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Fair's fair 1

「まぁ俺は返事は急がないから。とりあずお茶をどうぞ。レディ・ミランジェ」

 そしてエセルがベルを鳴らすと、数人の女中がやってきて改めてティーセットと焼き菓子がセンターテーブルに置き、てきぱきとミラとエセルに紅茶を注いで退室した。

 新しいティーカップは白地に鮮やかなターコイズブルーと金で模様が描かれているものだった。ティーポットとクリーマー、シュガーポットも揃いの物だ。ティーストレーナーやスプーン、フォーク、ナイフは華やかな細工が施された銀器。

 こうして形だけはお茶会らしくなったところで、ミラは意を決して切り出した。

「協力って言われても、私があなたにできることなんてほとんどないと思うんだけど」

 悔しいけれどミラは世間知らずのカゴ入り令嬢で、特に何ができるわけでもなければ有力者達との人脈があるわけでもない。

 するとエセルは紅茶にミルクを注ぎながら答えた。

「確かにな。でもあんたは魔術師だろうが」

 結局それか。

 けどそれこそが一番の問題の気がする。

「魔術師って言われても、私は今まで魔術なんて使ったことないわよ。使い方だってわからないし、そもそも私が魔術師だってこと自体信じられないんだけど……」

 自信のなさから声が小さくなったミラに、エセルはたっぷりミルクを入れた紅茶を片手に間髪いれず返してきた。

「信じられなくても本当なんだから仕方ないだろ。あんたはバカか」

 日差しが降り注ぐ窓の向こうからのどかな小鳥の鳴き声がする。

 一流の調度品に囲まれた応接間で見目のよい大貴族の御曹司と二人お茶会。何て優雅な時なのだろう。友人知人に話したらさぞかしうらやましがられるか、あるいは凄まじく妬まれるに違いない。

 そう。これは貴族の子女なら諸手を上げて喜ぶような状況だ。ミラのようなカゴ入り物知らずの小娘には過ぎた幸運だ。そのはずだ。

「おい、手が震えているぞ。せめてカップは置けよ。もし割れたら後片付けの奴がかわいそうだろ?」

 ほら、目の前の御曹司は下々のことにまで気が回る実によくできた紳士だ。何不自由ない生活を送っているにも関わらず、使用人にまで気遣いができる好人物だ。こんな好人物には王国中探したってなかなかお目にかかれないだろう。

 だから耐えよう。バカと言われたくらい何だと言うのだ。それにこの男は腐っても、かつて世話になったクロフォード侯爵の子息。ほんの少しの失言くらい目を瞑らねばクロフォード侯爵にも顔向けできない。

「……ロード・エセル」

「何だよ」

「実はあなたがエセル・クロフォードの名を(かた)る偽物だったりすると、私はとても嬉しいのですが」

「はぁ?」

 間の抜けた声をあげるエセルを遮り、ミラは固まったような笑顔で淡々と続ける。

「もしあなたがロード・エセルの偽物だったのなら、私はあなたに全力で嫌がらせをしたいのです」

 笑顔は崩さぬまま、もう何度頂点を超えたかわからない怒りを溜めこんだ目で、ミラはエセルを見上げる。

「あなたが泣いて(ひざまず)いて謝罪の言葉を述べているところが、私は今ものすごく見たいのです」

 怒りも頂点を超すと笑うしかないらしいと言うことをミラは生まれて初めて知った。今にも怒りが爆発しそうだと言うのに、口角が上がったまま下がらないのはなぜなのか。

 涼しい表情を崩さないエセルは少し考えるような素振りを見せてから口を開いた。

「それは嫌だな。俺は泣くのも跪くのも謝罪するのもしたくない」

 確かに彼という人物がそんなことをしてくれるとはミラだって思っていない。思っていないとは言え、そうもはっきり堂々と答えられると怒りを通り越して呆れるしかない。

 「……もういいです。あなたに何を言っても無駄だということがよくわかりました」

「ご理解いただけて何より。まぁあんまり何度もあんたの怒りに触れると話が進まないからな。以降、あんたの怒りに触れないよう俺も努力をするとしよう、一応」

「一応という辺りは大変気になりますが、この際あなたのような人間から努力するという言葉を聞くことができただけでもよしとします」

「それは光栄だよ。ったく、エディの教育の賜物(たまもの)か? この俺にここまで譲歩させる人間ってのは希少だ」

 エセルはわざとらしく嘆息した。

 それを見てミラはにっこりと極上の笑顔を浮かべる。

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

「そうかそうか。あーよかったなぁそれは。めでたいったらないな」

 エセルは投げやりに言ってカップの中の紅茶を飲みほした。

 ミラもようやくこの男にささやかだが仕返しができたと気分よく焼き菓子を口にした。

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