PART 5
小説本文 「もしエルリッジのエイブ・スレイニーが本当に殺人犯で,私たちがこうして座っている間にも逃亡しているんだったら,それはこの上なく深刻な事態じゃないか。」
「心配する必要はないよ,ワトソン君。彼は逃げない。逃亡は罪の自白を表すのだから。彼はすぐここに姿を見せる。」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「私が手紙で頼んだからさ。」
「君が頼んだら犯人が来るのか?」
「私は,文字の当てはめ方が分かっているはずなんだ。」
ホームズは自信たっぷりにそう答えた。
実際に,エイブ・スレイニーは現れた。彼はここに足を踏み入れたと同時に逮捕された。迅速な対応だったため,犯人は襲撃されたと気付いた時には,どうにもできなかった。彼は私たちを,怒りのこもった両の黒目で睨みつけた。そして突如苦笑いを見せて言った。
「俺はヒルトン・カビットの嫁からの手紙に答えるために,ここに来たのだが。」
「彼女は大怪我を負っている。死の淵に立たされているのだ。」
「そんな馬鹿な!」
彼は叫び声を上げた。
「怪我をしたのは夫のほうだ。彼女じゃない。俺のエルシーを怪我させたのは誰なんだ?俺はエルシーを脅迫しちまった。だが,彼女の可愛らしい頭にある髪に触ろうとはしなかった。あいつは無事だといってくれよ!俺よりあいつを愛してる人間なんていないんだ。」
「彼女はお前の干渉から逃れようとしていた。」
ホームズは容赦なくそう言った。
「お前を避けるためにアメリカから逃げたんだ。そしてイギリスで立派な紳士と結婚したんだ。お前はそれを犬のように追いかけまわした。しかも愛していた夫と別れさせようとして,彼女の人生を不幸にした。結局は,高貴な男性を死なせ,その妻を自殺に追いやった。この返答は法の下に話したまえ。」
「もしエルシーが死んでしまったら,俺はどうなっても構わない。」
エイブ・スレイニーはそう言った。
「しかし,お前らが言うように彼女が重症ならば,このメモは誰が書いたんだ?」
「お前を誘い出すために私が書いたのだ。」
「あんたが?この踊る子供の秘密を知るのはジョイントのほかに誰もいないはずだ。どうやって書いたんだ?」
「誰かが考え出したものは,誰かに暴かれるものだ。」
ホームズはそう答えた。
少しの沈黙の後,エイブ・スレイニーは手で顔を覆った。そしてまた顔を上げ,話し始めた。
俺は一ヶ月前にここに着いたんだ。そしてある農家の地下室で寝泊りし,毎晩出て行った。エルシーを連れ出そうと,どんなこともやってみた。そして彼女があのメッセージを読んだとわかったんだ。一度返事が書いてあったからな。彼女は俺に手紙を送ってきた。立ち去るようにと頼む手紙を。もし夫に何かあったら,気が狂ってしまうかもしれないとも書いていた。彼女は手紙で,もし俺が立ち去り,平穏な生活を取り戻せるなら,午前三時,夫が眠っている間に降りてきて一番端の窓ごしに俺と話すと書いた。彼女は降りてきて,俺に金を渡して帰そうとした。それで俺はおかしくなったんだ。俺は彼女の腕をつかみ窓から引きずり出そうとした。その時,夫が拳銃を撃ってきたんだ。エルシーは床に倒れ,二人は向かい合った。俺は銃をホールドアップしてやつから離れ,逃がしてもらえるよう頼んだ。彼は発砲し,それは外れた。俺はその瞬間引き金を引き,そいつは倒れたんだ。そして俺は,庭を横切り逃げた。その時,背後で窓が閉まる音を聞いたんだ。これは神に誓って本当だ。一語一句な。
スレイニーが話している間に車が来た。制服を着た二人の警官が中に座っていた。ホームズは立ち上がり,容疑者の肩に触れた。
「行く時間だ。」
犯人を乗せて,車は走り始めた。
* * *
これがエイブ・スレイニーに宛ててホームズが送ったメモだ。言葉は何もない。踊る人形が数行ほど書いてあるだけだった。
(暗号文)
COME HERE AT ONCE
―完―