勝利に酔いしれて
目の前に無防備な見た目10歳(中身は1000歳以上)前後の美幼女が寝転がっている。しかも、下着姿で。
確かに何か邪なことを考えてしまいそうになるが、こいつは敗軍の将。捕虜にして、色々と敵の情報を聞き出すべきだろう。
「そりゃ確かに、あんなことやこんなことはしたいさ! でも、今は――っと!?」
足に何か触れたので、見てみればそれはきらりだった。
「なんだよきらり。そこで何してるんだ? そういえば、さっきからずっと静かだったけど」
「田中さん、ごめんなさい。私、見てることしかできなくて……。カッターナイフであの幼女を後ろから刺そうかと思ったんですけど、私、トロいから邪魔しちゃいけないと思って……今私が皆にできることは何かを考えた結果、反省文を書くことにしたんです」
「は? 反省文?」
「はい、見ますか?」
「ん、いや。きらりが無事なら別にそれでいいし……」
きらりが大学ノートにひたすら赤ペンで何か書き込んでいた。一瞬視界の端に捉えたそれは、大量の『ごめんなさい』だった。
うお。謝罪の言葉も赤文字で所狭しと書きなぐられれば、何かの呪いにしか見えない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……クククク。ごめんなさいごめんなさい――」
きらり怖い! 何で半笑いでごめんなさいとか言うの。ていうか、きらりのカッターナイフなら、アーシャの鎧貫けたんじゃないか?
「おお、すごいぞ。こちらの勇者様は闇魔法の使い手か! しかも、魔道書を自分で作成してしまうほどの才能をお持ちのようだ!」
「天才だ!」
エルフの村人が感心したように、きらりのごめんなさいノートを見てそう言った。
やっぱあれ、何かの魔力を帯びてるアイテムなんだ……。
「え? そんな、私なんてただのゴミクズですから……勇者なんて……ふ、ふふふふ」
村人たちに持ち上げられて、きらりはかなりご満悦の様子だ。ああやってただ照れていれば、可愛い女の子なんだが……。
「トウヤ様!」
「レリア、無事だったか! よかった……」
解放されたレリアがオレに駆け寄ってきた。
「トウヤさま。わたくし、怖かったです……怖かったです……」
レリアの小さくて柔らかい体がオレの胸に飛び込んでくる。本当は今にも倒れそうなくらい体力と精神力を消耗していたのだが、この子の元気で愛らしい笑顔を見ると、少し回復した気がする。
「レリア。大丈夫だよ。もう、大丈夫だ」
「はい……」
小刻みに震えるレリアの頭をなで、落ち着かせる。
「トウヤ様の手はとっても暖かいです。まるで、お姉さまみたいに優しくて……」
「お姉さま? レリア、お姉さんがいたのか?」
「いえ、25年前の勇者様のことです。25年前にもわたくし、勇者様に助けていただいたのです。とっても優しくて美しい女の勇者様で、お慕いしておりました。もう一度……お姉さまにお会いしたいです」
「ふーん……25年前、ね。ん? ていうことはレリア……25年以上生きてる!?」
「はい、今年で111歳になります! 人間でいえば、11歳に相当しますね」
こ、ここにも合法ロリが……。なんということだ! いや、エルフなんだから当然か。
「あの頃、お姉さまはトウヤ様と同じ年頃の少女でした。25年経った今は、きっと素敵なお母様になられているでしょうね!」
「ふーん、そうか……25年前、ね」
先代の勇者か。確か名字も同じ田中で、セーブポイントに入れるのを自分と同じ田中のみに設定した人、だったよな?
「25年前の勇者様ご一行は、今と男女比が逆の、少年2人と少女1人の3人でした。……ここだけの話、ちょっとした三角関係だったみたいですよ?」
「三角関係、ね。オレにとって永遠に関わりのない単語だな」
オレみたいな男を好きになってくれる女の子なんて、いるのだろうか。きらりのアレは別として。
勝利に浮かれるエルフ村の空を見上げる。
「とにかく、勝ててよかった。みんなを守れて……よかった」
空は青く澄んでいて、どこまでも広がっている。平和でとてもキレイだ。
「トウヤ様?」
そんな一瞬の気の緩みが、オレの意識をブラックアウトさせた。
……。
…………。
………………。
「あれ。ここは……」
目を開けると、そこはどこか知らない天井で、オレはベッドで寝ていたようだった。
「誰の家だ、ここ」
鳥のさえずりと、木製の窓から差し込む太陽の光が、爽やかな朝を感じさせる。
「ん? そういえばこれ。前にもあったような……」
「田中さん! ああ、よかった! 目が覚めたんですね! 心配していたんですよ!」
「おわ!? きらりか、びっくりさせるなよ」
いきなりドアからきらりが入ってきて、オレに詰め寄ってきた。至近距離だ。目覚めのキスでもする勢いじゃないか。
「田中さんはあの戦いの後、気を失って……みんなでここまで運んできたんです。私、毎日田中さんの健康のために、ごめんなさいってノートに書き綴っていたんです。きっとそのご利益ですね!」
「いや、たぶんそれ呪いだと思う」
オレを殺す気か、きらりよ。
「一週間祈りを込めて、書き続けた成果ですね! あ、私。シチュー作ったんです。今持ってきますね」
「あ、ああ」
一週間、か。どうやらまたオレは、力を使い果たして寝込んでいたらしい。
それに前回と同じとするなら、ここはレリアの家かな?
ベッドの上で記憶を整理していると、きらりはすぐに戻ってきて、皿に盛られたビーフシチューを持ってきた。
うまそうな匂いが部屋中に立ち込める。そういえばオレ……カツカレーも食い損ねて……一週間ぶりのまともな食事なんだよな。
「さあ、召し上がってください! 私の手作りなんですよ!」
「あ、ああ。それじゃ、いただきます」
きらりのシチュー……大丈夫か? 毒とか入ってないよな?
「たっぷり愛情をかけてコトコト煮込んだ私の最高傑作なんです。田中さんに喜んでもらいたくて……がんばりました!」
久々のホーリーきらりが降臨。……うん、大丈夫そうだ。
オレはスプーンを使ってシチューを一口含んでみた。
「う、うまい……!」
素材の味を最高に引き出せている。牛肉なんか、口に入れた瞬間溶けてしまった。じゃがいももコロコロしていて味が染みこんでいる。
いったいこれだけの物を作るのに、どれだけの手間をかけたんだ。
「うまいよ、きらり。ありがとう!」
「いいえ。私、田中さんの笑顔が見たかっただけなんです。いつか子供たちと一緒に、テーブルを囲みたいですね」
「きらり……」
きらりと結婚したら、たらふくうまい飯が食えるだろうな。性格はあれだけど、良い奥さんになるかもしれない。
「きらり、料理得意なのか?」
「はい。なにより私、肉を切るのが好きなんです。肉を切っている瞬間、すごく気持ちが良いの。生殺与奪の権利が、この手に握られているみたいで……クククク」
きらりの邪悪な笑みを見るだけで、おなかがいっぱいになりそうになった。ああ、聞かなきゃよかったよ、マジで。




