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炎の中、裁定 2

 撃鉄(げきてつ)を起こす音が燃え盛る炎の中に消えていく。

「ちょ、変な冗談はやめて!」

 冗談だと思いたいのに、声も体も震える。

 なのにエセルはこの状況で冷静すぎるほどに冷静で、見ていて恐ろしくなるほどだ。

 いつの間にかミラとエセルの周囲は炎に囲まれていた。さっきミラが入って来た扉は火に焼かれている。

 これでは扉を開けて窓から逃げることも出来なくなった。

 生まれて初めて感じた命の危機にミラはソファにへたり込んだ。

 それを見届けるとエセルは少しの危機感も感じられない様子でさきまで座っていたミラの向かいのソファに腰を下ろした。ただしそのピストルの銃口はいまだミラに向けられている。

「さてどうする? ミランジェ・ヘリテージ。このままじゃ焼死体だ。ああ、もしかすると先に頭に穴が開いているかもしれないな」

「ふざけないで! あなたがこんな事態を引き起こしたんじゃない! 何とかしなさいよ! あなた魔術師なんでしょ!? さっきみたいに火を起こすことができるなら、今度はこの火を消してみなさいよ!」

 弱みを握られたのだと思ったら、その相手も自分が魔術師だと言ってきて、それを信じ切れずにいたら焼き殺されそうな上に銃殺されそうだなんて冗談じゃない。

 ミラは泣き叫びたいのをかろうじて堪えてエセルを睨みつける。

 そんなミラを見てエセルは不快げに眉を顰めた。

「本当に他力本願な女だな。そうやってあんたは一生他人に頼りきり、自分は何もしないで生きるつもりか? 随分と楽な人生でうらやましい限りだ」

 まっすぐに投げかけられた侮蔑の言葉にミラの顔が怒りに赤く染まる。

「あなたにそんなこと言われる筋合いはないわよ! だいたいこれはあなたの仕出かしたことでしょ!? あなたこそ自分の行動に責任を持ちなさいよ!」

「ああ、責任は持つとも。この火を起こした責任を取り、俺もこのままここで死のう。どうせここまで火が大きくなったら俺にはもうどうにもできないんだからな。せいぜいしばらく俺達の周囲まで来ないようにすることと、この程度だが限界だ」

 エセルの言葉に反応するように、彼の背後の炎がゆらゆらと色を変える。朱色から紫に、青に、そして黄色になったと思ったらまた元のように赤々とした色に戻った。

 まるで夢でも見ているかのような心地になったが、続けられたエセルの言葉に改めて絶望を突きつけられた。

「俺じゃあこの火は消せない。残念ながらそれほどのことなんてできないからな」

「そんな……じゃあ何よ、私はここで死ぬしかないってわけ?」

 口にすると涙が溢れてきた。

 生きたいとか死にたいとか、そんなこと考えたことがなかった。

 生きていることは当たり前で、明日が来るのも当たり前。心のどこかで、自分は絶対に危険な目になんて遭うことはない、明日が来るかも危うい日がくるなどありえないと思っていた。ずっと守られていたから。当たり前のように守ってくれる人達がいたから。

 ああ、もしここで死んだら兄にも母にも姉にももう会えないんだ。

 ずっと守ってきてくれたってやっと気付いたのに、一度もお礼を言えなかった。

 ありがとうも愛しているも、一度も言えなかった。

「酷い顔だな」

 正面から投げかけられた言葉に反論する気力も起きない。

 ミラはうなだれ、声を押し殺して泣いた。

 「……ヘリテージの末娘。死にたくないか?」

 静かな声にミラは俯いたまま頷く。

 それを見てエセルは言った。

「死なない方法ならあるだろうが。ルイ・レヴェックの遺産を受け継いだ魔術師ミランジェ・ヘリテージになら」

「だから私は魔術なんか……!」

「聞け。死にたくないんだろ」

 ミラの言葉を遮るようにエセルは強い口調で言った。

「魔術師の遺産は強い力のある魔術師にしか持てない。そして遺産は主と見込んだ力ある魔術師に、さらなる力を与えてくれる。わかるか?」

 何も答えられずにいるミラに苛立ったようにエセルは声を荒げる。

「お前は指輪に選ばれた魔術師だ。こんな火くらい、本来なら造作もなく消せるレベルの」

「そんなこと……」

 言い淀んだミラにエセルはピストルを投げ捨て、立ち上がって怒鳴った。

「できなければここで死ね! 泣いていれば誰かが何とかしてくれるとでも思っているのか!? いつまでも子供みたいに家族に守られてばかりいないで自分のことくらい自分で考えろ! 自分のことくらい自分で何とかしろ! いつまでもそんな生き方をしていてみろよ!? いつか自分だけでなく周りの大事な人間まで破滅することになるからな!」

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