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勝者が語らぬ歴史 4

「国交のある国のほとんどが魔女狩り推進派でさらに魔術師そのものが減り、王侯貴族は他国の王侯貴族との婚姻を結ぶことも多い。他国の魔女狩りを推進する国の影響も少なからず受けるわけだ。魔術師の国と言われたこの国でも」

「それって、魔術師を排斥する思想がアヴァロンでも広まりつつあるってこと?」

「そういうことだ。いや、一部ではすでに根深く浸透していると言ってもいいな」

「そんなの……全然知らなかった」

 確かに政治や階級社会に対して様々な思想を持つ人がいるということは知っているし、時に過激な思想家が凶行に走るという事件がなくもない。

 けれど一部で既に広まっているというような思想、新聞でも噂話でも聞いたことがない。

 そもそもミラはアヴァロンに魔術師が存在した、あるいは今も存在しているということすら知らなかったから、もしかしたら本当にただ自分が知らなかっただけなのかもしれないが。

 けれどエセルは当たり前のように答えた。

「知らなくて当然だろう。その『一部』はアヴァロンの禁忌とも言うべき一派だからな。せいぜい貴族院議員くらいのものだ。その伴侶や家族が知らなくたって何の不思議もないし、そもそも知っていたとしても口にしないだろう」

「禁忌?」

「あんたは八年前の事件、どの程度知っている?」

 エセルの目がまっすぐにミラを射る。

 ミラはその瞳に気圧されそうになりながらも彼の言葉に青ざめた。

「事件って……」

 八年前というとミラはまだ九歳の子供だった。だがそんな子供だったミラですら知らずにはいられなかった、アヴァロン王国内外をも揺るがした事件があった。

 当時こそ社交界の噂好きな人々から下町の人々の間にまで事件に関する様々な憶測が飛び交い、幼いミラにすら様々な話が聞こえてきた。それにアヴァロン王国民の一員として、決して無関係とは言えない事件だった。

 だから当時のことはミラでもよく覚えている。

「当時の王妃様が処刑され、王太子殿下が急死なさった事?」

「ああ」

 エセルは軽く頷き、酷く冷めきった声で言った。

「アヴァロン王国史上初の王妃の処刑と諸々の件のことだ」

 その言葉にミラはますます青ざめた。


 八年前、当時の王妃の不義密通が発覚した。

 アヴァロン王国の公爵家出身の王妃は王国一の美貌を誇ったが、王とは不仲説が囁かれていた。そのため王宮ではなく離宮で過ごすことが多かったのだが、それを良いことに貴族の男達を離宮に連れ込み、時には王宮に仕える人間達とすら関係を持ったと言う。

 不義密通は大罪。ましてそれが王妃という身分であれば尚更。

 前例のない王妃の不義密通への処遇についてどうしたものかと皆が頭を抱えていた頃、どこからかその噂が広がって来た。

 何と王妃の産んだ唯一の子である次期国王、当時十二歳の王太子アルバートは国王の子ではなく、別の男の子だという噂が流れ始めたのだ。

 王妃は結婚当初こそ王宮に暮らしていたが、その頃から既に密会を重ねていたという。それも王太子が生まれた頃に王妃が特に執心だった男というのは、かつて王家転覆を図ろうとした思想犯の容疑を懸けられている、とある貴族の三男だった。

 王家転覆を狙う男との密通。

 王太子は国王の子ではなく、思想犯の子供かもしれないという疑惑。

 やがて王家の名を貶め、国内に混乱を招いた王妃の処刑が決定された。王妃は最後まで無罪を訴えたが不仲と言えど、妻に裏切られ傷ついた国王は聞き入れなかった。

 そして王妃、及び王妃の不義密通に関わったとされる貴族や側仕えの者など、十人あまりが処刑された。王妃の実家は爵位を剥奪され、他にも国外追放となった者、議会を追われた貴族も多数いたという。

 さらに半年後、王の子かどうかわからないということで立場を危うくした王太子が急な病に倒れた。それから三日後、王太子の逝去が発表された。

 こうしてアヴァロン王国は王妃と世継ぎを喪ったが国王には愛妾と、彼女が産んだ王女が一人あった。

 それから間もなく。愛妾マリア・スタンリーが新たな王妃に、そして国王には他に子供がなかったため、彼女の産んだ王女が新たな王太子として発表された。


 八年の時を経て今、あの事件について語ること、あるいは余計な憶測をすることは社交界最大のタブーとなっている。

 と言うのも、前王妃の不義密通と処刑。そして王太子の急死。

 それは全て、愛妾に過ぎなかったマリア・スタンリーとその実家スタンリー伯爵家の陰謀ではないかという説があるからだ。

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