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なんだここは・・・自分の声が響かずに鈍く消える。暗いと、いう表現は間違いかもしれない。黒い、といった方が正しいだろう。なぜだが自分の姿ははっきりと見えるし色もしっかりしている。ただその周りはすべて黒塗りの世界だ。光の届かない場所で自分の姿だけがはっきり見えるなんて、光を曲げるといった魔法が必要になるはずであり、ありえないことだ。違う場所に一瞬で飛んだ、という点も気になる。転移魔法はあるはあるが未だに構築し気が解読されていない古代魔法だ。こちら側にあるはずがないが、これはまるで・・・。とはいえ何度も言うがここはリアリティだ。魔法が存在するはずはないと断言できよう。あるのは手品程度のもの、例えば脱出トリックだとか、カードに記載された文字を読み解くだとか・・・、とにかく安直なものばかりだ。あるはずがないのだ・・・が。

このままこの場所にいては拉致があかない、と歩き出す先も黒、黒、黒。誰かが出てくる様子もない。どれだけ歩いても変わらない光景が続いた。そうする内にわたしは疲れて座り込んでしまった。床は固く冷たい。もしかしたら探せば黒塗りのソファでもあるのではないのだろうか、もしあるのならこの空間でも幾分休まると言うもの、あればいい・・・。こんな馬鹿げた考えが頭に浮かぶほどだったのだ。あの時はそれほど憔悴しきっていた、そのときだ。

『ブゥンッ』

と何かの音が自分の足下で聞こえた、かと思えば、同時に自分の下からなにか柔らかいものが出現したのだ。いや生えてきたといってもいい。ともかく、今自分が求める最高のものだった。そう、ソファである。その心地よさ、柔らかさ、暖かさ、全てが理想のとおりだった。急に現れたソファに疑問を抱かないわけがないが、何とも言えない心地よさがそれを中和する。まさかこの場所にソファだけがあるはずはないはず・・・。なんならソファよりベッドの方が・・・

『ブゥンッ』

するとどうだろう。座っていたそのソファは形を変え広がったのだ。さらには自分の上には何かが覆いかぶさったのだ。暖かさがなんとも言えぬ心地よさへと自分を導いていく。まさにソファがベッドへ変わったのである。このベッドはどのくらいの大きさなのか・・・?色は白の方が見えやすいかもしれない。

『ブゥンッ』

刹那、それは純白のシーツに純白の掛け布団への変貌を遂げる。暖かい暖炉があれば暖を取れるはず。

『ブゥンッ』

のどが渇いたから水もほしいところだが

『ブゥンッ』

自分が想像したものが次々と現れていくうちに自分はとある人部屋にいた。 真っ黒な空間にはまるで似合わない真っ白な部屋だ。そこには机も椅子もベッドも暖炉まである。そういえばこの部屋は・・・

『ブゥンッ』

白色がぼやけたかと思えば、スーッとその部屋が色づき始め、現れたその部屋は昔の自分の部屋だった。ところどころぼやけている、というかなにやら曖昧に見える部分があるが、それは紛れもないマジェスティにあった自分の部屋だ。懐かしい・・・、と同時に、体力が回復したおかげで思考が晴れやかになったおかげでそれを押さえ込むほどの疑問が一度に頭を埋め尽くした。

これは・・・、いや間違いない。この世界では魔法が使える。それも自分のような魔力の少ないものでも可能だということ。そして今までの出来事はおそらく、形を変える変形魔法・・・、いや、ちがう。色が変わり、固い地面を軟化させるというのは性質変化、つまりは高等魔法に分類される。熟練の魔法使いでも困窮する上、それなりの構築式が必要だ、のにも関わらず成功した。まさにこれは・・・そう。これはクリエイションと言っていい。つまり・・・そう父があれほど求めていた研究を、魔力のない自分がやってのけたのだ。勘当された、さげすまれたあの自分が、創造魔法をを達成したんだ・・・と、そのときだ。

『インストールカンリョウ、INNキドウ』無機質な機械音。

それとともに黒、黒、黒の世界に色がつき始めた。急に誰かが音を引き戻したかのように人混みの中にいるような音が聞こえ、周りが一瞬モザイクのようにぼやけた、かと思えば自分は人混みの中にいた。溢れかえる人々の群れが急に現れたことにまたもや疑問。だが、さらなる疑問もまた出現する。その景観はまるでリアリティのモノとは違う。人こそあふれてはいるが・・・、威圧的で高い窓だらけの建物はない。目が痛くなるような装飾のある建物も、けたましいサイレンや行き交う喧噪の声でさえ聞こえない。それはまさにマジェスティそのものだった。樹木で出来た質素な店頭には以前見かけたようなマジェスティ特有の果物もあれば・・・いやあれは林檎だ。リアリティで見かけるような食べ物もあるようだ。服を売る店には魔法使いが着用するローブもあれば、リアリティの若者が着るようなわけのわからぬロゴの入った服も見える。ならばこの世界は・・・?

「あれ?そこのお兄さんはじめてかい?」

突然、聞こえたのは男の声。振り向けばそこには白い花瓶のような帽子をかぶり、白衣のようなモノを纏い、手は白い粉まみれ、全身白尽くしの男だ。しかしこの男の言っている意味がわからない。何が初めてだというのか・・・。

「初めてとはどういうことですか?」

訪ねられた男は手をはたいて白い粉をとばしながら答えた。

「このINNの世界に来て初めてかい?ということさ」

この男、どうやらそこまで警戒する必要もない、おそらくただの親切心だろう。警戒心を説いた上でまたもや疑問。未だにこの世界にきて理解したことはないほどに、疑問が疑問を呼ぶ。

「『INN』、といいましたか?」

「そうさImageNation Network、通称『INN』。想像が現実になるまるで魔法のような世界さ」

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