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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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第9話 ロカル村

前回のあらすじ

逃げていく少女を追ったら村を見つけた。言っておくが俺は何も悪くない。(by集)

 村の周囲は高い木の柵に囲まれていて、外からモンスターが入ってこれないように工夫されていた。

 入口には簡素な門が設けられており、今は開放された状態になっている。

 しかし、少数だが門の前には人の列ができており、門番らしき男と何かを揉めているようだった。

 ……検問って感じじゃねーよな。それにしては門番の方が押されてるような気がする。

 気になった俺はそっと列の最後尾に並んで、門番達の会話を盗み聞くことにした。


 「いい加減にしなさいよ! いつになったらダンジョンを一般開放してくれるの!?」

 「そうだぜ。“成人の儀”っていう大事な儀式に使われてるのは知ってるけどよ……まだ済ませていない奴が終わるまで、ずっとダンジョンを封鎖しておくってのは横暴すぎるんじゃねーか?」

 「ていうか、その済ませていない奴って、さっき村の中に入っていったダークエルフだよな! 何であんな『エルフモドキ』を悠長に待たなきゃなんねーんだよ!」

 「あー、もう! そんな文句はギルドに言え! 何でどいつもこいつも門番の俺に突っ掛かってくるんだ!」


 門番の男は心底面倒臭そうに叫びながら、文句を言う奴等の相手をしていた。

 そんなやりとりを黙って聞いていると、目の前に立っていた奴が俺に気付き、話を振ってきた。


 「なあ、あんたもそう思うだろ?」

 「え? あ、いや……すまん。実は今さっきこの村に着いたばかりで、よく事情を飲み込めてないんだ」

 「ああ、なんだ。っていうことは手続き待ちか。そりゃ悪いことしちまったな。おい、他の冒険者さんが迷惑してるぞ! 俺達はギルドに行こうぜ!」


 どうやら目の前の男は俺を冒険者だと勘違いしたらしい。

 彼は俺に謝った後、他の連中を引き連れて、さっさと村の中に入っていった。


 「……ふぅ。やっと行きやがったか、あのボンクラ共。……助かったぜ冒険者さん。この村に来るのは初めてだよな? 早速だが冒険者カードを提示してくれ」

 「冒険者カード?」


 詰問の嵐から解放された門番が、愚痴と共に安堵の溜息を吐く。

 そして俺に笑いかけながら、当たり前のように手を差し出してきた。

 しかし、俺はその「冒険者カード」という物を知らない。アンにスパルタで叩き込まれた知識の中に、そんな物は無かった筈だが……。

 まあ、アンは俺より長く『魔霊の森』に閉じ込められていたみたいだからな。その間に作られた物だとしたら、知らないのも無理はない。

 俺は、素直に冒険者カードを所持していないと門番に告げた。


 「あ、そうなのか? 悪い悪い。魔術師みたいな格好してるから、てっきりアンタも冒険者なのかと思ってた。それじゃ、普通の身分証を見せてくれ」


 おっと。今度は身分証と来たか。

 門番は人懐っこい笑みを浮かべながら、相変わらず差し出した手を引っ込めようとしない。

 俺は自分の顔が引き攣ってるのを自覚しながら、身分証も持っていないと打ち明けた。


 「……は? いや、それは有り得ねえだろ。身分証だぞ? 失くすこともできねえ代物を何で持ってないんだ? ……まさか、脱走した奴隷とかじゃねーよな?」

 「いやいや!? 違うって! 俺は……その……ずっと森の中で暮らしてきたから、外の常識に該当してないってだけで! ほんと、怪しい奴じゃないんです!」

 「いや、その慌てようは怪しいだろ。……ん? でも『真実のベル』には何の反応もねえな? どうなってやがるんだ?」


 男は笑みを凍りつかせ、俺を責めるように質問してきた。

 流石に奴隷扱いされるのは嫌だ。こんな所でまた自由を失ってたまるかよ!

 俺は全力で首を左右に振りながら、身の潔白を証言する。

 多少は話をぼかしているが、嘘は吐いていない。それが功を奏したのか、門番は俺の話を頭から否定してくることはなかった。

 どうやら彼の篭手に括りつけてある銀色のベルが、嘘発見器みたいな役割をしているらしい。……あからさまな嘘を吐かなくて本当に良かった。


 「あの、それで身分証ってどうやったら手に入るんですか?」

 「あ、ああ。……身分証は普通、生まれた時に街の市役所で発行される。この村じゃ無理だ。だからお前の場合は、冒険者カードを発行してもらった方がいいと思うぞ。それならこの村のギルドで作ってもらえるからな」

 「その冒険者カードっていうのも詳しく知らないんですが」

 「……おいおい、マジかよ。何者なんだお前」


 門番は珍獣を見るような目付きで俺を見下ろしつつも、冒険者カードについて簡単な情報を教えてくれた。

 どうやらこの世界において冒険者とは特別な職業らしく、国から独立した機関――冒険者ギルドに属して活動しているらしい。そして各国は冒険者ギルドの存在を認めており、微細ながらも冒険者達に色々な支援を送っているそうだ。

 その為、一般人が冒険者の名を騙れないように、ギルドは冒険者専用の身分証、つまりは冒険者カードを発行することにしたのである。


 「まぁ、冒険者の真似事をして利益を得ようなんて馬鹿は、最近滅多に現れないけどな」

 「……なるほど。つまり冒険者になれば身分証が手に入るというわけですか」

 「まあそういうことだ。ただし、実力試験に合格しないと冒険者にはなれない。これからギルドに向かうつもりなら、それなりの覚悟はしておけよ?」

 「分かりました。なんか、色々と教えてくれてありがとうございます」

 「気にすんな。困ってる人を村で保護してやるのも、門番の仕事の内だからな」


 俺が頭を下げると、門番の男は照れくさそうに笑った。

 ……本当は俺みたいな怪しい奴、放り出してもいい筈なのに。

 きっとこの人は根っからの善人なんだろう。あのクソ聖女とは大違いだ。いや、あの女と比べること自体が間違ってるな。じゃないと、この人に失礼すぎる。

 俺はそんなことを考えながら頭を上げ、身分証の代わりに自分の名前を教えた。


 「俺はシュウです。見た目は魔術師っぽいですけど、実際は剣を使います」

 「そうか、後で訪問者リストに登録しておこう。……そういや俺の名前をまだ言ってなかったな。俺はギリアン・バリケード。いつもこの時間は門番をしてるから、冒険者カードを手に入れたら、もう一度ここに来てくれ」

 「分かりました! じゃあ行ってきます!」

 「頑張れよ」


 こうして俺はギリアンさんの厚意に感謝しつつ、ロカル村を訪れた。







 『……ふう。黙っておくのも大変ね』

 「文句言うなよ。『私がレア物だって分かったら色んな人に狙われちゃうわ!』って言ったのはお前なんだから」

 『……そうだけど……あ、また人が来た』


 俺は現在、アンをローブの内側に隠している。

 流石に抜き身の剣を手に持っておくのは不味いからな。早めに鞘を手に入れなければならない。……この村の何処かに売ってるといいんだが。

 そしてアンもまた、近くに人がいる時は喋らないように気を付けている。理由はさっきの通り、魔剣の価値を知っている奴等に狙われない為だ。

 まあ、アンはどうやっても俺から離れないから、別に盗まれる心配はないんだけどな。でも、余計な敵は作らない方がいいに決まってる。

 そういうわけで、俺達は周囲の視線を気にしながら村の中を歩いていた。


 「それにしても……冒険者か。特別な職業って話だけど、一体何が特別なのやら。……アンは何か知ってるか?」

 『知らないわよ。私が封印される前には冒険者なんて職業は無かったんだから』

 「じゃあ、やっぱり……直接聞きに行くしかないか」


 俺はそこまで話して立ち止まり、目の前の建物をゆっくり見上げた。

 村の大部分を占める小さな家と違って、その建物だけはずば抜けて大きな造りになっている。そして開放された玄関からは、武装した人達が頻繁に出入りしているようだった。


 『……冒険者ギルドって傭兵の集会所なのかしら?』

 「さあな。俺が知るか」

 『まぁここまで来たら、なるようにしかならないわよね。でも大丈夫。私達は最強だから、実力試験っていうのも軽く突破できるわ!』

 「だからお前のその自信は一体何処から来るんだよ! ……はぁ」


 ……アンが最強なのは認めるけど、俺はお前ほど強くは無いんだよ。

 俺は重苦しく溜息を吐いて、冒険者ギルドの中に足を踏み入れた。


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