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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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第16話 試練の洞窟1

なんか改めて読むと、今回はちょっとコメディー過ぎるかなぁと思いました。

そんなに今までと変わらないカナ? カナ?

 『試練の洞窟』はモンスターに甘く、人間に厳しい。

 その最たる例が地下へと続くダンジョンの入口にある。


 「……結界だな」

 『またぁ? もうアレ使ってダンジョンごと吹き飛ばしてやろうかしら』

 「えっと……成人の儀が行われるようになった原因は、この結界だって聞いたことがあるです」


 村から少しばかり歩いた場所にぽっかりと穴が空いており、そこから階段が闇の中まで続いている。

 その階段を降りようとした瞬間、俺の体は見えない障壁のようなもので邪魔されてしまった。恐らく他の冒険者達がダンジョンに入れないと怒っていた原因はこれなのだろう。

 ルナ曰く、このダンジョンは昔からこの時期になると、こうして外部の人間を拒絶する結界を作り出すらしい。

 そして何故か成人の儀を行う子供、もしくはその仲間しかダンジョンの中に入ることはできないのだ。


 「お兄さん。そ、その! 手を……手をぉ! 繋ぎましょうです! そうすれば、お兄さんも私の仲間……えへへ……仲間としてダンジョンの中に入れるです」

 『何……この子……気持ち悪い』


 ルナは顔をにやつかせながら、もじもじと手を差し出してきた。

 アンの辛辣な評価に俺は苦笑いを浮かべることしかできない。


 「ひぐっ!?」

 「……どうした? 速く行こうぜ」

 「は……はひっ!」


 俺がルナの手を握った瞬間、彼女の体がびくりと震えた。

 手を繋いでるせいで彼女の緊張が直に伝わってくる。……そこまで固くならなくてもいいのに。

 俺はルナの緊張をほぐす為、また別の話題を振ってみた。


 「それにしても、こんな結界があるならミレイさんの言ってたことは何だったんだ?」

 『三日後には……って話のこと? あれは多分、ギルドにこの結界をどうこうする為の手段があるってことなんじゃないかしら』

 「あ、はい、です。剣のお姉さんの言うとおりです。精霊石を使えば、結界を壊すことができるです」

 「へぇ。精霊石ってそんな力があるのか」

 「はい、です。でも、皆が取ってくるのはどれも純度が低い精霊石なので、結構な数を消費するらしいです」


 こんな会話をしているうちに、俺達はダンジョンの入口を通り抜け、地下迷宮へと足を踏み入れていた。

 ここまでくれば、もう結界の影響を受けることは無いだろう。俺はルナの手を離し、モンスターの襲撃に備えてアンを構える。


 「……あ」


 その際、名残惜しそうなルナの声が無駄に迷宮内に響き渡った。……なんか、申し訳ないな。


 『それにしても、試練の洞窟って言う割には全く洞窟っぽくないわね。まるで人の手が入ってるみたいだわ』

 「……確かに、言われてみればそうだな」


 アンの一言で、俺は改めて迷宮内を見渡してみた。

 辺りはレンガのような石を積み上げられて作られたような壁があり、等間隔に松明が設置されている。

 そのおかげで『魔霊の森』の時みたいに【ライト】を使わなくてもいいわけだが、自然にできた瘴気の溜まり場にしてはちょっと不自然だ。

 洞窟と言うよりも、やはり迷宮だと言った方がしっくりくる。


 「まあ、今はダンジョンの奥に進むだけだ。ルナ、念のために攻撃魔法を詠唱待機してくれ」

 「はい、です!」


 魔法は詠唱さえ完了させていれば、発動させるタイミングを自由に調整することができる。

 ルナは俺みたいに無詠唱を使えるわけじゃないから、事前に詠唱待機させるのは悪くない判断だろう。まあ、正直言って自分以外の誰かと一緒に行動するのって初めてだから、俺の判断に従わせて大丈夫なのかはちょっと不安なんだけどな。

 そんなこんなで、俺達は迷宮の奥へと進み始めた。







 『ガアアアアアアアアアア!』


 後ろからグレイウルフが襲い掛かってくる。

 灰色の狼は紅い目を爛々と輝かせながら、ルナに目掛けて牙を剥いた。

 しかし、ルナは咄嗟に右腕に装着したハンドボウガンを構え――射出。

 銀色の矢が寸分違わずグレイウルフの眉間を貫く。


 『ガア――ッ!?』


 即死したグレイウルフは途端に足をもつらせて、ルナの目の前で地に伏した。


 「すっげーな……百発百中じゃん」


 俺は正面を塞いでいたオークの首を跳ね飛ばしながら、素直に感心していた。

 ルナの技量は本物である。俺の勢いと武器に頼った戦い方と違って、ルナ動きはとても洗練されていた。

 恐らく、誰にも頼れない故に、彼女が一人で生きる術として身につけたのだろう。

 一体そこにどんな苦労が伴っていたのか、アンに教わってばかりだった俺には全く想像もつかない。

 ……ったく、情けない奴だな。ルナの実力を心配していた頃の自分を殴り飛ばしたいぜ。


 『……シュウ、ドロップアイテムよ!』

 「ん? マジか。大儲けだな!」


 思考の海に沈みかけたところをアンに引き上げられ、俺は目の前で光っている斧を見つけた。

 それはさっきまでオークが片手で振り回していた斧に間違い無いだろう。……え? それがドロップアイテムなの? ただオークが普通の斧を振り回してただけじゃなくて?

 俺の考えてることが分かったのか、アンが情報を補足してくれる。


 「斧も含めてオークが黒い瘴気に散った後、もう一度集束してこの斧になったから間違いないわよ。……ちゃんと見てたの? ダンジョンの中で注意散漫な行動取ってると呆気なく死ぬわよ?」

 「あ、ああ。……ごめん」


 うう……俺って本当に情けねぇ。なんか泣きたくなってきた。

 俺はついつい深い溜息を吐いてしまう。

 しかし落ち込んでいる暇だってダンジョンの中では許されない。俺は気を取り直して落ちていた斧を拾い、【鑑定】を発動させた。





*****



 石斧(せきふ)(ドロップアイテム)

 ・壊れにくい特別な石で作られている。



*****



 「……微妙だな」

 『そんなに高く売れそうにない感じ?』

 「さあな。でもドロップアイテム自体は貴重品なんだから、少なくとも普通の武器よりは価値があるだろ」


 俺達はドロップアイテムの価値に色々疑問を持ちながらも、とりあえず入手しておくことにした。と言っても、俺は荷物入れなんて持ってないから、必然的に空いている方の左手で持つことになる。

 いくら時間に追われているとは言え、色々と準備不足だったな。

 そんなことを考えていた俺に、後ろからルナが近付いてきた。


 「お兄さんは二刀流でも戦えるんですか? 凄いです!」


 ルナは俺の闘いを見てからというもの、これまでずっと「凄いです!」を連呼している。

 なんだかご機嫌を取られているようで、正直あんまりいい気はしないんだよな。本人は純粋に褒めてくれてるんだろうけど。


 「昔読んだ英雄譚の勇者様みたいです!」

 「え!? 俺は勇者じゃねーぞ!?」

 「です?」

 「あ、いや、なんでもない」


 俺は冷や汗を流しつつも必死に笑って誤魔化した。咄嗟に勇者なんて言われるから驚いちまったぜ。

 それにしても英雄譚? そんなのがこの世界には出回ってんのか。どうせ都合のいいことしか書いてないんだろうけどな。

 そんなことを考えていると、突然激怒したアンの声が迷宮内に響き渡った。


 『なんでもないわけないじゃない! ……この浮気者が!』


 この場の空気が凍りつく。

 俺は恐る恐る右手を見下ろすと、漆黒の魔剣から更にドス黒いオーラが駄々漏れになっていた。


 「あの……アンさん?」

 『二刀流? 二刀流ですって!? それって私以外の武器を使うってことよね? それって武器にとっては二股されてるのと同じだってことに気付いてる? ねえ、気付いているのかしら? ねえ!?』

 「……ええ? いや、でも二刀流剣士って普通にいるですよ?」


 俺は実力試験の時にアンが囁いてきた一言を思い出して、内心で「そういうことか」と納得する。

 しかしルナは納得がいかないようで、二刀流について肯定を求めていた。


 『それってアレでしょ? 双剣とか夫婦剣とかいう奴のことでしょ。アレは二本で一つの武器だから良いの! だけどね、あんなリア充と孤独な魔剣を一緒にしないでくれる? 私は由緒正しき魔剣として、マスターに私だけを頼って欲しいの! シュウが他の武器を気に入って私を使わなくなったらどう責任取ってくれるの? ねえ!? 無理矢理手の中に入り込んでやるけどね!』

 「え? あう……えっと……ごめんなさいです」

 『分かればいいのよ。……シュウ。残念だけど、その武器は置いていくしかないわ。ほら、早く捨てなさい?』


 アンは無駄に優しい声で俺に石斧を捨てるよう要求してくる。

 ……何なのこいつ。まるで婚期が遅れて焦った女性みたいな態度しやがって。はっきり言ってめんどくさい。

 しかし二刀流か。よくよく考えてみれば、俺にぴったりなんじゃないか?

 カルマウィザードと戦って以来、俺は極力防御を捨てた戦闘スタイルを維持している。所謂「攻撃が最大の防御」って奴だ。

 だからこそ、より攻撃の手数を増やす手段を手に入れるのは必要なことなんじゃないのか? そう思うと、ますます二刀流という戦闘スタイルで戦ってみたくなる。


 『シュウ? ほら、早く捨てて? ……捨てなさい。捨てなさいよ! そんなくだらない武器なんて捨てて私だけを――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』


 俺は左で持った斧を肩に担ぎ、右手から聞こえる悲鳴を無視してダンジョン探索を再開する。


 「あの……愛されてるですね」

 「こんな愛はいらん」

 『ああ!? いらないって言った! 今いらないって言った! 殺す! 絶対呪い殺してやるぅ!』


 実質二人だけのダンジョン攻略は、何故かとてつもなく騒がしかった。

 だけどルナが何処となく嬉しそうだったので、とりあえずアンを黙らせるのはやめておく。

 こうして俺達は、なんだかんだであっという間に二階層まで到達したのであった。


現在のシュウの装備

右手:魔剣アンサラー

左手:石斧

 頭:なし

 体:業魔黒衣(一応、その下には店で買った安物の服を着ている)

 足:学生靴(店には履き慣れないブーツしか売ってなかったらしい)


現在のルナの装備

右手:ハンドボウガン

左手:なし

 頭:なし

 体:冒険者ジャケット(その下にはぴっちりシャツ)

 足:冒険者ブーツ

装飾:藍色のシュシュ(髪を後ろに纏めている)


アンの不機嫌度:120%


予約投稿時、何故か主人公の名前が全てタクヤになっていたので慌てて修正したのは秘密。

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