1
鄙びた
一片の金木犀が舞っている。大風などが吹いて、もっと多くの花びらが散ればいいのに。どうしてその小綺麗なチーズ色の破片は、わざわざ僕の目の前に落ちてくるのだろうか。馬鹿正直な奴め。僕は無慈悲だ。
踏み抜かれ、泥だらけの腐った花びらがひとつ。
今朝の一連の動作を思い出して、また憂鬱になる。僕という大それた個人はいかんせん残酷に出来ている。目の前の酸素を吸い、二酸化炭素を吐き出すこと。階段から転げ落ちて、天変地異を起こすほどの振動を発すること。零れ落ちた涙が道端の菫を枯らすこと。ああ、もはや歩く厄災と言っても良いかもしれない。そんなものが毎日町中を闊歩するものだから、世の中が平和になるはずがない。とても申し訳ないと思う。僅かながら、そう謝罪したいくらいである。しかしながらまぁ、僕は闊歩することを止めないつもりだ。環境汚染が進もうと、某企業が倒産しようと、僕の目の前にある謂わば試練というものは変わらない。それどころか、誰かが死ぬ度に彼らの仕事は僕の元に回ってくる。矛盾である。試練をこなせばこなすほど試練は増える。笑えないジョークだ。いっそ死ぬべきかもしれない。が、僕はそれを「人生の檻」、つまり人間の宿命だと考え始めた。僕のような汚い肉塊が人間扱いをしてもらえる、それほど嬉しいことはない。諸手を挙げて人間様の試練を受けよう。だから僕というものは残酷だ。先ほどの醜い木犀がずっとマシに見えるくらいの馬鹿者でもあるだろう。
鄙びた