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私は子爵令嬢を捨てた侍女見習いです



 おはようございます、皆様。

私、アリエル・ブランと申します。


 十九年前にこの世に生を受け、子爵令嬢としてそれなりに裕福な暮らしをしてきた私ですが。

先月を以て、そのありがたい暮らしからすっぱり卒業してきました。


 そして現在、ここアランブール侯爵様のお屋敷で、侍女見習いとして働かせて頂いております。


 このお屋敷で働き始めて早一月。

私には、毎日欠かさずにやりとげるある日課がございました。




「おはようございます、エリク様!」



 ゆっさゆっさと主の身体(が下に埋もれてるであろうシーツ)を両手で揺らします。

すると、もぞもぞとシーツが動いて……

蜂蜜色のさらさらヘアーが見え、次いでぷはっとシーツから顔が出てきます。

そして暫くぼんやりとしている主は、不意に髪と同色の蜂蜜色の瞳をこちらに向け、にこりと微笑まれるのです。



「…おはよ、アリエル」



 もう、快っっっっ感!

この寝起き(寝惚け)時の主のスマイルは格別!

寝癖のついた猫っ毛の髪も、すべすべの肌も、眠いのかぼんやり虚ろな目も全てが素敵!

素敵すぎますエリク様!


 抱き締めたい気持ちをぐっと堪え、主の朝のご用意のお手伝いをします。

そして着替えを済ませ、寝癖を直した主に一言。



「エリク様、今日も輝かしゅうございます!大好きです!」


「あはは、ありがとう、アリエル」



 こうして主はうら若き乙女の告白を、悩殺スマイルでするりとかわすのです。

ああ、なんて罪なお方。



 そんな罪な彼の名前は、エリク・アランブール。

アランブール侯爵様の第一御子息であられるお方です。

歳は二十歳で、髪と瞳は輝く蜂蜜色。

白いお肌は吹き出物一つないすべすべお肌で、少し目尻の下がったおっとりとした顔立ちのお方。


 世間一般では中の上らしいそのお顔立ちは、いえいえとんでもございません。

私めにとっては極上の逸品でございます。

要は、ストライクど真ん中。

超絶タイプなのです。


 公爵様が開かれた舞踏会で彼に出会い一目惚れしてしまった私は、縋る父親を蹴るようにしてこちらのお屋敷に侍女見習いとしてやってきたのです。

そしてエリク様専用侍女(見習い)として、この一ヶ月間浮かれ気分で働いてきました。



 そんな私の想い人でもあり主でもあるエリク様は、他の侍女さん達から見れば然程美しい訳ではないようです。

まぁそれはそれでライバルが少なくて良いのですけど、それには明確な原因があるのです。


 その原因が、この男。

さっきから何度揺り動かしても唸り声すら上げないこの男なのです。


 エリク様よりも少し暗めの髪と、同色の瞳。

彼の名前は、アシル・アランブール。

アランブール侯爵様の第二御子息であられるお方でございます。


 エリク様とアシル様は二卵性の双子でございまして、容姿はあまり似ておられません。

そして、このアシル様は、世の女性を虜にする程の超美男子らしいのです。


 らしい(・・・)というのも、私にとっての超美男子はエリク様なので、アシル様のお顔の魅力はあまり感じないのです。

しかし他の侍女さん達は、この男に首ったけ。

もう何されてもいい!と言わんばかりの惚れ込みっぷりでございます。

(現に大体の侍女さん達は彼のお手付き済みです。)


 そんな美男子が隣に並んでいるせいで、十分お美しいエリク様が薄れてしまうと侍女さん達は言います。

薄れるだなんて失礼も甚だしいですね、まったく。

むしろあんな色魔の男のどこがいいのか、私には皆目見当も付きませんね。


 因みに、白い物を好むエリクさまは、お屋敷内の侍女さん達の間では密やかに白の君と。

黒い物を好むアシル様は、黒の君と呼ばれております。



 ああ、こんな男を起こしているぐらいなら、もう少しエリク様のお側にいたかった……


 そんなことを考えていると、不意に身体に妙な重みがのし掛かりました。



「お前またエリクのことでも考えてんだろ」 



 いつの間にやらアシル様の寝台へ押し倒されていた私は、何やら不機嫌な彼にのし掛かられている最中のようです。

苦しいので、早くどいて頂きたいです。



「ええ。私はいつでもエリク様の事を想っております」



 うっとりとして言った私に、アシル様は心底うんざりした様な顔で見下ろしてきます。

本当に失礼な人ですね、まったく。



「はいはい、仕度ができたら朝食ですよ」



 そんな彼を押しやった私は、いそいそとエリク様のお部屋へ。



 優しい王子様のようなお方、白の君ことエリク様。

乱暴な色魔な、黒の君ことアシル様。

そんな二人の朝のお世話係を命じられた私は、今日も慌ただしい朝を迎えました。





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