Fair's fair 2
「……さて。じゃあいい加減話を再開するか。こんな調子じゃいつまで経っても話が終わらない」
仕切り直すようにエセルは言い、ミラを見た。
「そもそもだ。魔術の才能のない人間がその指輪を嵌めることはできないんだよ。あんたのその指輪が主を選ぶって話は知っているか?」
「うん。ぼんやりとだけど昔聞いたから」
「だったらあんたは自分がその指輪に選ばれた上で今も指に嵌めているってことがわかるだろ? 四人の魔術師の遺産はどれも自分の血統でなおかつ一定以上の魔術の才能がある人間にしか手に出来ないようになっている。これはそういう魔術がかけられたかららしい。だからその指輪があんたの指にあるって時点であんたは魔術師と証明され、さらに魔術を目の当たりにしているってことでもある」
「この指輪に魔術が……」
左手に視線を落とせば、中指の付け根だけが厚手の手袋から少しだけ盛り上がっている。十二年間、ずっと手袋で隠してきた薔薇の指輪。
外そうとしても外れず、ミラが成長しても指を圧迫することなくぴたりと違和感なく嵌っている。
「普通の指輪だったら子供の頃から今までずっと嵌めっぱなしになんてできないだろ?」
そう言われると納得して頷くしかない。
「確かに……地味だけど確かに魔術なのかも」
「地味か。まぁ確かにな。けどあんたは久々に指輪に選ばれた人間なんだから、その気になればそこそこ派手なこともできるはずだ」
「そうなの?」
「確証はないけどな。魔術って言っても色々種類があるから。まぁ俺としてもあんたが派手な魔術師だったら楽しいけどな」
「別にあなたを楽しませる必要性なんてないんだけど。でも私、魔術の使い方なんてわからないわよ。いくらこの指輪に魔術がかかっていたって、私に魔術師の才能があったって、使い方がわからなかったらどうしようもないじゃない」
「それについては俺のほうに考えがあるからおいおい試していけばいいだろ」
「考え? そう言えばあなた、何でそんなに魔術とかに詳しいの? それに私が指輪を持っていることだって何でわかったのよ。私も家族も十二年間必死で隠してきたのに」
もしどこかでミラが指輪を持っていることが漏れているのなら、早急に手を打たねばならない。最悪国外逃亡でも考えなければいけないだろうか。
不安が顔に滲み出たミラを見て、エセルは顔の前で手を振った。
「ああ、俺以外は多分誰も知らないからその辺は心配はいらないぞ」
「そうなの? じゃあ何であなたは知っていたのよ?」
「だって俺は先代のヘリテージ伯爵から直接聞いたし」
あっさりとそう言ってのけたエセルにふざけた様子はない。
「先代のって……父上のこと?」
そう言えば、兄だけでなく父にも世話になったというようなことを言っていた気がするが。けれどいくら親しい人間の子供だからってそう簡単に娘が魔術師だなどと明かしたりするだろうか。
「本当に父上がそんなことを?」
不信感を隠さないミラの態度も意に介さずエセルは言う。
「本当にだ。そうでなければあんたが魔術師だなんて誰も知りようがないだろ」
「そうだけど……」
それでも信じられずにいるミラを見てエセルは少し考え込むような素振りを見せた。
「まぁ俺だけ黙っているのもフェアじゃないか。できればまだ黙っておきたかったんだが仕方ないな」
そしてエセルはほんの少し声のトーンを落とし、まっすぐにミラの目を見てこう言った。
「先代殿が俺を信用して話してくれたのは、俺も魔術師だからだ」