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炎の中、裁定 1

「魔術師? あなたが?」

 目を丸くするミラにエセルは頷く。

「一応は。と言っても大したことはできないが」

 そして右手の人差し指を差し出した。

 その指先にボッと音を立て、蝋燭のように火が生まれた。

「……うそ」

 思わず立ち上がってエセルの指先を凝視した。

 指先から生まれた火は小さいながらも煌々と燃えている。どう見ても本物の火だ。

「手品じゃないの?」

「この程度じゃ手品と疑われても文句は言えないが、種も仕掛けもない魔術だよ」

 そう言ってソファから立ち上がり、キャビネットの上に飾られた燭台(しょくだい)に指を近づけた。火の点いていない真新しい蝋燭に火が灯る。そのままエセルは両隣の蝋燭にも指を近づけた。こうしてキャビネットの上に置かれていた二本の蝋燭に火が灯った。

 エセルはそのうちの一本を燭台ごと持ってきてセンターテーブルの上に置く。

「ほ、本当にこれ、ただの蝋燭なの? 手品用のものとかじゃないの?」

 まだ目の前で起きた光景を信じられないミラは蝋燭に顔を近づけたり手を近づけたりするが、蝋の溶ける匂いも火の周囲の温かさもミラの知る蝋燭と火に違いなかった。

「信じ難いか?」

 まだ疑いの眼差しを蝋燭へ向け続けるミラを見下ろし、エセルは静かに言った。

 ミラは蝋燭を凝視したまましっかりと頷く。

「あなたって性格が悪そうなんだもの。簡単に嘘を吐きそうだし、そんなに簡単に信じられないわよ」

「なるほど」

 その言葉が酷く乾いた響きを持っていたことに気付いたのは少し後のことだった。

 エセルはミラの目の前の燭台を手に取ると無言で窓の方へと歩き出した。

「何? どうしたの?」

 ミラの疑問に答えることなく、エセルはカーテンへと蝋燭の火を近づけた。

「ちょっと! 何を!?」

 悲鳴に似たミラの叫びなど意にも介さず、エセルは蝋燭の火がカーテンに移るまでそうしていた。ちろちろと小さな火がカーテンを焦がし、灰色の煙を上げていく。そしまるで生き物のように火はあっという間にカーテンを飲み込み、大きくなった。

 ミラは目の前で起きている光景を理解できず、口を開けたまま動けずにいた。

 その間もエセルは火を移した蝋燭を放り投げ、さらにはキャビネットの上に置かれた残る二本の蝋燭を手に取るなり絨毯の敷かれた床に放った。蝋燭の火は消えることなく絨毯に焼け移り、あっという間に絨毯は火に包まれた。

 そこまで来てミラはようやく声を発することができた。

「なっ、何しているのよ!?」

 カーテンと床とで燃え盛る炎は勢いを増していく。

 早く家人に伝えて逃げなければと思い立ち上がったミラのこめかみに冷たく硬い何かが当たった。

「……何、これ?」

 黒く硬いそれの形はミラだって知っている。護身用としてヘリテージ家にもあるものだ。けどその護身用の物がなぜ今ミラの頭に当てられているのか。

 なぜそれをエセルがミラに突きつけているのか。

「ロード・エセル。何の冗談?」

 冷ややかなグレーの双眸はまっすぐにミラに向けられている。

 小型のピストルをミラに突きつけ、エセルはただ黙ってそこに立っている。

「バカなことをしていないで、さっさと誰か呼びなさいよ! あなた、自分のお屋敷で家事を起こす気!? 死人でも出たらどうする気!?」

 怒鳴りつけるミラになど全く興味もなさそうにエセルは口を開いた。

「出なさいさ。この屋敷は魔術がかけられている。防火対策は王宮よりも上だ……この部屋以外は」

 無感動な声が静かにそう告げる。

「何よそれ……あなた、何言っているのよ!?」

「こっちも手札は晒した。協力を見込めないあんたに万が一にも俺が魔術師だなんて触れまわられたら困るんだよ。だから信じないならあんたはここで死ね」

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