奇跡も魔法もポロリもあるんだよ!?
「あん? なんだこいつは?」
エルフも山賊たちも皆オレの姿に注目していた。ふ。勇者の凛々しい姿に見惚れているのか。
「大丈夫だお嬢さん。君はオレが守る」
クールに笑うと親指を立て振り向く。すると、エルフの少女は顔を真っ赤にし、悲鳴を上げて逃げ去ってしまった。
罪だな。オレの勇者力。生まれ持ったオーラというのは、隠そうとしてもにじみ出てしまうものなのか。
「陶冶くーん、服! 忘れてる! パンツ一枚で山賊に立ち向かうとか、かっこよすぎるよー! 漢だよー!」
「へ?」
アリスが制服をぶんぶん振り回しながら走ってくる。あれ、あの制服オレの?
「もしかして?」
慌てて視線を近くの川面にやると、どこに出しても恥ずかしくない変質者がいた。パンツ一枚でドヤ顔してる。それはどっからどう見ても、オレだ。
そういや、オレ。パンツ一枚だった!!
「キャー! エッチ! 見ないでよ、この変態!」
そう言って誤魔化すしかない。誰かオレを殺してくれ……。
「な、なんだこいつ」
これが……オレの勇者デビュー。散々すぎる……。ある意味勇者といえば勇者だが。
「陶冶くん、服! 私が相手をしている内に早く着替えて!」
「あ、ああ。すまんアリス」
アリスがオレの服を投げてよこすと、オレは急いで袖を通し、加勢しようと走った。
「アリス!」
すでに戦闘は始まっている。アリスは剣を構え、6人を相手に戦っていた。
山賊の斧がアリスの首をはねるべく、轟音とともに振り下ろされる。ろくに手入れもされていないのか、さびてボロボロの刃が棍棒にくっ付いている。そんな感じの斧だが、それでも武器としての機能は十分果たせるだろう。
「危ない!」
「は!」
アリスはそれを横に飛んでかわし、続く第二撃、第三撃もかわした。だが、相手の数が多すぎる。1対6では防戦一方だ。
「アリス! オレが魔法で援護する! 魔法の使い方を教えてくれ!」
多勢に無勢。あれだけの人数が相手だと、反撃のスキがない。いきなり本番の出たとこ勝負だが、魔法を使うしかない。
「魔法をイメージして、掌を目標にかざして! 陶冶くんが使いたい魔法を! 強くイメージすればするほど、威力は上がるから!」
アリスは山賊の攻撃をかわしつつ、そう叫んだ。
「イメージ……わかった!」
意識を集中する。ネトゲとかの初級火炎魔法を脳内で再現すると、オレは掌を山賊にかざした。
「お、おい……何だこの魔力量。あいつ……本当に、人間か!?」
山賊の1人がオレに気付くと、他の2人もアリスに背を向け、オレを潰すべく距離を詰める。
優先順位をオレに変えたのだ。
「あいつを殺せ!」
3つの斧がオレの頭蓋骨を砕き割ろうと、3方向から迫った。
「う、うわ!?」
鋭く重そうな刃を備えた斧に、一瞬腰が引けそうになる。だけど、アリスみたいな女の子が戦っているんだ。背中なんか見せたらカッコ悪いだろ。
男なら、これくらいでビビるんじゃねえよ! それに、オレには魔法の力がある。負けない、絶対!
掌を山賊たちにかざし、叫ぶ。
「燃えろよ三下。これがオレの……魔法だ!」
セリフは別に必要ないかもしれない。けれど、イメージの増強には効果的だろう。
だから叫んだ。魂を込めて、熱く。
「ファイアーボール!」
足元に魔法陣が描かれると同時、周囲に陽炎が立ち上り、熱風がオレの周りに巻き起こる。
瞬間、爆音と共に世界が赤い光に包まれた。そして直後の地響きで、オレは尻餅を付く。
オレの掌から生み出された炎の塊はまっすぐ進み、山賊たちの脇をかすめ……山を1つ吹っ飛ばしたのだった。
「……はい?」
森に生い茂っていた木々は薙ぎ倒され、ところどころで火事が起きている。
はっきり言って、大惨事だ。
あれ? これって威力おかしすぎない?
初級魔法をイメージしたはずなのに。山1つ吹っ飛ぶって、どういうこと!?
「ば、化け物だ! 逃げろ……殺されるぞ!!」
「ひい!」
「悪魔だ!」
「おかーちゃーん!」
オレの魔法による一撃を見て、山賊たちは泣きながら逃げて行った。
「えーと……もしかして、オレ勝った?」
「もしかしなくても、勝ったよ。山賊全員逃げて行ったみたい……」
オレの問い掛けに、アリスは茫然自失のまま答えた。その視線は吹っ飛んだ山に注がれたままだ。
「すごいぞ、勇者様!」
「ありがとう、勇者様!」
「ステキなパンツだったわ、勇者様!」
いつの間にかオレとアリスの周りにエルフ村の住人が群がって、バンザイしていた。このまま胴上げでもされそうな勢いだ。
あとパンツは関係ないだろ、そこのおばちゃんエルフ。
「これでこの村に平和が――」
だが、アリスに近寄ろうと一歩前に踏み出したとき、オレの意識はブラックアウトした。
まるで底なし沼に引きずりこまれるように、深く、深く落ちていった。