第11話 冒険者カードと鑑定眼
説明回になってしまったせいか、今作最長の話になっています。
ちょっと詰め込み過ぎたかもしれません。
これは後で知ったことなのだが、あの実力試験はロカル村限定で行われているらしい。
なんでもこの辺りのダンジョンは危険度が高く、出現するモンスターも手強い為、新人冒険者にもそれなりの実力が必要なんだとか。
事実、あの試験を導入する前は冒険者登録する者が多かった反面、死亡率も高かったらしい。
「ふふふ……私の顔を殴った新人さんは貴方で十人目です」
「結構多くね?」
「そんなことありませんよ! 私のようなエリートは色んな場所で新人達と手合わせをしているんです! それこそもう五百人は相手にしてるんですよ! その中の十人って言ったらメチャクチャ少ないじゃないですか!」
「バリバリ戦闘狂じゃねーか」
今俺達はギルドに戻っていて、冒険者カードを発行している。
これでようやく俺も、冒険者という身分を手に入れることができたわけだ。後でギリアンさんにも報告しておかないとな。
ちなみに、冒険者カードの発行は意外と簡単だった。
ミレイさんが用意してくれた透明なプレートの上に、俺の血を一滴垂らすだけ。これだけで俺の冒険者カードが出来上がるのだと言う。
ただし、俺の血がプレートに馴染むまで少し時間が掛かるらしい。その為、俺はこうしてミレイさんの話(主にミレイさんの武勇伝)を聞きながら、待ち時間を過ごしていた。
「そういえば今更ですけど、このプレートって一体何なんですか?」
「ですから私はこの拳で……ああ、このプレートは純粋な魔素を特殊な魔法で固めているのです」
「純粋な魔素? 大気に含まれるあの魔素ですか?」
「はい。大気中に存在するあの魔素です。これにシュウさんの血を馴染ませることで、シュウさんの体に取り込めるようにするわけですね」
「取り込む? 何でまた?」
「そうすれば盗まれる心配も失くす心配もないでしょう? それに冒険者カードは身分証であると同時に、各クエストを達成した際の重要な証拠になりますからね。所有者と一体化させた方が何かと便利なのですよ」
「へぇ……よく良く分からないですけど、便利そうですね」
「あはは……。まあ、覚えるより慣れろって言いますし、そういうものだと理解していただければ十分です」
覚えるより慣れろ……ね。
そういえばアンも、俺に魔法や剣術を教える時に似たようなことを言ってたっけ。えーと、確か……『考えるな、感じろ』だったかな?
アンも少しだけ戦闘バカみたいな一面があるし、やっぱり脳筋同士考え方が似るのかね。
そんなことを考えている間に、透明だったプレートが淡い光を放ち始めた。
「おお! どうやら完成したみたいですね。シュウさん、そのプレートに触れてみてください」
「こうか?」
プレートの上に手を重ねてみると、体の中に何かが入り込むような感覚を覚えた。
しかし不思議と異物感は全く感じない。しばらく経つと、その感覚すらも完全に消えてしまった。
「……その様子だと無事に一体化したみたいですね。冒険者カードを出すことはできますか?」
「ああ」
俺と完全に同化してしまったので、カウンターの上にさっきのプレートは存在しない。
その代わり、俺は念じるだけで手から冒険者カードを取り出せるようになっていた。
ちなみに俺以外の人間はこのカードに触れることができないらしい。まあ、元が純粋な魔素で作られてるようだからな。空気を掴むようなもんなんだろう。
「では冒険者カードを見せてください。一応、最初だけは貴方の個人情報……ステータスを確認させてもらいますが、それ以降はステータスを開示する必要はありません。ちなみに、ステータスは本人の意思で相手に見えないよう設定することができます」
「分かった。これでいいか?」
冒険者カードは所有者の血から情報を読み取り、所有者の魔力や冒険者としての実績が表示されるようになっている。
それはクソ聖女と一緒に使った、あの水晶よりも詳細な情報だ。
今思えばあの女、本気で勇者の力にしか興味が無かったんだろうな。あの水晶は魔力しか測れなかったし、あいつが俺の名前を聞くことも無かった。まあ、俺もあいつの名前は知らないんだけど。
ちょっと嫌なことを思い出しながら、俺は取り出した冒険者カードをミレイさんに見せた。
「はい。それじゃ確認させてもらいますね……というか、いつの間にタメ口になったんですか? まあ、その方が親しい感じがして私的には好感度高いんですけど――」
ミレイさんはちょっと嬉しそうな表情で俺のステータスを読み始める。
しかし、彼女は俺のステータスを読み進めるたびに顔色が悪くなり、読み終わった頃には虚ろな瞳に変わっていた。
一体何があったんだ? ていうか俺のステータスにそんな要素あったか? ……あったかもしれない。
「うふふふ……嘘ニャ。潜在魔力がDしかないヒューマンに、肉弾戦で負けたニャんて」
「……事実だけどはっきり言うなよ」
やっぱりここでも潜在魔力が重視されるのか!
まあ……この世界はほぼ魔法で成り立ってるようなもんだから、仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど。
それに猫人族は多種族を圧倒する戦闘能力が売りらしいしな。
俺は溜息を吐き、気を取り直して自分のステータスを確認した。
*****
シュウ・ミモリ(ヒューマン)
Lv.1
適正魔力:無属性
潜在魔力:D
アビリティ:【鑑定眼】
・初めて使用した能力に対し、必要な知識を得られる。
・視認した対象情報を分析可能。
*****
「あ、あれ? 何か変な項目があるぞ……?」
それに何処にも『スキル』のことが載ってない。これは一体どういうことだ? まさかこのカード、欠陥品なんじゃ……。
俺は少々不安になり、ミレイさんに尋ねようとして、彼女が使い物にならないと悟った。
そんなに俺に負けたことがショックなのか、ブツブツとうわ言のように何かを呟いている。その姿はヤバイ薬に漬けられた廃人に近い。
……ったく、本当にめんどくせー人だな。
「戻ってこーい!」
「にゃぐはっ!?」
俺はミレイさんの頭に容赦なく頭突きを喰らわせる。
この人が美人でよかった。おかげで躊躇いも無く攻撃ができたぜ。
無事に正気を取り戻したのか、ミレイさんが涙目で俺を睨んできた。
「にゃ、にゃんてことするんですか! もう試験中じゃないんですよ! 乙女を一体なんだと思っているんですか!?」
「抹殺対象だな」
「んにゃっ!?」
「冗談だ……多分な」
「ちゃんと否定してください!」
「そんなことより、冒険者カードについてちょっと確かめたいことがあるんだけど……」
ミレイさんの憤慨する様子を少しだけ楽しみながら、俺は本題へと話題を移す。
「そんなことって……はぁ。それで、何が聞きたいんですか?」
「いや、レベルとかアビリティっていうのが何なのか教えてくれないかなと思って。それと、表示されるのはこれだけなのか? 本当は他にも表示されなきゃいけない項目とかあるんじゃないのか?」
「あー、そういえばまだ冒険者に関する説明をしていませんでしたね」
俺が質問すると、ミレイさんは今更思い出したように両手を叩いた。
それからカウンターの引き出しを開けて、一冊の本を取り出す。そこには明らかに手書きの文字で「ゴブリンにも分かる冒険者講座」と記されていた。
「これを読めばいいのか?」
「はい! それを読めば冒険者の何たるかがすぐに分かると思います! それでも分からないことがあれば、遠慮なく尋ねてください!」
「やけに自信たっぷりだな」
「勿論です! それ作ったの私ですから!」
……あ。やっぱりこの本、手作りなんだ。
ていうかこの人、戦闘以外だと全く残念じゃないんだな。だからギルドをクビにされないのかも。
そんな失礼なことを考えつつ、俺は本の中身をざっくりと読み通した。
『ギルドは冒険者に様々な仕事を斡旋しますが、冒険者の主な活動はモンスターの討伐、ダンジョン攻略となります。これはダンジョンから無限に増え続ける瘴気を抑制する為であり、モンスターの脅威から一般市民を守る為です。あと、国の騎士団とは仲が悪いです』
なるほどな。確かにダンジョンは瘴気を無限に生成する場所だ。
つまり、無限にモンスターが誕生するということでもある。これを無視していると、いずれダンジョンの外に大量のモンスターが溢れかえってしまうだろう。
最悪の場合、瘴気の濃度が上がってボスモンスターが大量生産されるかもしれない。
こりゃ各国が冒険者を支援するわけだ。誰だって、モンスターをダンジョンの外には出したくないからな。
……でも、最後の一文は必要か? なんだよ。騎士団とは仲が悪いって。市民を守るっていう仕事が被ってるからか? 協力して助け合えばいいだけじゃん。
『冒険者にはレベルがあり、実績を積み上げることによって、そのレベルが上がっていきます。また、レベルは冒険者としての実力を示す目安にもなるので、レベルが高いほど評価が上がり、国やギルドから受けられる恩恵もグレードアップしていきます。ちなみに現在ギルドが確認している、冒険者の最高レベルは9です』
ああ、レベルってやっぱりそういう意味だったんだ。
てっきりここがゲームみたいな世界で、俺が最弱設定とかだったらどうしようかと……ゲームってあれだよな? 確か、てれびげーむ? 的な? あれ、何か今思い出しそうだったぞ。誰かと一緒に遊んだことがあったんだっけ? 親友か妹かな? うーむ、分からん。
『尚、冒険者がダンジョンから持ち帰った資源はギルドで換金することができます。鉱石でも植物でもドロップアイテムでも何でもいいので、とにかく持ち帰ることが大切です。場合によっては一攫千金のチャンスがあるかも?』
おっ! いきなり夢のある話になってきたな。一攫千金か……ちょっと憧れるかも。
そういえば、グールゴブリンからドロップアイテムを手に入れてたっけ。後で換金してみよう。
『最後に、冒険者カードの説明をしておきます。冒険者カードは普通の魔力測定器とは異なり、冒険者の名前やレベル、その人が持つ特殊能力――アビリティの表示も行います。またクエスト受注時に限り、モンスター討伐数が記録されるようになっています。実績を上げるチャンスにも繋がるので、レベルを上げたい方は積極的にクエストを受けることをお勧めします!』
おおおお! 特殊能力! つまり『勇者の力』じゃない、俺自身の力がアビリティってわけか! ていうか俺にそんな力があったのか!
……そういえば【鑑定眼】の能力説明、めちゃくちゃ心当たりがあるな。
そうか。魔法やスキルを使った時に頭に浮かんだ知識は、全部このアビリティのおかげだったのか。
そして相変わらずスキルのことは何も書かれて無いな。……もしかして、俺自身の力じゃないから、冒険者カードにも表示されないってことなのか?
試しに俺は自分の手を見つめて、【鑑定眼】と念じてみた。
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シュウ・ミモリ(ヒューマン)
Lv.1
適正魔力:無属性
潜在魔力:D
アビリティ:【鑑定眼】
・初めて使用した能力に対し、必要な知識を得られる。
・視認した対象情報を分析可能。
スキル:【全能強化】
・あらゆるものを強化、増幅する(術者の身体限定)。
・未発同時は強化対象が学習能力、思考能力、回復力に固定される(威力弱)。
・心象具現が明確なほど威力上昇。
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おお! 頭の中で、ちゃんとスキルごと俺のステータスが表示された!
視認対象を分析できるっていうから試してみたけど、こんな感じで頭の中に文字が浮かぶんだなぁ。……やべえ。【鑑定眼】ってメチャクチャ便利じゃん! これなんてチート?
俺はつい調子に乗って、こっそりドロップアイテムと一緒にアンを鑑定してみた。
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グールカード(ドロップアイテム)
・武具作成時の素材となる。
・闇属性が付与される。
業魔黒衣(ドロップアイテム)
・隠蔽効果があり、着用者の顔は相手に意識されなくなる。
・最初から一対一の場合のみ【威圧】が発動する。ただし初見限定なので、一度発動した相手には効かない。
・【カースドオーラ】を使用できるようになるが、その間は狂乱化状態になる。
魔剣アンサラー(呪われた装備):同調率25% 侵蝕率10%
・主となった者に呪いを掛けて離れなくなる。
・第一形態:【紫紺光剣】
・第二形態:【――】
・第三形態:【――】
・第四形態:【条件未達成】
・第五形態:【条件未達成】
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……おいおい。相棒よ、お前はやっぱり呪われた装備だったのか。ていうか、色々と突っ込むべきことがあるな。同調率とか侵蝕率の意味が分からん。
おまけに魔剣の能力自体は全くと言っていいほど開示されてないな。一番上の説明とか、最早魔剣じゃなくて呪いの効果じゃねーか。
それに業魔黒衣の効果も色々と危ねえだろ。
一対一の場合に【威圧】が発動するってなんだよ。ここに来る前に出会った少女が逃げ出したのって、もしかしなくてもこの能力のせいじゃん!
不思議とグールカードがしょぼく見える。一番まともっぽいのに。
「……はぁ。なんか疲れた」
「そんなに文字を読むのが辛かったら私が読み上げましたのに」
「いや、別にそういう意味じゃないから」
俺は何も知らないミレイさんに苦笑を浮かべ、とりあえずグールカードを換金することにした。
何故少女が逃げ出したのか、それにはちゃんと理由があったみたいですね。
覚えてますか? プロローグに出てきた少女です。
ていうか次に少女が再登場するのはいつなんでしょうか?