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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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第10話 実力試験

 面倒なことは手短に片付けておいた方がいい。

 そう思っていたが、俺はギルドの中から漂う美味しそうな香りに刺激され、腹が切なく鳴ってしまった。

 どうやらギルドというのは、食堂としての一面も持っているらしい。ロビーにはいくつか長方形のテーブルが並べてあり、そこに冒険者らしい客達が座っていた。

 彼等は武器を常に携帯しており、それぞれ豪快な食べ方で運ばれてきた料理を平らげていく。

 そんな光景を見せられて腹が空かないわけがない。それに、俺はこの世界に来てから一度もまともな料理を口にしたことはないのだ。

 思えば酷い食生活だった。森に生えたクソ不味いキノコを適当に焼いて食べたり、大木に生っていた渋い木の実を無理矢理胃の中に詰め込んだり……あれ? なんか涙が込み上げてきた。べ、別に悲しくなんかないからな!

 でも……一旦食事のことを考えるのはやめよう。まずは身分証の確保が先だしな。

 本来の目的を思い出した俺は、迷わずギルドの受付カウンターを訪ねる。

 すると、そこには金色の髪から猫耳を生やしている美人のお姉さんが座っていた。


 「……もしかしてキャットピープルか? ……初めて見た」

 『アンタの場合、ヒューマン以外は全部初めてでしょ』


 この世界には色んな種族がいる。話だけなら何度もアンから聞かされていたが、やはり実際に見ると驚いてしまう。あの耳、どういう構造になってんだろう?

 そんなどうでもいいようなことを気にしつつ、俺は彼女の目の前まで歩いていった。

 彼女が着ている制服の胸元には「ミレイ」と書かれたプレートが付けられている。恐らく、このお姉さんの名前なんだろう。

 ミレイさんは俺に目を合わせると、必殺の美人スマイルを浮かべながら話し掛けてきた。


 「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか?」

 「……冒険者登録をしたいのですが、今すぐ実力試験は受けられますか?」


 しかし、今の俺は動じない。

 美人だからと言って気を抜く男は三流だ。そんなんだからクソ聖女みたいなクソ女からクソみたいな目に遭わされてしまうのだ!

 いいか? 美人を見たら見惚れる前に警戒しろ! これはこの世界で生きる為の鉄則である! ……ふぅ。少し落ち着こう。


 「冒険者登録ですね。……では、まずはこちらの用紙に必要事項を記入してください」


 ミレイさんは美人スマイルを浮かべたまま、手に収まるくらいの小さな用紙をペンと一緒に渡してきた。

 俺はそれを黙って受け取り、渡された用紙の内容を一通り確認する……と言っても大したことは何も書かれていなかった。

 どうやら名前と出身地、あとは年齢さえ書いておけば問題ないらしい。

 ……。

 …………。

 ……あ、俺、名前以外何も分かんねーや。


 「……あの、どうかしましたか?」

 「え、あ、いや……すみません。これって、絶対に全部書かないと駄目なんですか?」


 流石にこれは手の打ちようがない。年齢はともかく、出身地は適当に書いていいもんじゃないだろう。

 もしミレイさんが世界地理に詳しくて、「はぁ? そんな地名は何処にもねーよ。何でそんな嘘書いたんだ? ああん? 『魔霊の森』へ強制連行するぞコラ」みたいな展開になったら目も当てられない。

 ……いや、流石にこれは無いだろうけどさ。でも、余計な嘘は吐かない方がいいと思う。ギリアンさんが持っている『真実のベル』とかを考えると……尚更な。


 「いえ。最悪、名前さえ記入して頂ければ結構ですよ? 冒険者ギルドは実力重視ですから」

 「あ、そうですか。ありがとうございます」


 ……よし。念の為に聞いておいて良かった。

 俺は遠慮なく用紙に名前だけ書くと、そのままそれをミレイさんに渡した。

 ちなみに、俺はこの世界の文字を読み書きすることができる。アン曰く、これも勇者の力の一部であるらしい。覚えてもいない言語体型が理解できるのもそのおかげだ。


 「えーと、貴方の名前はシュウ・ミモリさんですか……ミモリ?」

 「何か問題でもありましたか?」

 「あっ……! えっと、すみません。こちらの勘違いです。では、早速実力試験を始めますので、奥の通路に進んでください」

 「……? 分かりました」


 ……一体、俺の名前を見て何を勘違いしたのだろうか?

 彼女の態度に釈然としないものを感じたが、今は実力試験の方が大事だ。

 俺はミレイさんに言われたとおり、ギルドの奥に見える通路へ進んでいった。

 通路は思ったよりも短く、意外なことに外へと通じていた。


 「……ここは?」

 「ここはギルドの訓練場です。時間を持て余した冒険者は、よくここで自分の技術を磨いているのですよ」

 「へえ……」


 なるほど。確かに、言われてみれば訓練場だ。

 隅っこには木剣や木槍などの武器が立て掛けられており、ちらほらと戦っている人達まで見受けられる。

 そんな様子を眺めていると、ふと先行していたミレイさんの足が止まった。

 そして制服の袖を捲くり、軽くストレッチを始めている。


 「……何をしているんですか?」

 「決まっているでしょう? 実力試験前の準備運動です。シュウさんはやらなくても良いんですか? 準備運動」

 「えっ!? もしかして俺、これからミレイさんと戦うんですか!?」

 「はい。私はレベル4の冒険者でもありますから、試験管の資格も持っているんですよ」

 「レベル……4? 試験管?」

 「まあまあ、詳しい話は試験の後で。とりあえず、試験内容だけ教えておきますね」


 ミレイさんはそう言うなり、いつの間にか持っていた白いボールを地面に向けて思い切り叩き付けた。

 その直後にボールが割れ、そこから俺達の周囲に向かって幾何学的な模様が広がっていく。やがてそれは一つの魔法陣として完成し、淡い白色の光を放ち始めた。


 「あの……これは?」

 「これは仮想空間陣です。この中で戦えば、どんな攻撃を受けても死ぬことはありません。激痛によるショック死はあるかもしれませんが」

 「おい!」

 「とにかく、ルールは簡単。降参するか、気絶するか、この仮想空間陣の外に出た方が負けです。制限時間は十分。ああ、安心してください。別に私に勝てなくても、必要最低限の実力を見せてもらえれば間違いなく合格ですから」

 「いや、ショック死の話はスルーですか?」

 「じゃ、早速始めましょうか?」

 「聞けよ!」


 脅威のスルースキルを発揮するミレイさん。

 今の彼女は猛獣のような猛々しい戦意を纏い、すっかり好戦的な笑みを浮かべてしまっている。

 どうやら彼女、根っからの戦闘狂(バトルジャンキー)であるらしい。これだから美人に気を許しちゃいけないんだよなぁ。


 「武器はその辺に立て掛けてあるのをお使い下さい。私は(コレ)で十分ですから」

 「じゃあ俺……も(コレ)で十分です」


 ミレイさんが拳を突き出してきたので、俺もそれに応じることにした。

 本当は木剣を使おうと思ったのだが、ローブの内側から小声で『浮気したら殺す』という呪詛の言葉を聞いてしまった為に、断念せざるを得なかったのだ。


 「……! ふふ。貴方みたいな人、タイプです」

 「俺は貴方みたいな人、勘弁願いたいですね」


 ミレイさんは八重歯をちらりと見せて不敵に笑った。

 その自信に満ちた彼女の姿が、ほんの一瞬だけあのクソ聖女と重なる。

 俺は思わず自分の拳をより固く握り込んでしまった。

 ……まあいいか。ちょうど対人戦でどれだけやれるか、試してみたかったところだ!


 「それじゃ……始めますよ!」

 「――ッ!?」


 次の瞬間、俺は驚愕して目を限界まで見開いた。

 あまりにも速すぎる、瞬間移動したかのような超接近。スキルの発動さえ間に合わない。

 俺がなんとか対応しようと体を動かし始めた時にはもう遅く、ミレイさんの拳は完全に振り抜く動作へと移行していた。

 ミレイさんは金色の瞳を細め、容赦ない正拳突きを俺の体に叩き込む。


 「ぶふにゃっ!?」


 そして勢い良く後ろにぶっ飛び、あっさりと仮想空間陣の外に出て行ってしまった。


 「あ……あれ?」


 どうやら俺は、無意識の内に【バーストフォース】を発動していたらしい。

 それは僅か一秒足らずの出来事で、何が起きたのか理解する前に勝負は決していた。


 「な……何が起きたのニャ?」

 「さあ? でも、俺の勝ちですよね」


 混乱しているミレイさんの喋り方に少し違和感を感じたが、それは華麗にスルーしておく。

 ただ俺は、自分でも釈然としないまま、ありのままの事実を宣言した。







 「うぅ~~! にゃっとくいかないです!」


 そしてあの戦いの後、俺はミレイさんに無茶苦茶問い詰められた。

 どうやら彼女はかなりの負けず嫌いらしく、俺の勝利に色々と難癖をつけてきたのだ。

 卑怯だの、反則だの、もう一度勝負しろだの……本当に面倒臭かった。

 俺だって納得してなかったけど、あのミレイさんの動きを見て再戦を望むほど豪胆な精神は持ち合わせていない。

 そういうわけで、俺は手の内を明かして、何とか俺の勝利を認めてもらうことにした。


 「……無詠唱で魔法が使えるぅううううううううううううううううううううう!?」

 「そんな驚くことですかね?」

 「あ、当たり前じゃないですか! そんなこと高位の魔術師さんでも滅多にできることじゃありませんよ! 何で使えるんですか!? 何で使うんですか!? 何で事前に教えてくれなかったんですか! それを知ってたらもっと上手い対処法があったのに! やっぱり卑怯です! そうです! 私はまだ負けてない!」

 「うわっ……!? めんどくせーのがまた始まった!」


 しかし、俺の作戦は失敗。ミレイさんは地面に寝転がって手足をバタつかせ、駄々っ子のように再戦を申し込んできた。

 あまりの残念な光景にどうしようか迷っていると、訓練場にいた他の冒険者達の声がふと聞こえてくる。

 それはある意味衝撃的な内容だった。


 「おい、あそこ見ろよ。久しぶりに有望そうな新人が現れたみたいだぜ」

 「あーあ。またミレイちゃんの発作が始まった」

 「あの人、一度ああなると止まらないからなぁ」

 「美人なのに残念な性格してるよねぇ。まあ、私の方が美人だけど?」

 「おーい新人! すまねえが、もう一度戦ってやってくれないか! じゃないとその人、使いもんにならないんだよ! おまけに煩くって訓練も集中できねえ!」


 もう驚きを超えて呆れたね。

 ミレイさん、他の人にもこうやって駄々捏ねて困らせてたのか。よくそれで仕事クビにならないよな。ある意味すげーわ。

 流石の俺も、他人に迷惑を掛けてまで保身に走るつもりはない。

 本当に渋々だが、俺はミレイさんの我儘に付き合ってやることにした。ただし、今度は最初から本気で行く。


 「【バーストフォース】! 爆速追撃!」

 「にゃぶふぁあああ!?」


 そして、勝負は数秒で終わった。

 俺は勝負が始まる前に【全能強化(ゼウスブースト)】を発動しておき、ミレイさんの動きに対応できるようにしていたのだ。

そしてタイミングを見計らって【バーストフォース】で吹き飛ばし、その後は強化された脚力で彼女に追いつき、俺の意思で確実にぶっ飛ばしてやった。

……これでまたあれこれ文句を言ってきたら、もう一度ぶん殴ろう。

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