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出来損ないの魔剣使い  作者: 無頼音等
第二章 精霊の試練
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プロローグ『空から舞い降りた災厄』

 「……はぁ。“成人の儀”……どうしたらいいんですぅ?」


 少女は先程から『試練の洞窟』というダンジョンの前で、ずっと行ったり来たりを繰り返している。

 銀色の頭を抱え、細長い耳を揺らし、どうしようかと悩んでは落ち込んでいた。

 しかし、それも仕方無いことであった。

 基本的に“成人の儀”は他の参加者とパーティを組んで行うものである。だが、彼女にはパーティを組んでくれる相手がいなかったのだ。

 分かりきってはいたことだが、やはり自分の不遇を改めて実感させられ、少女は少しだけ涙を流した――その時。


 『グルルルル……!』


 耳朶に触れたのは、餌に飢えた獣の唸り声。

 少女は咄嗟にダンジョンの入口に視線を移し、背中の筒から一本の矢を取り出した。

 モンスターは瘴気がある場所なら何処にでも出現するが、時折、こうしてダンジョンから外に現れる個体もいるのだ。

 少女は腕に取り付けられたハンドボウガンを構え、狙いを定める。


 「【――大気を統べる風の御霊。我が一撃に力を添えて、その荒ぶる風を解き放て!】」


 同時に、少女は風属性の中級魔法を詠唱した。

 緑色の光が少女の足下から溢れ出し、吹き荒れるように疾風を生み出す。そしてその光は矢の先端部に集束し、一層強い暴風を引き起こした。


 『グルルル……!?』


 ダンジョンの入口から現れたのは、棍棒を構えた豚の化け物、オークである。

 その無駄に肥えた脂肪の塊に、少女は容赦なく先程の魔法を解き放つ。

 直後、風はボウガンの矢と一つになり、一条の緑光を生み出した。


 「【全てを貫き打ち払う、暴風の礫を今ここに――エリアルレイザー】!」

 『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 緑色の光を帯びた矢は、大気に渦を作り出し、凄まじい速度で驀進する。

 オークはそれを打ち返そうとするが、飛来する閃光に棍棒が触れた瞬間――爆ぜた。

 穿孔機の如く棍棒を開通し、必殺の一撃がオークの腹部に直撃。

 大気は唸りを上げて、オークの内側から膨れ上がる。


 『ブ、ブヒャアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 その一秒後、オークの体はバラバラに弾け、周囲に大量の血肉をばら撒いた。

 一部始終を見届けた少女は確かな戦果に拳を握り、胸を揺らしながら飛び跳ねる。


 「うわーい! やったぁです! もしかして、わたし一人でもやれるんじゃないですかぁ!」


 少女は自分自身を褒め称え、もしかしたらロカル村で初めて、“成人の儀”を単独達成できるのではないかと喜んだ。

 勿論、それは本心ではなく孤独を紛らわせる為の強がりであったが。

 そんな彼女に、突然声を掛ける者が現れた。


 「おーい! ちょっといいかー?」

 「ふえっ!? だ、だだだ誰ですか!? 何処にいるんですか――ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 そして、少女は脱兎の如く逃げ出した。


 「え? あ、おーい! 道を聞きたいだけなんだけどー!」


 突如空から舞い降りた黒い影。

 それは邪神の如く禍々しいオーラを放っており、顔はフードによって隠れている。

 そんな黒ローブの男は、何処か必死さを滲ませながら少女の後を追い始めた。


 「殺されるデス! あれは、あれはヤバイものデス!」


 一度見ただけで分かった。

 あれは地獄の死者だ。闇の亡者だ。もしくは邪神がこの地に呼び出した、使徒なのかもしれない。

 とにかく、まともに戦って勝てる相手じゃない。

 敵意とか危険なオーラを察知するのに長けた少女は、悲鳴を上げながら草原の道を駆け抜けた。

 恐らく、このまま村に戻ったら、また皆に馬鹿にされてしまうだろう。しかしそんなことはどうでもいい。命あっての物種だ。

 いっそのこと、あの化け物が村人達を虐殺してくれたら尚のこと良い。

 そんなことを考えながら、少女はちらりと後ろを振り向く。


 「あ、こっち向いた! おーい! 待ってくれぇ!」

 『待ちなさいって言ってんでしょうが! ぶち殺すわよこのクソアマが!』

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 すぐに前を向き直り、全速力で逃走する。

 手を振る黒ローブの必死な声と、何処からか聞こえてきた女の怒声。

 少女を恐怖のどん底に叩き込むには十分であった。


 「ヘルプミィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィ!」


 少女の悲鳴は止まらない。

 こうして彼女は涙を流し、村の中まで逃走したのであった。







*****



 俺は空を飛んでいた。というか、そう錯覚するくらいの大跳躍をしていた。

 ダンジョンの外で見かけるモンスターは無害な奴が多いし、草原地帯が無駄に広すぎたので、せっかくだからと【全能強化(ゼウスブースト)】の特訓をしていたのだ。

 このスキルはデメリットがでかい分、威力も申し分ない。上手く使えば窮地を脱する切り札にもなる。だから早めに使いこなせるようになりたかった。

 そういうわけで色々と検証してみた結果、一分程度でスキルを解除すれば気絶しないことが分かった。しばらく疲れが取れないけどな。

 ちなみにスキルの限界時間は三分で、ギリギリまで使うと二時間くらい気絶する。どうやらスキルの力を回復に使ったり、更なる強化に回さなければ二日も意識を失う事態にはならないようだ。

 あと、アンの第一形態についても一度だけ実験してみた。

 前にアンが言っていた必殺技っていうのを使ってみたくなったのだ。

 ……まぁ、結果は散々だったがな。まさか更地になるとは……いや、やめておこう。俺は何も知らない。ただ、いわく憑きっていう意味を少しだけ理解してしまっただけだ。

 そんなわけで、草原を歩き始めて三日が経った頃――俺は聞き慣れない爆発音に引き付けられた。


 「おいおい、こんな何もない場所で爆破事故か? いや、でも煙は上がってないな」


 まさか大型モンスターが暴れているのかとも思ったが、瘴気の薄いダンジョンの外でそんなモンスターと遭遇する可能性は低い。

 だとしたらあの爆発音の源は、モンスターではなく人間のものなんじゃないだろうか? そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。

 今まで適当に歩いていた足を止め、音がした方角に向けて【全能強化(ゼウスブースト)】で大跳躍。

 たった数秒程度なら体に掛かる負担も極僅かで済む。俺は空を飛んで、音の発声場所を探した。


 「……あ」


 そして見つけた。ダンジョンらしき入口の前で、嬉しそうにはしゃぐ少女の姿を。

 ……ていうか、こんな場所にもダンジョンがあるのかよ。まんま地下に繋がる階段って感じだな。蓋とかすればいいのに。

 とにかく、この世界に来て約二週間ぶりの人間だ。できることなら仲良くなっておきたい。

 俺は少女の目の前に落下しながら声を掛けた。


 「おーい! ちょっといいかー?」

 「ふえっ!? だ、だだだ誰ですか!? 何処にいるんですか――ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 そして、俺は彼女に逃げられた。

 いや、何で!? 俺何かした!? 

 おかしいな。ボロボロのガクラン姿なら不審者に間違われてもおかしくないけど、今は新品の黒いローブを着ているし、フードを被ってるから黒髪黒目だって分からないと思うんだけど。

 それともアレか? この世界では黒い服も駄目だってことなのか? アンは気にする必要ないって言ってたけど。

 いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。ここで逃げられては困る。どうせならこの辺りが何処なのかぐらいは聞いておかないと!

 こうして俺は泣き叫ぶ少女を追い掛け回し、ようやく小さな村に辿り着いた。

 まあ、結果オーライだな。

5000PV突破。ユニークはその五分の一。ぐはぁ……。

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