『心の中の遭難者』
初小説となりましたが、読んでみてください。きっと不思議な世界へと導かれる筈です。
さ迷っている、頭の中がフワフワしていて霧の中を道も分からず歩いているようだ。ここは現実なのか、夢なのか、天国なのか、地獄なのか、現なのか分からなくなってくる…僕は何処に居るのだろうか?
分からない、分からないが故に考えてしまう、考えてしまうが故にますます迷ってしまう。永久的に迷い続ける、これでは駄目だと言いつつ迷い続ける。
暗闇なのか明るみに居るのかさえ分かれば、何かハッキリする筈なのにそれすらも赦されない。一体、誰に? 誰も居ないのに? 誰かが命令したのか? 誰に命令された? 誰だったっけ? 顔のような輪郭が、波紋を通じて映り出してくる。もう少しで分かる所で雨の様な粒が降り注いで、邪魔をして来た。
傘も持たない自分は、テレビのノイズの様な音を垂れ流しながら、降ってくる粒に打たれながら立ち竦んでいると怖くなってくる。胸の中がモヤモヤとした黒い繊維質の様な、液体の様な物に包まれて来そうで怖くなってくる。
分からない、分からないが不安になってくる。この真珠色に光る粒に打たれているせいなのだろうか? それとも、目の前に広がる白い霧のせいだろうか? 目的が無いから霧が晴れないのだろうか、目標が無いから粒が降り注いでくるのだろうか。
永遠に感じてくるこの世界の中、私は自分は僕は…誰なのだろうか? 一人称でさえ分からなくなってくる程、酷く苦しくなってくる。水の中に居るかの様に息苦しくなってくる、呼吸が上手く出来なくなってくる、酸素を吸っていると言うよりも目の前の霧を吸っているようだ。
見たくもない過去があるのかもしれない、見えなくなった未来があるのかもしれない、顔を背け続けた今があるのかも知れない…一度、呼吸を整えてみる。上手くいった、まだ息苦しいけど少しだけ楽になった。粒を掌で受けてみる、上手く出来た。粒は掌の上で固体に変化した、それは赤色のガラス玉に変わった。
覗き込んでみると、見知らぬ男の子がお母さんに手を引かれ歩いている。楽しそうに雨の中、左手には小さな黄色い傘を持ち、右手はお母さんと手を繋ぎあって歩いている。楽しそうに笑いながら歩いている、誰なのだろうか? もしかして小さい頃の僕かもしれない、しかしそんな保証は何処にもない。何処にもないからどうしようもない、どうしようもないからこの赤色のガラス玉をズボンのポケットに入れた。
やっと目が冴えたのか、回りが少しだけ見えやすくなった。しかし未だに真珠色に光る粒に打たれている、濡れたせいか少し肌寒い…何処か雨宿りが出来る所がないか探す為に歩き出す。だけど、宛もなく歩いていてもしょうがない、何か道標があれば良いがここには生憎無い。だから、宛もなくさ迷い続ける、深い深い霧の中を歩き続ける。濃霧と言うのだろうか、何処かで聞いた事がある。
誰かから聞いたかは、忘れてしまった。ダルマ落としのようにスコーンと、何処かへ飛ばされてしまったらしい。仕方なく、歩き続ける地面は白く冷たい、それが裸足の熱を奪い取っていく…ますます、寒いな。一人呟く、反響も何もないただただあるのは、ノイズの様な雨粒が落ちる音と僕が歩く音だけ、物寂しいがしょうがない。
歩き出して、何時ぐらいになるだろうか? もう足の感覚も手の感覚もなくなってきた。悴んできて、もう限界だった。それでも僕は、歩き続ける。疲れても、苦しくても目の前を向いて歩き続ける。その時だった、カタンッ…とノイズに混じって何かが落ちてきた音がした。何かと思い、後ろを振り向くとガラス玉の中で男の子が持っていた黄色い傘が、落ちていた。
僕は、足を止め黄色い傘に近づき拾った。…これで雨に打たれなくてすむ、そう思い傘を開くと内側にはテレビのノイズが流れていた。そのまま見ていると、ノイズが途切れて急に映像が映り出してきた。それは小学校の入学式に男の子が参加している映像だった、この子は誰なんだろうか?
謎が謎を呼ぶ、謎だらけでどうすれば良いか分からない。それでも僕は傘の内側を見続ける、そこには桜が散る中で真新しい黒いランドセルを背負った男の子と、隣に女の子がピースをして立っている。きっと思い出の写真撮影だろう、誰かは知らないが何故か懐かしいような微笑ましい気持ちになった。
そこで映像は途切れる、そのままノイズが流れっぱなしの傘をさして歩き続ける。先程よりは寒くなくなった、いまだに霧は晴れていないし、雨も降り続けている。しかし、この黄色い傘のおかげで雨に打たれる事は無くなった。ノイズと雨粒が共鳴している中、再び自分を見つけ出すために歩き続ける。
あやふやな世界、純白の霧、真珠色に光る雨粒、ポケットに入れた赤色のガラス玉、拾った黄色く小さい傘…これは何かが繋がっている、何が繋がっているかは分からないけど確実に繋がりがある。だから、僕は探し出す。やっと決めた事だから、次はもう無いのかもしれないからだ。無いのなら創れば良いのかもしれないが、そんな余裕は全く無い。
余裕が無さすぎて、僕は走り出す。黄色い傘をさしながら、ポケットに赤色のガラス玉を入れながら…ふと立ち止まると、目の前に大きな扉があった。いつの間に…そう思わせる程存在感の無い扉、取っ手を回し扉を開くとそこには緑の溢れる草原と青い青い空が目の前に広がっていた。呆気にとられて、地面が水溜まりなのに座り込んだ。
ベチャッと嫌な音がしてズボンが濡れてしまったが、関係ない。今は目の前の扉に広がる草原と青い空が気になっていた、これは本物なのだろうか? それだけが不安の種だった、ここに入るのは危険だと頭の内側から警報が鳴り響いている。しかし、警報が鳴り響いているとしてもそれは自分の主観であって、違う主観からは大丈夫となっているのかもしれない。
どうすれば良いか…分からない。だから、思考を停止させ純粋に自分を信じてみた。それは扉を閉めると言う事だ、ガチャリと言う音をさせ扉は勝手に閉まっていった。そして何処からか声がしてきた、女性の様な男性の様な中性的な分かりにくい声。
『君は何を探しているんだい?』
僕は探し物があるんだ、そう伝えようとしたら口が動かなくなっていた。どうしてなんだ? どうして喋れないんだ? 言葉を忘れたからか? それとも、何か別の理由で話せなくなったのか? 分からない、不安で心の中が一杯になってくる。
すると僕に良く似た少女は、笑って言った。
『大丈夫だよ、君は必ず見つけ出す。それは必ず僕が保証する』
そう言うと僕の頭を優しく包み込んだ暖かさがあった、それは少女の体の暖かさだった。所謂、少女は僕を抱き締めてきたのだった。暖かい、真珠色に光る雨粒に打たれて濡れている筈なのに少女の来ている白シャツは濡れていなく、僕を包み込んでいる。
『君は不安でしょうがないんだね…でも大丈夫、僕が永遠についているから』
それでハッキリした、少女は人ではないもしかしたら天使なのかもしれない、それとも悪魔なのかもしれない。それを確かめる為に僕は顔を上げて見た。そこには赤く光る瞳、純白の羽根、少女は天使だった。何故、天使がこんな所に?
『君はただ、僕の元に居れば良いんだよ…それが幸せなんだから』
それも良いかもしれない、ふと頭を過る声。天使である少女の胸に包まれながら頭の中で、グルグル廻り続ける声。僕はいつの間にか、不安がなくなっていた。安らかな声と共に少し眠たくなってきた、目を瞑り寝息をたて始める。
『ようこそ、僕の世界へ』
その声を最後に、僕の記憶は闇の中に永遠に消え失せたのだった。目が覚めたら、雨はやんでいた。いつの間にか眠っていたようだ、頭に柔らかい感触がして目を開けてみると僕は、天使の少女に膝枕をされていた。驚いて頭を上げると、手で押し返された。
『君はまだ休んだ方が良い』
隣には黄色く小さい傘が置かれている、誰かの過去を映した大切な傘は僕にとって必要不可欠な物だ、勿論ポケットに入れたあの赤色のガラス玉もだ。雨はやんだが未だに濃霧は晴れていない、しかし天使の顔はハッキリ見える。そして、何かを思い出した。天使の顔は誰かに似ている、さっきまで見ていた僕の顔ではなく見覚えがある様な少女の顔だった。
君はどうして、そんなに優しくしてくれるんだ? そう聞こうとして口をパクパクとするが、声は出ないままでいる。それを察したのか天使はニッコリと笑って答えてきた。
『それは君を愛しているからだよ、君の為ならなんだって出来る』
僕は膝枕から頭を離し天使の目の前に座り込んだ。天使はニコニコと微笑んでいる、それは天使の笑みなのだろうか? 僕は不思議と安心感に満たされていた、天使の力なのだろうか? 不思議なものだ、立ち上がり閉まったままの扉を見た。天使も立ち上がり横に並ぶ、もう一度開けないといけない。
『君は決心したんだね』
その言葉に頷き、扉を開くとそこにはノイズが映っていた。何故なんだ? 先程までは緑の溢れる草原と青い空があったのに、今は白と黒の線が流れている。天使の方を向くと、天使は大丈夫だよとばかりにニコニコと微笑んでいる。仕方なく、触ってみるとそこから波紋が出来てきてノイズを埋め尽くしていく。
『これは君の過去だよ、僕と君の過去』
そこには中学生の黒い制服を着た僕が立っていた、隣には少女が微笑んでいる。この子が君なのかい? 心の中で問うと、天使はすぐに答えてきた。
『そうだよ、この少女の魂が昇華したのが僕なんだ』
天使は僕の右手を握りしめた、僕は握り返し左手でまた波紋を創った。すると今度は、高校時代の僕が現れる。修学旅行に行っていた僕だ、呆けながら見ていると赤色のガラス玉が勝手にポケットから落ちてきた。コロコロ転がりながら扉に入っていくと、扉から光が溢れだしてきた。
『君はもう決心したから、言うよ。君は今、死にかけているんだ』
ああ…と、思ったが不思議と恐怖感はなかった。真実は目の前にあったんだ、天使になった彼女は僕を導いたんだ。僕は傘を閉じ、ノイズの中に入れた。すると、ノイズはグルグル廻り始めて今が映り出した。そこには、白いベッドの上で様々なチューブに繋がれ横たわっている。
僕は帰らなきゃいけない、この世界から現実の世界へと…だから。
「だから、さよなら天使の愛しい彼女」
『ああ、また現世で会おう。愛しい君』
…目が覚めたら、そこは白いベットの上だった。いつの間にか眠っていたようだ、長い長い夢を見ていたような気がする。天使にもあったような気がする、横を向くと一人の少女が椅子に座って器用に眠っていた。同級生であり、僕の大切な彼女だ。
『…あれ? 僕はいつの間にか寝てたのかい?』
「…あ、ああそうだね」
『そう言えば、怪我はもう大丈夫かい?』
この様子を見れば、分かるとばかりに包帯とギプスで巻き巻きになった左手を上げて見た。ジーンとした鈍い痛みが、生きている実感を味あわせてくる。その様子を見た彼女は、声を殺して笑ってきた。笑うなよと言いたかったが、思うように口が動かせない。
『ふふ…いつも通りの君で安心したよ。そう言えば夢の中で君と出会ったよ、君は黄色い傘と赤色のガラス玉を持って、大きな扉の前に立っていたんだ』
その言葉を聞いて、涙が止まらなかった。何故、涙が止まらないかは分からないけど彼女は僕を導いたんだ。あの世へ行きそうになった僕を現実世界へと、連れ戻してくれたのか。
『さて、元気になったら何をする?』
少し考えてから答えた。
「…君に抱き締められたい」
こうして、あの不思議な世界は終わった。
…end
はじめまして、クロと申します。ここ『小説家になろう』には読者として、来た事はありますが作家としては始めてです。また定期的に新作を書き上げますので読んでみてください。




