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闇属性の輝きを放つ美少女

 そして翌日。午前中の退屈な授業を終え、昼休みになった。


 教室は楽しいランチタイムがやってきましたとばかりに、女子が机を寄せ合って黄色い声を上げる。今日のお弁当は手作りだとか、隣のクラスの佐藤くんとうちのクラスの鈴木さんが付き合ってるとか、食事とコイバナで口を動かすのに忙しい。


 男子は群れて学食へ向う連中が多く、ほとんどは教室から姿を消していた。


 さて、オレも行くか。出会いの酒場もとい学食に。


 教室を出て学食に向うと、アリスが入り口で門番のように仁王立ちして待ち構えていた。


「あ」


「陶冶くん、発見! 確保ーー!」


「うお!?」


 目が合ったとたん、アリスはオレめがけ突っ込んでくる。


 周りの連中は何事かとオレとアリスを不審な目で見ていた。


「さあ、レッツ仲間探し! お昼休みが終わっちゃうよー」


 強引に腕を取られ学食に連れ込まれるオレ。さっきから注目されっぱなしだ。もうちょっと穏便にできないものか。


「実はもう、目星は付けてるんだよね、新しい仲間(たなか)


 アリスは学食の奥に目をやると、オレもそれを追ってみた。そこには、もくもくときつねうどんをすする女子生徒がいた。


「同じクラスの田中きらりちゃん」


 セミロングのキレイな黒髪が、印象的な子だった。物静か……というより、こういっちゃなんだけど、暗い印象を受ける。


 押しに弱そうで、頼んだら断れないイジメられっ子タイプってとこか。


 もくもくとうどんをすすっている姿は、きらりという眩しい名前とは正反対で、どこかじめじめとした陰鬱な空気が漂っていた。


「仲はいいのか? 同じクラスなんだろ」


「ぜんぜん! むしろ怖がられてるよ! ちょっとスカートめくっただけなのに」


「そりゃ、印象最悪だろ……」


「ちなみに隊長。その時のパンツはイチゴ柄でした!」


 ビシッと敬礼をして、背筋を伸ばすアリス。あと誰が隊長だ。


「確かにあの子なら、頼んだら断らなさそうだけど……でもなあ」


 田中きらり……彼女を誘うのは気が引ける。女子を危険なことに巻き込む気はない。誘ってきたアリスは別だが。


「なあ、男はどうなんだ? お前のクラスに男の田中、いないのか?」


「いないよ。陶冶くんのクラスもでしょ? 一応全学年の田中を勧誘してみたけど、断られちゃってるし……あの子だけなんだよ、最後の希望は!」


「最後の希望、ね」


 その最後の希望は、非常にのろのろとした動作で、きつねうどんをすすっている。なんだかお通夜ムードだ。負のオーラが漂っている。


「というわけで陶冶くん! きらりちゃんを口説いてきて! 私じゃ警戒されてるから、ここは陶冶くんにお任せしちゃいます!」


「え。嫌だよ……どう話しかけたらいいか解らないし」


「ふっふっふー。ご安心を。この田中アリスさんが、付いておりますから!」


 アリスは携帯を取り出すと、にっこり微笑んだ。


「携帯で私がセリフを指示するから、陶冶くんはそれをそのまましゃべってくれればいいからさ! 女の子のことは、女の子に任せて!」


「まあ、それなら……」


 オレはアリスに携帯の番号を伝え、携帯を通話状態にしたままで田中きらりに近付いた。


 ちなみにアリスの声が漏れないよう、イヤホンを片方の耳に付けている。


『いい? まずはあいさつからだよ。第一印象は大事だからね』


「そうだな」


『私を信じて、陶冶くん。大丈夫、君はやればできる子だから!』


「よし、じゃあ……行くぞ」


 思い切りを付けると、オレは田中きらりの座るテーブルの向かいに腰掛けた。


「あ、あの?」


 正面から田中きらりと見つめ合う。こうして見ると、かなり可愛い子だな。……まとっているオーラが闇属性全開だけど。


 やばい、緊張してきた。


「アリス、頼む」


 まずはあいさつ、だな。オレはアリスの言葉を待った。


『えへへ、お姉ちゃん。どんなパンツはいてるの?』


「えへへ、お姉ちゃん。どんなパン――」


 どこの変態オヤジだ!!


 幸い、パンまでにセリフを止めていたので、歩く下ネタ野郎にクラスチェンジせず済んだ。が!


 オレは立ち上がると、少し離れた位置で見守っているアリスの所に行って睨みつけた。


「どういうつもりだ、お前……」


「あはは。軽いジョークですよ、陶冶くん。ほらほらきらりちゃんも見てるよ、早く戻らないと」


「……わかったよ。だけどもう、お前は信用しない!」


「えー!」


 オレはイヤホンを取ると携帯の電源をオフにして、そのままポケットに突っ込んだ。


 気を取り直して、再びきらりの前に座る。


 彼女はびくびくしながら、オレを上目遣いで見ていた。


「あ、あの? パンがどうかしましたか?」


「いや、気にしないでくれ。オレの故郷じゃ、うどんをパンと呼ぶんだ。だからそれはきつねパンということになる」


「は、はあ?」


 苦しい言い訳だが仕方がない。さて、会話しなくちゃ。


「えっと……オレ、1年3組の田中陶冶っていうんだ。よろしくね」


「は、はい。私、1年2組の田中きらりです。よろしく、お願いします……」


 きらりは非常におびえた様子でオレに自己紹介する。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。なんだか、かわいそうになってきた。


「あの、どうして……私のこと知ってるんですか? も、もしかして。私ってそんなに有名ですか?」


「いや、その……ちょっと……なんていうかな。気になって」


 『気になって』の部分で、急にきらりの顔が噴火した火山みたいに真っ赤になり、マグマみたいに汗を噴出した。


「そ、そんな!! 私みたいな根暗女が好きだなんて!! こんなところでやめてください!」


「え? いや、そんなこと一言も……」


「恐れ多いです! 私なんかが、生きてる価値のない私が、恐れ多くもリア充になるだなんて……! で、でも、私……田中さんと、け、結婚してみたいです。赤ちゃんは、上が男の子で、下は女の子の兄妹がいいな。名前は男の子が戸波頭(とぱーず)。女の子が琉美威(るびい)。とっても可愛い名前でしょ? ふふ……うふふ」


 なんかいきなり告白した覚えも無いのに、それさえも飛び越えて子供が産まれた時の話になってる! しかも両方ともDQNネームじゃないか。キラキラしすぎだよ!


「家は小さくても、暖かい家庭が築ければそれでいいんです。毎日田中さんや子供たちが笑顔でいてくれれば、それでいいんです。家計が苦しければ私、パートに出ます。子供たちが成人したら、2人で海外旅行に行きたいですね。こんな私ですが、おばあちゃんになっても、愛してくれますか?」


「ごめん。いきなり付いていけないんだけど……ていうか、オレ。告白した覚えも無いんだけど」


 しんちょうに言葉を選んだはずだったが、きらりは真っ赤に紅潮した頬を一気に真っ青にして、泣き崩れた。感情の急降下がすさまじい。どうすんだよ、これ。


「……めて……だったのに」


「え?」


 一瞬、制服に氷でも入れられたのかと思うほどの寒気を感じた。


 それは、田中きらりが宇宙の全てを呪うような瞳でオレを見つめていたからだ。


「初めてだったのに! 男の子に気になるだなんて言われたの、初めてだったのに! 私の大切な初めて、返してください!!」


 きらりはそう叫ぶと、食堂から逃げるように全力疾走していった。


 オレは空いた口がふさがらなかなかった。何なんだ、あの女は。


『おい、あいつ女の子泣かしたぞ』


『昼休みの学食でラブコメとか、死ねよ』


『あんな可愛い子を泣かせるなんて……てめーも泣け。泣かしてやる』


 なんだか冷たい視線を感じる……主に野郎どもからだが。


 オレはいたたまれなくなって、学食を飛び出した。そして、中庭のベンチで一息つこうと腰掛けた時、目の前にアリスが息を切らせてやって来た。


「やーい、ふられたー!」


「ふられてない!」


 うっとうしいくらいに肩を叩くと、アリスはオレの隣に座った。よっこらしょっ。という、非常におっさんくさいセリフ付きで。


「とりあえず、きらりちゃんの件は一旦保留にしとこっか。今日は私達2人で冒険しよ」


「いや、ありゃもうダメだろ。ぜんぜん話通じてないし……あの子に関われる自信ないよ。いつか呪い殺されそうだ」


 きらりの闇属性に満ちたオーラを思い出すだけで、膝が震える。名前はキラキラしてるけど、ベクトル的には暗黒の輝きだった。ありゃ魔王も全裸で逃げ出すね。


 ……魔王が幼女だったらいいなあ。


「今、魔王が幼女だったらいいなあ。きらりちゃんの暗黒オーラにびびって、全裸で逃げ出すかもしれない。とか考えたかもしれない陶冶くんに残念なお知らせです。伝説によると、魔王はガチムチ兄貴らしいよ」


「か、考えてないよ! ていうか、ガチムチ兄貴かよ……手強そうだな」


「ほんとサービス悪いよね~。せめてショタか男の娘にして欲しいよね!」


 アリスは口をとんがらせて、ぶーぶー文句を言った。ていうか、何のサービスだよ。


 ショタ魔王とか男の娘魔王とか、簡単に倒せそうだけど……絶対部下にナメられるだろ、それ。


 そんなことを考えていると、昼休み終了のチャイムが鳴って昼飯を食べ損ねてしまった。


「お。もうこんな時間ですか。アリスさんはもう行きますよ、陶冶くん。それじゃ、放課後昨日と同じ時間にセーブポイントで。じゃね!」


「ああ。またな」


 アリスは元気よく校舎に戻って行った。


 オレも戻ろうとベンチから立ち上がろうとすると、背筋に寒気を感じ、後ろに振り返ってみた。


 だが、誰もいない。


「気のせい……かな?」

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