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同級生は異世界勇者

「ねえ、私と一緒にイイコトしない? すっごく気持ちいいわよ」


 そんなことを美少女に言われたら、付いていかないわけに行かないだろう。これで付いていかないヤツがいるとしたら、オレは正気を疑うね。


 何せ、目の前のこいつは成績優秀、スポーツ万能、学年一の美少女、田中アリスときてる。


 欧米の血が半分混じっているからか、金色の髪とナイスなお山が2つ。一度見たら忘れることなんてできやしない。


 男子なら憧れるだろ、美少女といちゃいちゃするのって。


 だからオレは即答した。


「是非に!」


「じゃあ、私に付いて来て……えっと、田中陶冶(とうや)くんだっけ?」


「はい!」


 誘われるようにオレ、田中陶冶はアリスのスカートから伸びた白い足を追いかけた。


 人気のない旧校舎へと入っていくアリス。


 オレは離されないよう、足早に彼女を追跡する。


「なあ、どこへ行くんだ?」


 階段の踊り場で気になって尋ねてみる。


 アリスは振り返ると、妖しく微笑み答えた。


「いい所。人気が無くて、エキサイティングな……とにかく、お楽しみ」


 ふわりと髪が揺れて、シャンプーのいい匂いが漂ってくる。やばい、興奮しすぎて気絶しそうだ。


「ここだよ」


 そして案内されたのが、旧校舎最上階一番奥の教室。


「え? ここって……七不思議で有名な……開かずの扉じゃ」


 そこは、生徒たちの間で有名な場所だった。出るとか出ないとか、そういう類の噂で有名な。確かにエキサイティングだけど……。


「あと5秒。4、3、2、1……行くよ」


 アリスは教室の扉を思い切り引いた。そこには……。


「ようこそ、異世界へ!」


 扉を開けると、そこは異世界だった。頭上では竜が我が物顔で空を飛び、川のほとりではユニコーンが水を飲んでいる。


 すげえ。マジもんの異世界だ。まさしく、ザ・ファンタジー。


「あの、アリス……さん? 何だこれ?」


 オレは、アリスに振り向いた。


 彼女の背後には、西洋風の厳かな教会があって、その開け放たれた扉からは旧校舎の廊下が見える。


 何だこれ。どういうカラクリなんだ。


「ここは異世界ヴァーンガルド。私、勇者なの」


「は?」


 勇者? 勇者って、あれか。RPGとかのあれか? ていうか、何で旧校舎の扉の先が異世界なんだ!? ここ笑うところ?


「君、まだ部活入ってなかったよね。じゃあちょうどいいや。勇者になって、私と一緒に魔王退治しようよ!」


「イミガワカリマセン」


 オレがその発言に戸惑って一歩後退したとき、背中に何かが当たった。


「何だよ! いてー……な?」


 振り向いてみたら、そこにいたのは真っ赤な真っ赤なドラゴンだった。


「げ!? なにこいつ、めっちゃ怒ってる!」


 目が合ったとたんドラゴンは翼を広げ、うちの妹が夜中に垂れ流しているご近所迷惑なアニソンよりも、さらに大音量で吼えた。


「あ、レッドドラゴンだ。こんなとこでエンカウントするなんて珍しー。レアだねー。あれ、何かすっごい怒ってるよ。もしかして君、逆鱗触れちゃった?」


「へ?」


 ドラゴンは相当お怒りの様子で、うちのオヤジがスマホのエロゲーをタップするときみたいに、鋭い爪でオレを串刺しにしようとする。


「わ。わわわわ!?」


 オレは急いで近くにあった木に隠れると、そこから様子を窺った。すると、すぐに見つかった。くそ、逃げるべきだったか。


 ドラゴンはまるで、うちの母親がベッド下に隠してあったエロ本を見つけ出し、処分するように、オレをむんずとつかんだ。


 そして、そのまま口を大きくあんぐり開けて、うちのねーちゃんがBL小説を読んで腐った妄想をした時みたいに、よだれを数滴垂らした。


 さっきから比喩がザンネンすぎるオレだが、一番の残念は、すぐそこだ。


 ――食われる。


「た、助けて!?」


 ドラゴンの手の中でジタバタと暴れていると、銀色の閃光が目の前を飛び交い、重力がオレを襲う。


「しっかりしてよ。君はこれから私と一緒に冒険の旅に出るんだからさ!」


「え?」


 ファンタジーといえば、あれだ。剣と魔法だ。


 アリスは手にした巨大な剣で、ドラゴンの腕をぶった斬ったのだ。にしてもアレ、どっから持ってきたんだ。


 そしてオレは、ドラゴンの手ごと地面に落下中である。


「な、な、な!?」


「よしよし。アリスさんが戦いのお手本を見せてあげよう。陶冶くんはそこでじっくり見てなさい」


 じっくり見てなさいとか言うので、オレは遠慮なくアリスのスカートを見た。


「行くよ!」


 激痛で絶叫をあげるドラゴンに怯むことなく、アリスは駆け出した。


 セーラー服と巨大な剣を装備した少女が、颯爽と風のようにドラゴンの攻撃をかわし、間合いを詰めていく。


 攻撃をかわす度にスカートが危うい角度で揺れ、その中身が見えそうになるのだが、見えそうで見えない。ちくしょうが。 


「やぁ!」


 そして、あっさりというか、いとも簡単にドラゴンを一刀両断してしまった。


 断末魔を上げるヒマもなくドラゴンは真っ二つになり、黒い霧となって消える。


「す、すげえ。ドラゴンを剣で倒した……ファンタジーだ……」


 目の前に憧れがあった。


 剣と魔法。勇者、ドラゴン、冒険……。


 女の子とファンタジー世界に憧れない男子はいない。誰だってそう、一度は憧れるもんだ。オレは心をときめかせた。


 アリスはスカートをぱんぱん払うと、剣を担いでこちらにやってくる。


「大丈夫?」


「あ、ああ……」


 アリスがオレに手を差し伸べた瞬間、非常に気の利いた風が吹いて、スカートがまくれあがった。


 異世界の風、エロいな。


 そしてオレは見た。スカートの中という、夢見る少年にとっての異世界を。


 ――やはり、白はいい。しましまも捨てがたいが、純白こそ穢れ無き乙女の象徴といえるだろう。


「……もしかして……見た?」


「ううん、何も!」


 オレはいい感じの笑顔で即答した。嘘つきは泥棒の始まりとか言うけど、泥棒でけっこう!!


「……なら、いいんだけど」


 アリスは顔を真っ赤にして硬直している。


「私、女の子のスカートめくるのは好きだけど、見られるのは好きじゃないんだよね……」


 女の子のスカートをめくる女の子……スキンシップの一種なのだろうか。


「でも君なら別に……いいか」


「ん?」


「ううん。さあ、おっきしましょうね!」


 アリスは深呼吸して気を落ち着かせると、柔らかく暖かい手でオレを優しく立たせてくれる。手が触れただけなのに、思わずどきっとしてしまう自分が情けなかった。


 ちなみに立ったのは足だ。念の為に補足しておく。


「それにしても、一体何なんだ、これは……説明してくれるよな?」


「もちのろん!」


 アリスはいたずらっ子のような笑みを浮かべると、腕を組んで偉そうにふんぞり返った。


「どういう原理だか解らないけど、旧校舎の教室の扉と、この異世界が4時44分44秒になると、接続されちゃうみたいなの!」


「七不思議の、あれか? 死後の世界だか地獄だかに繋がるっていう」


「そそ。私ってば、超能力とかUFO大好きでさ。七不思議とか定番中の定番だけど、1つずつ実証してみたくなっちゃって……それで、一週間前扉を開いたら、偶然ここに出たの。それでこの辺りを探検してたら、いつのまにか勇者にされてたの。てへ☆」


「それで? まだまだ疑問も尽きないし、信じがたい現象だけど……何でオレ……なんだ?」


 正直な話。入学してからこっち、今の今までオレとアリスに接点は何もなかった。1月近く経っているっていうのに、何で今……オレなんだ。


「君が、田中くんだから」


「え?」


 まさか。アリスはオレのことを……?


「この世界に入れるのは、名字が田中っていう人だけなの。佐藤さんや鈴木さんにはこの扉はくぐれないし、存在も感知できないみたいで」


「何それ。意味がわからない……」


「それなんだけどね……どうも私は二代目勇者らしくって。先代の勇者も田中っていう名字で、女子高生だったらしいんだよね。25年前、魔王を封印して元の世界に帰るとき、二度とこの世界と繋がらないよう封印するつもりが、手違いで自分と同じ名字の人間しか入れないようになっちゃたとか」


「なんだそりゃ。田中なら他にもいるだろ」


「そういう理由で、私は田中(なかま)を探していたの。けどけど。皆部活入ったり、バイト始めたりで付き合い悪いんだよねー。『ちょっと一緒に異世界行ってみない? 死ぬかもしれないけど』って聞いたら、微妙な顔して一歩退かれたんだよねー」


「いきなりそんなこと言われたら、誰だって退くわ!」


「そこで私は考えたのです。『1年3組の田中陶冶くんはいつも1人で寂しそう。ちょっとエロい感じに誘い出してだましちゃえ、てへへ』とね。てへへ」


 てへへを連続するアリスに、オレは何も言い返せなかった。確かに、エロい想像はしてしまったし、期待した……オレのおバカ!


「待てよ。じゃあ……イイコトってのは?」


「ワクワクの大冒険! モンスターを無双して、お金もがっぽがっぽ! とっても気持ちいいよ!」


 ……なるほど。オレはだまされたのか。


「まあ、オレをここに連れてきた理由はわかったけどさ。どうすんだよこれから? だいたいオレ、ケンカ弱いぞ? 取り得だって何にもない。平々凡々が服を着て歩いている、そんな感じのオレに何を求めるんだよ」


「大丈夫だよ。ファンタジーといえば、剣と魔法。君も使えるんだよ、魔法」


「え? マジか!? でも、どうやって?」


 興奮してアリスに詰め寄ると、アリスは急にセーラー服を脱いで、ブラウスのボタンを外した。


「キャー! エッチ!」


 と、言ったのはアリスではなく、オレだったりする。


 そのまま全部脱いじゃうのかと思えば、ボタンを1つ2つ外しただけだ。


「紋章を刻むんだよー。ほら、ここ」


 胸の谷間を指差すアリスにオレは、もうちょっとサービスしてくれてもいいだろとか思いつつ、ガン見した。健全な男子ならば当然だろう。


「体の一部に紋章を刻むことで、魔法を行使できるんだよ! 私は自分の身体能力を強化する魔法と、治癒魔法を覚えたからね」


 そう言うと、残念なことにさっさと制服を着こんでしまった。ちくしょうが。


「そっか、それであんなデカイ剣を軽々振り回したり、とんでもないジャンプができるのか」


「そういうこと! さてと。口で説明するのも飽きたし。とりあえず行ってみない? エルフの村へ」


「エルフ?」

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