序章
僕は、普通の人にはない力を持っている。
いわゆる、第六感の持ち主だ。
その第六感とは、残念ながら、ありがちな話、霊感のこと。
この霊感はありがた迷惑な能力で、決して憧れるようなものなんかじゃない。
見たくもないものが視えてしまったり、幽霊にしつこく追い掛け回されたり、とにかく、酷い能力なのだ。
そんな僕にも平凡は人生はすこしだけだが、あった。
たった、七年間だけだけど。
まだ僕が小学一年生の頃。
八月中旬、まだまだ蒸し暑さが残る夏。
僕のひいおじいちゃんが八十六歳で亡くなった。
僕の家は、基本的、無宗教なのだが、ひいおじいちゃんは、第二次世界大戦後、奥さんを亡くして、キリスト教徒になったそうだ。
だからなのか、お葬式を普段通っていたという教会で行うことになっていた。
ひいおじいちゃんが住んでいたのは、静岡県の熱海市の海沿いで、僕が住んでいたのは、神奈川県横浜市だ。
まだ七歳にもなっていなかった僕に、両親は「熱海のおじいちゃんに会いにいこうか。」といい、ひいおじいちゃんがなくなったことは、一切言わなかった。
しかし、押さなかった僕でもなんとなく嫌なことがあったんだろうな、ということを感じていた。
お母さんに手を引かれるまま、新幹線に乗り込んだ。
新幹線のドアがしまってすぐ、僕の小さな体で抱え込むことのできないくらいの嫌悪感に襲われた。
血の気が引き、体中に鳥肌が立った。
涼しいくらいの温度だった車両が一気に寒くなったように感じた。
まだ小学一年生の僕には体験したことのない恐ろしいものだった。
新幹線に慣れていた僕が突然泣き出したので、両親は驚いたことだろう。
普段僕はめったに泣かない”強い子”だったので、余計そう思ったに違いない。
結局僕は、新幹線を下りる寸前まで泣きべそをかいていた。
タクシーをおえいて教会に入った。
中にはいつもお盆や正月に会う親戚のほかに大勢のひいおじいちゃんの知り合いと思われる人たちでいっぱいだった。
お葬式がhじまったから終わるまでの間、僕はずっと下を向いていた。
ずっとだれかに見られているような視線を感じていたのだ。
そして、やっとの思いで教会を出ようとしたとき、祭壇の前にひいおじいちゃんが立っていた。
僕をにらんでいた。
そうか、僕をずっと見ていたのはひいおじいちゃんなんだ・・・・
そうおもった次の瞬間、視界が真っ暗になった。
僕は気絶していた。
それから僕が意識を取り戻して、目を覚ましたのは、一週間後だった。
その間僕はずっと四十度近い高熱を出していたようで、親戚の叔父さんが院長を務めている病院に緊急入院をしていたということを後々聞かされた。
入院している間ずっと僕は同じ夢を延々と繰り返しみていた。
僕と同い年くらいの女の子が僕と、公園で遊んでいるのだ。
ただ女の子と一緒に遊んでいるだえだったのに、物凄い恐怖心を覚えた。
そして僕は現在、中学三年生。
あの小さかった僕はいま、百八十センチもある大柄な野球少年へと姿を変えた。
ただ、昔と変わっていない部分といえば、一人称が現在には珍しい「僕」というところと、霊感を持ち合わせているところである。
中学受験をして、見事、第一志望の学校へ入学できた僕は、中学三年生の夏も、野球に打ち込んでいた。
朝からの練習で、もう体力が限界だった。
普段使わない道を通って思い足で家へと向かっていた。
その道は少し薄暗くて、近所じゃだれも通らない、近道だった。
ふと目に入ったのは、どこかで見たことのある公園だった。
何気に幼児用の滑り台に近づいてみると、僕と同じ年くらいの女の子がすっと陰から現れた。
「久しぶりね、覚えているかしら」
そんな口調に僕は違和感を感じた。
見たことのない女の子。
この子は僕を知っている。
戸惑った僕を見て、クスリと笑う少女。
また話し出した。
「私はあなたに
ここで殺されたのよ!」
そういい、目が追いつかない、普段受けている野球ボールとは比べ物にならないくらいの速さで僕を彼女は切った。
次の瞬間、目に視えたのは、赤い世界と、笑っている少女の口元だった。