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暗い、何も見えない世界だ。みえないのではなく本当に何もないのかもしれない、そんな世界にわたしはいた。なんとか明かりをともそうともしたが、やはり自分の力では一瞬しか明るくはならなかった。

唐突だが、わたしは魔法使いだ。あいにく証明することは出来ないが、正真正銘の魔法使いだ。父、母も同じく魔法使いとしてマジェスティ(魔法界)に住んでいる、自分をのぞいて、だ。自分はリアリティ(人間界)と呼ばれる人間の世界に住んでいる、というより住まされている、住まざるを得ないということになる。その理由のためにある昔話をしよう・・・。

わたしはマジェスティの郊外の一軒家で生まれると、すぐに魔力制御の首輪を装着された。赤子には魔力を制御するすべがないために、そして何も知らない故に生まれるあり得ないイメージが具現化することがないようにするためだ。ある人物は言った「クリエイションの魔法は唯一赤子のみに許された呪文である」と。無から有を作り出すことは未だどの魔法使いにも達成されていない呪術だとされ、魔法使いたちはあきらめて他の研究に没頭した。ただ一人、わたしの父を除いてだ。父は創造魔法に最も近い存在、その魔術の権威として有名だった。まもなく、わたしは言葉を理解し、自らの足で立つようになると、初等魔法学校に入った。リアリティでは年齢とともに学校にはいるようだが、マジェスティでは常に能力が選考されるために個々の能力には常に大差がでる。つまりは区分が徹底されているのだ。出来る者は早い段階で中等、高等へ進む。歴代最年少は・・・確か10歳で新しく魔法を発明したと言われている。すべての魔法使いの終着点は常に決まっている。新しく魔法を生み出し、マジェスティに貢献すること。そのために様々な研究をする、恐ろしいほどに実力主義なせ界だ。もちろんわたしも例外ではない。初等教育に入学するとともに首輪がはずされ、代わりに一人一本の杖を持たされる。その杖は補助具であり、魔力を安定させるために作られた代物だが、残念ながら大人には扱えないものとなっているため、魔力増加には使えない。

魔力強化は許されるが、なにより魔力増加は禁則事項である。昔一人の魔法使いが魔力増加の禁則を破り、リアリティに追放されて以来、マジェスティでは魔力増加という言葉を耳にしなくなった。さて話は戻るが、すべての魔法使いは皆同じ道を通る。魔力放出が初めの一歩だ。魔法使いというくらいなのだ、それぞれが魔力を持っている。もちろん無限にあるわけではないので人間で言う体力のようなたぐいと言っていいだろう(もちろん魔法使いに体力がないわけではない)。自らの魔力で何かに触れることでその何かを理解することが魔法においてもっとも重要なことだ。その後始めて魔法と呼べるもの『3属性』に入っていく。3属性とは『火』『水』『雷』の3つを指す、もっとも扱いやすく、そして最も作り出しやすい物として初等の魔法使いが学ぶのだ。自然には空気がある。当たり前なことだが、この空気さえあれば3属性全てを生み出すことが可能なのだ。火を起こしたければ空気を摩擦すれば良い。水ならば空気中の水素を集めれば良い。雷ならば摩擦によって電気を蓄積させればいいのだ。問題は創りだしたあとにある。もちろんここでも実力がモノをいう。出来る者は早々に杖を捨て、火を龍にかたどり、多数の水球を作るなどと多彩になるが、出来ない者はいつまでたっても杖を使わなければならなかった。それは初等に限ったことではなく、中等、高等教育に入っても杖を持つモノはいる。わたしもその内の一人だった。3属性が終了すると同時に、すべての魔法使いが学ぶことが、魔法構築の基礎と訓練である。リアリティでは『化学』と呼ばれていることには最近気がついたことだ。どうすれば、魔法が起こりうるのか。それは環境によってまちまちであり、例えばモノを動かしたければ重力や斥力を使ってもいいし、空気中の分子を集めた圧力によってでもいい。何よりも大事なことは魔法構築に外れた魔法は『できない』ということだ。その法則を破るために今もなお父は、創造魔法の研究をしているわけだ。

父はすでに20年以上もそれに費やしてはいるが、未だに突破口は開けていないようだ。似たような魔法でイミテーションと呼ばれる模倣魔法が存在する(母はその権威であった)が、それは有から有を作る魔法であって創造にはほど遠い。さてまた話がそれたが・・・、わたしは高等教育の段階に至っても未だに杖による魔法だった。魔力が多量過ぎる魔法使いには良くあることで、杖によって魔力を押さえ込む、というわけだ。高等教育までの杖の所持はむしろ誇らしいものとされており、さらに言えば父の存在もあってか、わたしは自分がすごいと考えていた。周りからちやほやされ、それに陶酔していた。が、現実は思いも寄らない展開へと発展していく。それは魔法構築の実習の時であった。その日18と泣ったわたしは、杖なしでの実習を挑むこととなった。原則として18歳を越えた者は杖を放棄する決まりとなっているのだ、というより18歳となった時点で、杖の効力が亡くなるわけだが・・・。そういったわけでついに自分の実力を試すことができる、と周りの人間よりも自らに期待していたのだ。3属性の形態変化なぞわたしには目をつぶってでもできる、と。そのときのことはいつまでも忘れることができない。杖を手放し、頭の中での構築、魔力を呼び出し、そして燃えさかる業火を呼び覚ます・・・、だが出たのは爪ほどの火だった。数秒ほど燃えたあとにぽつりと消えたその火はわたしに多量の影響を与えたのだ。まず初めに来たのは激しい疲労だった。まるで一日中走り続けたかのような疲労感がわたしを包む。そして次に来たのは驚きや戸惑いだった。ただその声をすべて聞く前に、わたしは意識を失ってしまった。次に目を覚ましたときにはわたしの世界はすべて変わっていた。魔力は魔法使いが潜在的に持つ力のことであることは言わずもがなであるが、わたしは魔力がほぼ0に等しい魔法使いだったのだ。その通告を受けたときに、わたしには言葉が出せなかった。隣にいた両親も同じだった。実は魔力のない状態で生まれる魔法使いは少なくない。ただ、そうした場合には早い段階で判断され、魔法使いではなく人間として生きていくように教育される決まりができていて、16歳を迎えた瞬間から残っている魔力すべてを奪われた状態でマジェスティから追放される法が定められているのだが、わたしはすでに18歳だった。人間の知識などは皆無だった。かなりの異例だったのだ。なによりも、あの父と、そして母の子であるが故だったのだろう。誰もが期待した魔法使いはただの手品師にすぎなかったのだ。それからは早かった。わたしはマジェスティに関するものすべてを奪われ、家からの断絶、果てはマジェスティからの断絶だ。だが魔力に関しては今までにないほどの極量だったために必要もないとされそのままだったが・・・。未だに覚えていることは最後の父の台詞だ。ーーーなぜ人間の子が自分のところに来てしまったんだーーー

こうしてわたしはマジェスティから追放されたのだ。あれから3年が過ぎ、元から頭が悪いわけでもなかったので『こんびに』と呼ばれるところで働いているわけだが・・・つまり、わたしは魔法使いだ。魔力を奪われなかったおかげで、リアリティの中でも魔法を使うことができた。が、それは『てれび』と呼ばれる箱の中でやっているような手品の類だし、おまけに激しい労力を要する。結局自分にはマジェスティでできることは何もなかったのである。ただ、あちらで処刑されないよりはましなのかもしれない。

リアリティとマジェスティはまるで違う世界だ。見渡せば高い建物、罵倒が交差する移動機関、定期的にけたましい音が鳴り響く、とにかく音が絶えない世界だ。だが、驚いたことにこちらの世界の化学というものには驚いた。それは、リアリティの方がマジェスティより発展していることだった。こちらにできないことはあちらでできる。この知識がマジェスティに広がれば、より高度な技術を得ることができるのに・・・、だが閉鎖的な魔法使いたちは、他のモノを信用しないことで有名だった。リアリティのすべての人間が機械的に動いているように見えて、それに逆らっているようにも見えた。流れに逆らうなんて魔法使いにとってはあり得ないことだ。人間は不思議だ、と思うことだらけだった。こうしてこちらになんとか住居をかまえ(居心地が悪いのは免れない)、仕事が終われば家に帰り、寝る、というさも魔法使いなことを続ける中で、唯一自分が楽しいと思えることは魔法の研究だった。こちらの化学が発達している部分を見れば魔力のない自分でも理論ぐらいなら作れる。実証できないことは残念だがアイデアがつきることはなかった。知識は本から、またこの世界に存在する『いんたーねっと』と呼ばれるモノも活用した。伝達魔法に似たものだが情報量はけた違いだ。そうして魔法の研究を続けていたときだ。自分のぱそこんに一つのマークが現れたのは・・・。『INN』、と書かれた『?』で示された印だ。もちろん自分はこのぱそこんというものをすべて理解したというわけではない。説明書にかかれていることを理解しようとしても、こちらにしか分からない言葉が多用されているのだから無理もない。こういう場合は想定外であり、為すすべがないのだが・・・。いったいなんだろうかと思い、興味本位でその印をくりっくした。こうして自分は今いる世界に来たというわけである。

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