PART 1
階段で大きな足音が聞こえたかと思うと,私達の部屋に一人の男が姿を見せた。ひげを綺麗に剃り整えた彼が,ヒルトン・カビット氏であった。カビット氏は私達二人と握手し,座ろうとしたが,あるものに目が留まり,動きを止めた。それは奇妙な模様の書かれた,一枚の紙であった。ホームズが今までそれを調べ,机に残しておいたのだ。
カビット氏は悲壮な顔つきで,
「ホームズさん,あなたは不可解な出来事が大好きだと聞いています。これほどのおかしな謎もないでしょう。この事前に送った紙から何かわかりましたか?」
「確かにこれは,かなり奇妙なものですね。一見すると,子供の落書きです。変な小さい人形が,紙の上で踊っているようです。カビットさん,なぜあなたはこの異様なものが重要だと思うのですか?」
「私ではなく,妻なんです。この紙が妻を,死の恐怖に陥れています。妻は何も言いません。しかし彼女の目には,明らかに怯えの色が浮かんでいるのです。」
ホームズは紙を手に取り,日の光に照らした。その紙はノートから切り取られたものだった。そこには,鉛筆でこう書かれていた。
(暗号文)
「おそらくこれはこれまでにないくらい興味深く,そして異常な事例でしょう。」
ホームズは紙を調べてから言った。
「しかし,あなたがこの紙と二度と関わりたくないと,そう心から思うのなら,喜んで手をお貸しします。」
「ありがとうございます。それでは,私が昨年結婚したときの話から始めましょう。」
まず始めに申し上げたいのは,私は決して裕福ではないのですが,私の家が500年ほど,リドリングソープの地に続いているということです。ノーフォークでは最もよく知られた一族かと思います。
昨年,私はジュビリーに向かうために,ロンドンへ行きました。ラッセルスクエアの宿に泊まって,そこで初めて妻と出会ったのです。彼女はアメリカ人で,エルシー・パトリックという名前でした。私達は親しくなり,どんな人でもなるように,恋に落ちました。私達二人は,結婚式は挙げずに婚姻届だけを出し,静かに結婚をしました。そしてノーフォークに夫婦として戻ったのです。ホームズさん,あなたは悪習だと思うかもしれませんが,名家の男子というものは,このようなやり方で結婚するべきだとされているのです。つまり,相手の女性の人となりや過去を知らないほうがいいのです。それでも,彼女を見れば,結婚を選んだわけは理解できるのではないかと思います。
彼女と結婚して一年がたって,私達はとても幸せでした。しかし一ヶ月前,最初の出来事が起こりました。ある日,妻がアメリカから一通の手紙を受け取りました。それを読んだ妻は,死人のように顔から血の気が引きました。そして手紙を火の中に放ったのです。
エルシーはその後,手紙について何も話しませんでした。しかし,手紙が届いてからというものの,彼女の心は一時も休まっておりません。その表情には,常に恐怖の色が見えているのです。