「はい! ありがとうです!」


 ……その時は、全力で守るしかないか。

 向日葵のように明るい笑顔を浮かべる少女に、俺は少しだけ苦笑を漏らした。



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