造られた屍騎士
…ああ姫様、どうか悲しい顔をなさらないで下さい。
私は生きております。
どうか、笑顔を…。
私は、騎士の一人だ。
今、私は…敵国の王の目の前にいる。
縛られた姿で。
理由は、簡単だ。
我が国に、スパイがいた……ただ、それだけだ。
王は言った。
「我が国につく気はないか?」
気味の悪い笑みだった。
私は答えた。
「私はあの国の騎士です。…この様な国に使える意味は無い。」
その答えに、王は激怒しました。
そして部下に言いつけました。
「この者の首を切り落とせ!…実験に使っても構わん!」
暗い地下牢で、騎士は若い研究者達に囲まれました。
「君には死ねなくなる薬をあげよう。」
研究者の一人が言いながら、粉をカプセルにつめます。
「君には時が止まる薬をあげよう。」
他の一人も言いながら、粉をカプセルにつめます。
「さぁ、飲むといい。」
別の一人が、差し出してきました。
騎士は拒絶していましたが、無理矢理飲まされました。
頭がふらふらしている騎士の耳に、研究者の呟きが聞こえました。
「死ななかったか…成功だな。」
その日の黄昏時…騎士は断頭台の上にいました。
断頭台の下には、沢山の見物人がいた。
王は騎士に言う。
「まだ、心を変えぬか?」
騎士は言います。
ただ真っ直ぐな眼をして。
「私は、一度誓った事は、決して破らない。」
王はそれを聞いて、手を下しました。
断頭台の刃が首に食い込んだ。
そして、首が切り落とされた。
騎士は、目を覚ましました。
「おお…!あの薬は成功だったのか!」
王の声が聞こえます。
「だからこそ生きているのですよ。」
研究者も言った。
騎士は状況を把握しようとした。
だがその前に、研究者が言った。
「首だけで生きるとは…大した薬ですよね。」
騎士は、天井を見ながら絶句していた。
数日後、姫と騎士の部下が攻め込み、王達は全滅した。
騎士は部下に運ばれていったが、体は行方不明だという。
「そうか…御苦労だった。」
騎士は部下に言って、ただ沈黙した。
それから、幾年かの時が過ぎた。
姫は王女となり、婿の王と共に国を創った。
部下達はより強くなり、騎士は部下の一人を騎士長に任命した。
騎士は……あの時から、何も変わらなかった。
そんなある日の事だった。
「どうやら、迎えが来たようだ。」
騎士が言った。
その言葉と同時に、首のない体が入って来た。
体は首の近くに座ると、剣の手入れを始めた。
そしていつまでも、その国を守り続けたという。