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プロローグ

十一月




空がきれいだ。


ガラにもなくそう思った。

仕事帰りでついさっきまで電車に乗って、ちょうど駅についた所だ。

このまま真っ直ぐ歩いて帰ると二十分もしないうちに家に着くだろう。


「はぁ…」


家に帰るのもいいがそういう気分ではない。

そもそも家にあまり居たくない。

あそこに居るんだったらまだ仕事で徹夜をしてもかまわないと思う。


「はぁ」


ゆったり歩きながら通行人を観察する。

電話しながら移動するスーツ姿の男性。

自転車を横に並べて談笑しながらペダルを漕いでいる高校生。

それに手を繋ぎながら歩く仲良さげな大学生くらいのカップル。


(俺もあのカップルと少ししか年は変わらないハズなんだけどなぁ)


ええい、なんで俺は高卒で死ぬ気で働いているのに世の中はこんなに残酷な仕打ちを!

いやいや。

まあまて、あいつらが学業に励んでいる間にコッチはお金稼いでいることだと考えよう。

そうしよう。

そうしないとやっていけない。




なんとなくたまたま横にあったビルのガラスに映る自分の姿を見る。

身長180㎝くらいで、鍛えるのをやめてから2、3年は経つが仕事柄か他の通行人に比べて体格はいい。

顔も目付きは悪いが目の大きさは大きい方だ。

とういうかそれが余計に目付きを悪くしているような気がする。



ーーまぁ、そんなことはどうでもいい。




家の家族とは折り合いが悪い。

折り合いが悪いとうかなんというか、色々とヘビィな事情があったりする。

ほんと仕事をしている方がまだ仕事に集中できて肩の荷が下りると思う。


「本当に帰りたくないなぁ」


ますます家族との間にどうしょうもない溝ができあがって来ているのを最近感じる。

男だが気分は誰か私を連れて行って!!っと願いたくなる程だろう。

その場合はきっとムキムキのマッチョメンが攫いに来るに違いない。

間違いない。

別に俺にソッチの気は無いのだが。




ーーほんと、一体なにを我ながら考えているのだろう。




最近疲れているのだろう。

そうだ、そうに違いない。

家に帰ったら無言で不貞寝をかましてやろう。

あいつらと話すことなんてないし。



ーーああ、あと十分もしないうちに家に着いてしまう。




マンションが立ち並ぶ中、その奥にあるアパートが家だ。

その前に川を横切るほんの少ししかない橋を渡らなければならない。

俺はその橋の手前まで来てしまった。



ーーこのとき、何かが歪んだような気がした。




「うぇ」




目の前が一瞬真っ暗になってくらついた。

よく寝不足と疲れで目眩を起こすことがあるから気にはしていない。

病院では体はとても健康で血圧の値も高圧低圧どちらも正常値な健康体である。

だから目眩くらいでなにも気にしない。



ーーなぜかそのあと周囲に違和感を感じた。




周りを見渡してもなにも起こってはいない。

考えすぎだろう。

ほら、橋から少しだけ離れたところにある公園で中学生が話しあっているじゃないか。

その傍の車道にも車が走ってるし。

歩道を買い物帰りの主婦が自転車で通っている。


なにも、なにもないじゃないか。

違和感なんてないし、気の迷いだろう。


だって、ほらーーー









ーーーこんなにも、夕日が綺麗なのだから



「え?」


おかしい。

駅を出たとき綺麗な沈みかけの夕日であと三十分もしないうちに完全に日が暮れるだろうと思っていた。

なのに今あんなに夕日がはっきり出ているのは異常なことだ。


ヤバイ、なんかヤバイ。


早くここから離れたほうがいい感じがする。

そう思って、体を動かそうとするが体がまったく動かない。

動かないどころか、勝手に橋の方向にゆっくりと進んで行っている。


「え、え?だ、だれかぁ!」



助けを周囲の人達にすればなんとかなると思っていたが




ーー周りに誰もいなくなっていた。



さっきまでどんなに近くても二百メートル以内には人が見えていたハズなのに、目に見える範囲には人っ子一人も見当たらない。




そのまま体は橋の向こうに見えた歪んだ風景に飲まれてーーーーー




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