第三話 助けてくれたのはカエルさん!?
カエルさんが出てきます。
「どこから行きたいんですか」
さっき朝ご飯をいただいた。
美味しかった。
昨日何も食べてなかったので余計に美味しく感じた。
味自体も美味しかったし、なにより空腹は最高の調味料とも言うしな。
「まずは家を契約しに行きたい」
「家ですか?」
「ああ」
「働くには住所が必要だ」
「それ以外にも休める場所が欲しいしな」
「はい」
「そういうことならお任せください」
うん、ぜひお任せ願おうか。
※※
ドアを出て、さっきからお世話になっている建物を見る。
なんというか。
「なんか言いたげな顔ですね」
ジトっとこっちを見てくるが仕方ないだろう。
だって
「このアパート?築何年ってレベルのシロモノなんだけど」
見た目は二階建ての古いアパートのように見える。
だが、細かい所に目を張ると
床がボロボロは当たり前。
階段は錆び付いて抜けないか心配になるレベルの錆びよう。
遠くからは気づきにくいが近くでみると壁のあちらこちらにヒビが入っている。
普通に危ないボロアパートだった。
「大丈夫ですよ!内装はしっかりしているので関係ありません!」
関係なくは無いと思う。
リフォームはしないんだろうか。
「とりあえず不動産を回ってみましょう」
話を逸らされた。
まぁ、別にいいか。
※※
「良い条件にあった物件がないなぁ」
うーん。
俺の条件に調度いい物件がない。
まったく、どういうことだ。
「あなたの条件がおかしいんですよ」
うーん。
何かいい家がないかなぁ。
「ち、ちょっとさっきから道案内だけさせて無視しないでもらえますか!?」
うるさいなぁ。
他人のフリをしたいのに。
「人通りが多くなってから酷くありません!?」
だってなぁ
「お前のその、被りものなんだよ」
そう。
あのアパートを出るときにはあんなものは無かった。
カエル。
蛙の被りものである。
それもカエルの口から顔が見えるタイプの被りものである。
「なにがおかしいところでも?」
ああ。
見た目はいいから余計に残念な美人さんにしか見えない。
髪は軽くウェーブしていて、色が栗色。
ロングである。
服装は長袖の白いほわっとした服で下はカーキ色の長い膝ちょい上ぐらいのスカート。
靴は茶色でスニーカーブーツといったところだろう。
顔のパーツを見ると美人さんだが全体的にみると美人というより可愛い感じがする。
なんか軽く小動物を思わせる雰囲気がある。
背丈は小柄な感じで体系は
…ああ、その
なんだ小柄なのに一部に凶暴な山を持っている。
実にけしからん。
けしからん奴だ、油断も透きもない。
そんな人がカエルの被りものを被って歩いている。
どんな美人さんだろうが一緒に歩いて残念な人には見られたくないものだ。
流石に羞恥心はある。
「おかしいところしか俺には見えん」
「どうしてですか!」
「その被りものをする意味がわからん」
「趣味なら俺のいないとこでしてくれたら何も言わん」
「あのですねぇ」
「これは種族を証明するために必要なものなんですよ」
また来たよ。
意味不明ワード。
説明プリーズ。
「そういえば何もわからないとか朝言ってましたね」
「あ、そこにベンチがあるので」
「少し説明します」
※※
ベンチに腰掛けると彼女が話しを始めた。
「えっと」
「まずこの世界には種族というものがあります」
「なにも身体に異常がない人間をノーマルといいます」
「大体五割くらいがノーマルだと思います」
「次がですね」
「身体になんらか異常がある人間」
「そのまま異人ですね」
「たまにマレビトとも呼んだりします」
「特徴は人体に他の動物の特徴や特性が出てきます」
「例えば耳が生えていたり、短い時間ですけど背中の羽で飛んだりします」
「人によっては結構ハッキリと特性が出ている人がいますよ」
「出てくる特徴は哺乳類が通常の異人です」
「最後に」
「異人の中でも」
「例外がありまして」
「それが哺乳類以外の特性が出た異人です」
「両性類や爬虫類などの特徴や特性が出た人のことです」
「どうしてそうなっているのかはまだ詳しいことは解明されていないようです」
「あと決まりごととして」
「身分を偽らないこととして、異人はなんの異人であるかを」
「目に見える形で証明しないといけなんです」
「で、私は両生類、カエルの異人なんで」
「こんな被りものをしているわけです」
ですですーっと言っている子はスルーして
・世界の半分は普通の人間
・もう半分は動物人間
・たまに例外あり
ってことだな。
あれ?じゃあさ。
「昨日絡んできたアイツってなんの異人になんの」
「でかいし臭いし皮膚がめっちゃ硬いし」
「たぶん」
「豚ですけど普通では無い感じだったので特異変質だと思います」
「稀に一固体だけが飛びぬけて強く生まれる場合があるそうです」
へぇー。
にしてもカエルね。
ということは生理になったら卵でも産卵するのだろうか。
んー。
中々興味深いな。
ついつい下腹部に目が行ってしまうのは悲しきかな男の宿命。
「なんでコッチを気味が悪い目線で見ているんですか」
「それだけでなにか良からぬことを考えているのがバレバレですけど」
おっと。
いけない。
一人の男性、一紳士としてイヤラシイ目線はダメだな。
うん。
相手に不快な思いをさせるなんて紳士失格である。
こういう場合だからこそ脳内で妄想、いやその光景を創造するんだ。
「ふん」
「おわっ、危ないじゃねぇか!」
コイツ朝出した水球を突然だしてきやがった。
暴力反対、ラブ&ピース、争いはなにも生まない!
「なんだか不快な思いを漢感じたのでけん制しました」
「皆真剣にがんばっているんだよ!少し脳内補充しただけだよ!」
「なおさら駄目じゃないですか!」
なんでい。
いいじゃないか、妄想くらい。
相手に不快感与えない、俺満足。
まさにWINWINな関係じゃないか。
「まったくそもそも」
「月5万円以下でトイレシャワー完備の築年数が新しい1LDKなんてそんなパッと見つかるわけないじゃないですか」
「だってボロイとこ嫌だし、トイレシャワーは絶対いるし家賃安い方がいいから」
「せめて条件はそろっているけど古いとか」
「家賃をもう少し高めで探してもらうとか」
「そうじゃないと今日中に契約なんてできませんよ!」
うーん。
そうはいってもなぁ。
とういうか気づいたらもう昼だよ。
時間が経つのは早いなぁ。
「どうすっかなぁ」
「本当にどうs」
「うおおい!てめえは昨日の糞野郎じゃねーかぁ!」
今一番聞きたくない声がした。
※※
はぁ。
なんでこういうときに。
公園の入り口に昨日あった豚がこっちを見て興奮していた。
「てめぇだよ、てめぇ!」
「この糞ゴミが!」
「よくも顔を好き放題ぶん殴ってくれたな!」
もう一度奴を見てみる。
二メートル以上の体に浅黒い肌。
あ、鼻は良く見たら少し潰れて酷いべちゃ鼻になってる。
アイツは豚確定だな。
「ん、よく見たら」
「なんだよ、今は女と一緒にいるのかよ!」
「いい身分だなぁ!」
「昨日の今日だから」
「手加減無しで始めから」
「ブッ殺すつもりで行くぜ」
ヤバイな。
俺のことはいいから横のコイツがせめて逃げる暇だけでも作っとくか。
まったく普段こんなことになったら即逃げなんだけどね。
…一応朝と助けてもらった恩返しじゃないからな。
「おい」
「んん?なんだよ」
「いいか、おまっがひゅ!」
「」
あがががが。
痛い。
マジ噛んだ。
ヤッベ、血が出てないか心配だわ。
「お前」
「なんだ、その」
「頑張れよ」
は、恥ずかしい!
まさかカッコつけようとして
相手に同情されるなんて。
ないわー。
コレはひどい。
「なんだか白けちまったなぁ」
「おい、もう金はいいから」
「昨日のお礼にコレでも食らってけや」
豚男がそう言いながら
こちらに向かって腕を振った瞬間
なんだか嫌な感じがして
あわてて横の腕を掴んで
そのまま地面に伏せると同時に
――ビュッ
鋭い音が頭上を通り抜けた。
「おわっと!」
あわてて後ろを振り返ると
さっきまで座っていたベンチの背もたれが
――綺麗に半分にされていた
あわわ。
なんということでしょう。
匠の素晴らしい技によって背筋がまっすぐになりそうな背もたれが。
「あのー」
「腕を離してくれません?」
「少し痛いんですけど」
「ごめん?!」
気づいたら咄嗟に腕を掴んだまま伏せてしまっていたらしい。
「大丈夫ですよ」
「噂でしか聞いてなかったんで」
「どんな実力者かなと思っていたんですけど」
「なんとかなりそうです」
そう言って、彼女は立ち上がって豚男に向かっていった。
「おい、やめろ!」
「見ててください」
「おいおい、女に任せっきりたぁ情けない奴だなぁ」
くぅ!う、うるさい!
「見る限り、風の最低限の使い方は理解できるみたいですね」
「でも」
「突風を飛ばしたり」
「真空の刃を真っ直ぐ出したり」
「応用はまだまだみたいですね」
「な、なんだと!」
「てめぇ、女だからって手加減すると思ってんじゃねぇぞ!」
いわんこっちゃない。
南無三。
でもどうするつもりなのだろう。
「初級の基本しかできないなら」
「技能の無い人ならともかく」
「私でも勝てる可能性があります」
「やってみろよ、コラアァァァ!」
ああ、不味い。
突っ込んできやがった。
それに合わせて、構えだした。
「水よ」
――水が
――間欠泉みたいに出てきて
――相手の下から強烈な勢いでぶつかった。
「ごぼぉ!」
「そのまま」
「くらいなさい!」
ドカァ!
水が相手を球体の形で包み
勢いよく地面に衝突した。
…めっちゃ強いじゃん。
朝のとき、全力で謝っといて良かった。