PART 4
使用人がメモを持って退出した後,ホームズは椅子を引き,踊る人形の書かれたたくさんの紙を自分の前に広げた。
「さて―――」
私は暗号の書式にはかなり詳しいほうです。この手紙の法則を考えた人の目的は,明らかにこれらの人形がメッセージを伝えるものだということを隠すためでしょう。そしてこれが子供の落書きだという考えにさせるためでしょう。しかし,これは手紙を表しているとわかったのです。最初に依頼されたメッセージは短かったので,この記号はEを表す,ということしか言えませんでした。知っての通り,Eはアルファベットで最も使われる記号です。つまり,短い文章にでもそれはもっとも使われていると予測できます。最初のメッセージにある15の記号のうち,4つが同じです。よって,これがEであるとわかります。また,旗を持っている人形と持っていない人形がいます。これは多分,旗が単語の切れ目
を伝えているのだと思います。大ざっぱに言うと,E,T,A,O,I,N,S,H,R,D,Lが文章に出てくる順番です。
ヒルトン・カビット氏は二回目の訪問で,一つのメッセージを見せました。旗の無い――つまり一つの単語であろうものを。
(暗号文)
一つの単語で,二番目と四番目にEが出てきています。それは,「sever」,「lever」,「never」でしょう。この語が呼びかけに対しての返事だということに,疑問を挟む余地はありません。そして状況は,エルシー・カビットさんによって書かれた返事だということを示しています。それが本当だとみなせば,これらの記号はそれぞれ,N,V,Rを表していると言えます。
これらの呼びかけが,彼女と過去に親密だった人物から来たと考えるならば,二つのEが三つの文字を挟んだ組み合わせは,「ELSIE」という名前を表していると考えるべきでしょう。これでL,S,Iが分かりました。この語はどんな呼びかけに当てはまるでしょうか?「Elsie」の前に一語だけ,四文字で最後がEの単語だけがあるメッセージがありました。きっとその語は「COME」です。私は他の,四文字で最後がEの単語を試してみましたが,この事件に当てはまりそうなものはありませんでした。そして,C,O,Mの正体がわかりました。つまり,
(暗号文)
は「COME ELSIE」を意味しているのです。
そして私はもう一度最初のメッセージに取り組みました。記号を文字に置き換えて,分からないところにはドットを打ちました。
・M ・ERE ・・E SL・NE・
そして,最初の文字はA以外あり得ません。Hは同様に二番目の文字に当てはまります。つまり,こうなります。
AM HERE A・E SLANE・
ゆえに,AM HERE ABE SLANEYがもっとも適切です。今,多くの文字が判明しました。そこで,同じ方法で二番目のメッセージにとりかかってもいいはずです。
A・ ELRI・ES
この空いた部分には,TとGだけが当てはまります。そしてこの名前は,手紙の執筆者がいる家か宿場であると推測できます。
このエイブ・スレイニーという人物がアメリカ人であるという根拠は,十分にあります。彼はアメリカ人特有の短縮のやり方をしているからです。そこで私は,ニューヨーク警察局にいる,友人のウィルソン・ハーグリーヴに連絡を取りました。エイブ・スレイニーという名前に心当たりがないか尋ねたのです。彼の返事はこうでした。「シカゴで最も危険な男」であると。それを聞いた日の夕方,ヒルトン・カビット氏は,スレイニーからの最後のメッセージを私に送ってきました。ここまで分かっている文字をそれに当てはめました。
ELSIE ・RE・ARE TO MEET THY GO・
空いた部分にはPとDが入ります。メッセージは説得から脅迫へと変わったということです。私はすぐに,友人のワトソン君と共にノーフォークへ向かいました。しかし残念ながら,最悪の事態は起こった後だったのです。