第13話 ダークエルフと漆黒
急いで書いたので、少し雑な文になってるかもしれません。
「……え? クエストは受けられない?」
「はい。申し訳ありません」
俺は現在、ギルドを訪れている。理由は言わずもがな、クエストを受ける為だ。
しかしミレイさんの話によると、こんな田舎の村で受けられるクエストはダンジョンに関係するものだけであるらしい。
だがそのダンジョンは現在、とある理由によって立ち入り禁止にされているそうなのだ。故にここ最近、冒険者達の不満が高まっていて困っているらしい。
そしてその理由というのが――。
「――成人の儀……?」
「はい。昔からこの村に伝わる掟の一つでして、十四歳になった者は『試練の洞窟』というダンジョンに足を踏み入らねばならないのです。そしてダンジョン内で入手できる『精霊石』を持ち帰るまでの一連を、私達は成人の儀と呼んでいます」
「それで、成人の儀が行われている最中は部外者の立ち入りを禁止していると?」
「本当に申し訳ありません。しかし、流石にモンスターの問題もありますので、あと三日程待っていただければ……」
「ふうん……」
はっきり言って、三日も待つのは時間の無駄だ。しかし、昔から村に伝わっている掟というのを蔑ろにするのもどうかと思う。
俺は腕を組んで、これからどうするべきかを考えた。
「……ミレイさん。その“成人の儀”をまだ済ませていない人はあと何人いるんだ?」
「それは、一人です。……怖いモンスターと遭遇したらしく、今は自信を失って家に引き篭もっているそうですが」
「……え?」
「そもそも村の子供達が最低なんですよ。彼女だけ除け者にして! たった一人でダンジョンなんて進めるわけ無いのに!」
「あ、あの……それってもしかしてダークエルフの女の子?」
「……はい」
ミレイさんは俺を睨みながら頷いた。
多分、俺が件の少女を非難するつもりだとか思っているのだろう。勿論俺にそのつもりはないが、そう思われても仕方ない。
なにせダークエルフは漆黒と同様、この世界にとって忌み嫌われた存在なのだから。
何でも、かつて世界を脅かした邪神には数人の使徒が存在し、その多くはダークエルフと同じく褐色の肌を持っていたらしい。そのことから、ダークエルフは世界の忌み子という扱いを受け、疎まれているのだ。
本当にこの世界はどうかしている。たかが見た目の問題じゃないか。そりゃ、第一印象からいざこざが起きることは珍しくないのかもしれない。
でもだからって、本人が何かしたわけでもないのに外見だけで存在を否定されるのはおかしいんじゃないのか?
俺は少なくともそう思う。だから、俺は外見で人を判断しないように気を付けているのだ。美人は別だがな。
「俺が……その子の手伝いをすることは許されるのかな?」
「え? シュウ……さん?」
「要は一人じゃ危ないって話なんだろ? だったら、俺がその子に同行してやればいい」
「い、いいんですか? 我々も冒険者に協力を頼んでみましたが、全員その話を断ったんですよ?」
ミレイさんは驚愕しつつも、何処か期待に満ちた目で俺を見つめる。
そんな彼女に対し、俺は皮肉な笑みを浮かべて見せた。
「俺は別に構わない。ていうか多分、責任の一旦は俺にもあるだろうから。それに――」
「それに?」
「いや、なんでもない」
――俺も嫌われる側の人間だからな。
俺はミレイさんから少女の家の場所を聞いた後、ギルドの外へ出て行った。
今から思えば、初めてこの村に訪れた時からそうだった。
あの時ギリアンさんと言い争っていた冒険者達は、明らかにダークエルフの少女を蔑ろにしていた。確か『エルフモドキ』とか揶揄していたっけ。
一体、件の少女は今までどんな思いで生きてきたんだろうか。そんなことを考えながら、俺は少女の家を訪れていた。
「まあ、多分彼女にトドメを刺したのは俺なんだろうけどなぁ」
思わず溜息が零れる。
まさか業魔黒衣に【威圧】を発動させる力があるなんて思いもしなかった。
恐らく、あの時の彼女には俺がカルマウィザードにでも見えてしまったんだろう。
そりゃあ誰だって逃げる。俺も『魔霊の森』に囚われえてさえいなければ、戦おうなんて思いもいなかった相手だしな。
「お前のせいでこっちは迷惑してんだよ!」
「ご……ごめん……なさ……っ!」
「うるせぇな! 謝るくらいならさっさとダンジョンに行けばいいだろ!」
「そ、そんなこと言ったって……!」
俺が軽く落ち込んでいると、家の裏手の方から誰かの言い争う声が聞こえてきた。
ふと気になって様子を見に行くと、
「へへへ……! いい気味だぜ!」
「い、痛いですぅ!」
同い年だと思われる数人の少年達が、寄って集って一人の少女を虐めている光景が目に入った。
俺が探していたダークエルフの少女は今も一人の少年によって髪を強く引っ張られ、紫色の瞳からポロポロと涙を零している。
それを見た瞬間、俺の中で何かが切れた。
――ふざけるな!
俺は一瞬で頭の中が真っ赤に染まり、気が付けば少年の一人を思い切り殴り飛ばしていた。
「うわわあ!? な、何だこいつ!」
「あ、危ない奴だ! 誰だよ、こんな野蛮な奴を村に入れたの!」
「黙れ。さっさと失せろ。斬り殺すぞ」
俺はローブの中からアンを取り出し、その漆黒の刀身を怯える少年達に容赦なく向けた。
頭の中に「侵蝕率上昇中」という文字が現れたのも気にせず、殺気を放つ。
「あ、ああああああ!?」
「わあああああ!?」
「ひ、ひいいいい!」
俺の怒気にあてられた少年達は、顔色を青くしながら一目散に逃げ出していった。
そんな姿にますます苛立ちが募り、俺は思わず【カースドオーラ】を使いそうになる。まあ、使ったら狂乱化状態になるらしいから使わないけどな。
俺は無様に逃げて行くクソガキ共を鼻で笑いながら、アンをローブの内側に隠した。
「あ……あの……」
「……悪い。怖がらせたな」
俺は後ろで怯えていた少女に向けて、深く頭を下げた。
それにしてもあのクソガキ共、よく考えてやがったな。
今俺達がいる場所はちょうど建物同士の影になっていて、うまく通行人から見られないような死角になっている。
恐らく、あいつらは虐めの常習犯に違いない。やっぱり脅しだけじゃ物足りなかったかもな。
そんなことを考えていると、正面から「顔を上げてください」と言う少女の声が聞こえた。
「あ……あの……助けてくれて、ありがとうございますぅ」
「いや、どういたしまして」
「……あの、でも……どうして助けてくれたんですか? 私、ダークエルフなのに……」
「……」
少女は瞳を潤ませながら上目遣いでこちらを覗き込み、恐る恐る尋ねてくる。そんな彼女の顔には僅かに困惑の色が浮かんでいた。
それはまさしく、「自分は助けられるような人間じゃない」と言っているのも同義だ。
俺はそれが許せなかった。どうせこの世界にはそぐわない、俺の主観だけで判断した偽善に過ぎないんだろうけど、それでも俺は認めたくなかった。
だから俺ははっきりと言ってやった。
「種族なんて関係ない。俺はお前を助けたかったから助けただけだ」
「……え」
「第一、ダークエルフだからなんだってんだ! そんなくだらないことでお前が不当な扱いを受ける必要はないんだよ! ……だから、ダークエルフって言葉を卑下する為に使わないでくれ」
……ああ、駄目だ。まだ何処かで苛々している。
もう少し優しい口調で話し掛けるつもりだったのに、気が付けば上から押さえ付けるような話し方になっていた。
俺は一旦息を吐いて、今度こそ気持ちを落ち着かせる。
それからしっかりと彼女の目を見て、できるだけ優しい口調で問いかけた。
「確か君の名前は『ルナ』だったよな? ここに来る前、ミレイさんから聞いた」
「……はい、です」
「じゃあルナ。君にお願いがある」
「お願い……ですか?」
俺はフードを脱ぎ、今まで隠していた素顔をルナの前に晒した。
ルナの目が驚愕に見開かれる。しかし、彼女は俺を忌み嫌うどころか、「私と……同じです」と言って少しだけ警戒を解いてくれた。
嫌われ者同士……という意味なんだろうけど、やっぱり受け入れてもらえるのは嬉しいもんだ。
俺は頬を緩ませながらルナに言う。
「俺が素顔を晒したのは、ルナに誠意を示す為だ。だから俺を嫌うのならそれで構わない。だけどもし俺を嫌わないでいてくれるのなら、どうか君の“成人の儀”……俺にも手伝わせてもらえないか?」
そう言い終えた瞬間、何故かルナは泣き出した。
……やっべ! 何処で失敗した!?