第二話 異世界なのか?
んー。
暖かい。
何だか体が痛い。
でもそんなことは関係ない。
眠い。まだまだ寝足りない。
おやすみなさい。
ふわぁ、よく寝た。
頭は少しだけボーっとする。
それにしても今何時くらいだろう。
お腹すいたなぁ。
そういえば昨日から何も食べてない気がする。
ご飯どうしよう。
………ん?
まてよ。
此処はどこだろう。
俺は公園で休んでいたはず。
なのに、なんで知らない場所にいる。
誘拐か?
いや、それとも
――そのとき最悪の考えが頭を過ぎった。
昨日はあんな風に茶化して言ってしまったが、本当にウホッ!な方々にでも捕まってしまったのか?
なんということだ。
早くこの状況を打破しなければ。
でないと俺の明日(後ろの貞操)に未来はない。
と、とりあえず冷静になって部屋を観察しよう。
なにか打破する為の糸口があるかもしれない。
――あとになって振り返ってみるとこのときは自分でもアホなくらい混乱していた。
※※
部屋の広さは1Lくらい。
床は板張りのフローティングで絨毯などの敷物はない。
ドアは勿論ついている。
無かったら唯のパニックルームだが。
真ん中に丸テーブルが置かれている。
色は緑。
カーテンも緑色だ。
なんだ、この部屋は。
視力に優しい部屋でも目指しているのか。
お、部屋の隅っこにプラスチックの衣装タンスみたいなのがある。
もしかしたら、なにか良いものがあるかも知れない。
これは好奇心などではない。
そう、必要性のある行為なのである。
それにホラ、PRGの勇者もやっている由緒正しき行動である。
なので、俺は偉大なる先人にしたがって行動をしてみるとしよう。
それではご拝見しよう。
でも開けて男の下着でギッチリだったら嫌だなぁ。
そうだ、少し開けて中を見ずに一枚だけ取ってみれば問題無いはず。
ヤバイな、朝から冴えている。
今日はいい事がありそうだ。
よし、
――いくぞ。
ええい、神はわが手にあり!
そおぃ!
手の中に何かを掴んだ感触がある。
見てみよう。
どれどれ。
おお、これは。
宝である。
色は緑。
この部屋の持ち主は女性の可能性が高いだろうことが証明された。
こんなに素晴らしい宝の持ち主だ。
きっとこの部屋の彩色のように心優しき人物に違いない。
いや、まてまて。
そう決め付けるのはまだ早い。
この宝をもっと詳しく調査してみなければ。
そう、例えばこの優れた嗅覚で警察犬のように匂いをかいで。
少しずつ顔を近づけて。
さぁ、ハリーハリー!
あとすこs――――
ガチャ
ドアが開いた。
少女がいた。
とりあえず俺がしたことは
「Good morning、お嬢さん」
「いやああああああああああああああああ!」
そりゃそうなるわな。
まずその手に持つパンツから手を離してからだよな。
普通。
※※
「私はあなたが公園で倒れていたのを見て、そのままにしておけなかったので私の家に運ばせて貰いました」
今この部屋の持ち主である目の前の少女からどうしてここにいるのか事情を聞いているが。
なんというか、この子。
少し頭が弱い子なんじゃなかろうか。
「あのな、助けてもらっておいて言いづらいんだけど」
「なんでしょう?」
「見知らぬ男を、それも身元不明な怪しさ満点の人物を家に連れて行くのは一般的に考えてもどうかと思うんだけど」
「あー、それはですね」
―――そう言って彼女は手から
水の塊を手の上に出した。
「もしあなたが危なそうな人でしたら」
「正当防衛といった形で」
「コレをぶつけるつもりでした」
実際は違う意味で危ない人だったんですけどねー。
と話しているが今、目に見えているものが昨日あの路地裏で突然背後から受けた突風とシンパシー的なものを感じた。
「お、おい」
「そういうことは」
「ここら辺の人達なら」
「誰でもできることなのか?」
「んー、そうですね」
「色々ありますけど」
「誰でもという訳では無いですね」
良かった。
もしここら一帯の人達全員ができることならこんな物騒な街すぐに出て行く所存だった。
つまりあの突風しかり、今もこの子が持っているこの水球もあれに負けない危険性があるということだ。
恐ろしいな。
「目が覚めたのでお聞きしたいんですけど」
「なんで昨日はあんな状態で公園に?」
俺は彼女に昨日ことについてあらかた説明した。
――よく説明しがたい歪みに飲まれたこと
――路地裏に倒れていたこと
――家族や家族にまつわることや自分自身の名前が思いだせなくなったこと
――てっかい奴に絡まれたこと
――わけ分からない突風を受けたこと
――捕まらないように逃げまわっていたこと
――何も食べてない状態で動き回って疲れ果てたこと
――ここが知らない世界ではなかろうかと思ったこと
そして
――寝る場所が見つからなくて公園で力尽きたこと
説明できることは説明した。
彼女は信用していいか分からないがこの何も分からない街について今のところ唯一の相談人であるから大体のことを説明した。
「そうですか」
「正直歪みと言ってもイマイチ分からないですけど」
「自身に関わる記憶が無いなら役所に言っても何も聞けないですし」
「それにあそこ辺りの路地裏は治安が悪いので」
「街の人達はなるべく普段は近寄らないようにしているんですよ」
「絡まれたと言ったそのでっかい人はここらでもマークされている危険な人で」
「大怪我しないで良かったですよ、ほんと」
そうか、やっぱりあそこは路地裏でよかったのか。
そして寝コロがされた見知らぬ場所は治安が悪いときた。
最悪だな。
しかも絡まれた奴が飛びっきりのキチガイと来た。
殺意しか沸いてこないぞ。
流石に。
「これからどうするんですか?」
「とりあえず住む場所と働き口を探そうと思う」
この街にいる以上記憶がどうか言ってる場合じゃない。
会社に電話かけても繋がらなかったから会社自体がこの街に無い可能性があると見ていいだろう。
そうしたら、お金を稼ぐ方法を探さなければならないだろう。
それで住む場所も探さなければ住所が書けない。
履歴書を書く場合まず特定できる家を借りておかなければ就職もままならないだろう。
「あのう、なにかお困りですか?」
俺は彼女に説明した。
そしたら
「そういうことでしたら」
「今日一日中お手伝いさせてください」
「まず不動産関連からまわった方がいいですか?」
ん?
「え、いいの」
「手伝ってもらって」
「正直この街について何も知らないから凄く助かるんだけど」
「ええ」
「助けたのは私で」
「どうせ乗りかかった船ですし」
前言撤回。
頭弱そうなんて思ってゴメン。
すごく、すごくいい子。
親切な子だった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ」
「どうぞお願いされました」
移動する前に。
一つ気になったことがあった。
さっきそんな固くしゃべらなくてもいいですよと言われたからフランクに聞いてみよう。
「そういえば」
「はい?」
「この部屋の彩色は」
「どうして緑色中心なんだ?好きな色とか?」
「えーと」
「なんといいいますか」
「あのですね」
「好きというかですね」
「うん」
「私の種族のパーゾナルカラーだから」
「ということしか特に理由は無いんです」
は?
種族?
そりゃあ、さっき水球とか出していたし。
普通ではないと思っていたけど。
ここ、バリバリのファンタジー世界とかじゃないよな?
周りは普通にビルだらけだったし。
たしかに昨日見ていたら変なもの付けている人達が多いなとは思ったけどさ。
疲れすぎて、ただの見間違いや幻覚だと思ったんだよ。
ほんと。
知らない場所どころか異世界なんて笑えないんだけど。
――ああ。
とりあえず、彼女に伝えたいことがある。
「ごめん。厚かましいと思うけど」
「なんですか?」
「お腹が空いて堪らないので」
「ご飯を恵んでくれませんか?」
ジト目で呆れたような視線を向けられた。
しょうがないじゃないか。
さっきから空腹で辛いんだから。