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炎の中、裁定 4

「どうした?」

 煙に咳き込みながらエセルが怪訝な表情を向けてきた。

「指輪が熱い……」

「ああ、主の危機に指輪も危機感を持ったんだろう」

 エセルはそう何でもないことのように言う。

 そうしている間もチェストが不吉な音を立てて焼け崩れていく。

「そう悠長にしている暇もなさそうだな。このままじゃ俺達が火だるまになるのも時間の問題だ。あーあ。こんなことなら棺桶(かんおけ)でも注文しておくんだったか」

 そんな不吉なことを呟くエセルに向かい、ミラは声を張り上げた。

「じょ、冗談じゃないわよ……私は死なない! 絶対死なない!」

 瞬間、ミラ達を取り囲んでいた炎が大きく揺れた。

 それでも壁は焼け落ち始め、熱風は容赦なく押し寄せてくる。もう今にも炎はミラの座っているソファにも届きそうだ。

「私はこんな炎ごときのために死んだりしないっ!」

 半ば自棄になってそう叫んだ。

 それに呼応するように指輪がさらに強い熱を発する。そして部屋中で燃え盛っていた炎が波のように大きく揺れ、強い熱風を巻き起こした。

「熱っ」

その強さに思わず閉じてしまった目をもう一度開いた時には、炎はもう室内のどこにもなかった。

「……うそ」

 ミラは立ち上がって周囲を見回す。

 室内は見るも無残に黒く焼け焦げ、ミラとエセルの座っていたソファとセンターテーブル以外の家具の全てが焼け崩れていた。床に敷かれた絨毯もミラとエセルのいた辺り以外はほとんど焼けてしまった。

 けれど真っ赤な炎はもう室内のどこにもない。焦げた匂いが鼻につくが、煙も熱風も嘘だったかのように消えてしまった。

 全部悪い夢だったのではないかと思ったが、焼けた室内は先程までの火の強さを生々しく語っている。

「本当に消えたんだ」

 呆然とその場に立ち尽くすミラに、無駄に不敵で偉そうな声がかけられた。

「ほら見ろ。やればできるだろうが。今のはあんたが魔術で消したんだ、ミランジェ・ヘリテージ」

 この状況でもエセルはソファに座ったまま、不遜に笑っている。

「私が……本当に?」

 魔術なんて使った意識はなかった。ただ死にたくないと強く思っただけで。

 そう言うとエセルは教えてくれた。

「魔術にも色々種類があるんだが、ルイ・レヴェックの場合は呪文や手順をあまり必要としないタイプだったんだそうだ。その末裔のあんたにもそういう魔術の才能があるんだろうな。この手の魔術は術師が強く意識したことを具現化するんだ。そしてあんたは火に焼かれて死にたくないと思った。それが結果として火を消すに至ったんだ」

「……何だか今ひとつよくわからない」

 率直な感想を述べるとエセルは渋い顔をしたが、気を取り直すようにソファの背もたれに背を預けて言った。

「まぁ今はいい。とりあえず、さすが遺産持ちの魔術師。大したものだって褒めてやらなくもない」

 どこまでも偉そうな態度だ。

 一体何様だ、王様なのか、人を焼き殺しかけておいてその態度は何なのだと言いたいことは山ほどある。けれど今はそんな気力はない。代わりに余力を振り絞って言っておこう。

「ロード・エセル」

「何だ?」

「すごく疲れた。少し休みたい」

 そのままソファに座り込んだミラを見てエセルは軽く目を瞠ったが、すぐまたあの偉そうな顔で笑った。

「すぐに客室を用意させよう。いくらでも休んで行け」

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