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ルイ・レヴェックの薔薇の指輪 2

 その夜、書斎では両親と寄宿学校から帰省していた兄が難しい顔で話し合っていた。

 ミラは書斎の隅にある一人掛けの椅子でいつもとは違う大人達の様子に言いようのない不安を抱いていた。

 勝手に物置部屋に入ったことはもちろん両親と乳母、それに兄にもたっぷりと叱られた。

 けど皆、その怒りは長くは続かなかった。ミラの左の指輪を見て揃って顔を強張らせた。そして指輪を外しなさいと皆に言われた。外れなくなってしまったのだと言うと、父や兄、使用人達が総出でミラの指から引き抜こうとしたのだがびくともせず、しまいには強引に引っ張られ過ぎた痛みでミラが泣き出してしまったため、薔薇の指輪は今もまだミラの左手の中指に嵌っている。

「何とか指輪を外す手段はないのですか?」

 苛立った調子でエドワードが父に、当時のヘリテージ伯爵へと顔を向ける。

「八百年もの間にはミラのようにそうとは知らずに指輪を嵌めてしまい、しかも魔術師としての才覚に恵まれていた粗忽者(そこつもの)もいたのではないですか? そういった人々はどうしたのです?」

 妻と並んでソファに深く座っていたヘリテージ伯爵は額に手を置いて息を吐いた。

「エドワード。お前が苛立つ気持ちもわかるが、幼い妹を捕まえて粗忽者などと言うんじゃない」

「そんなことは今はどうでも良いことです。問題は如何にしてミラから指輪を外すかでしょう。寄宿学校でも他国での魔女狩りについて……それにスタンリー家の話については聞こえてきます。国王陛下の愛妾に過ぎないスタンリー家の娘は王宮内でも日に日に勢力を増していると。つまりは王宮内ですら魔女狩り推進派が力を得ているということでしょう」

「エディ。そのようなことを大きな声で言うのではありません」

 ヘリテージ夫人が青ざめた顔でエドワードを嗜めるが、エドワードは止めない。

「実家でくらいしか口にできないのだからいいでしょう。現在の王太子はアルバート殿下ですが、あの方に万が一のことがあれば次期王位継承者はスタンリー家の血を引く第一王女殿下です。そうなればスタンリー家の勢力は誰にも止められなくなるでしょう。幸い王太子殿下はご健康な方ですが、それでも万が一ということはあります。そしてその万が一の事態になった時、この国で魔女の……魔術師の居場所と身の保証はなくなるでしょう。そうなった場合、ミラはどうなるのです?」

「エドワードの言うことは正しいな」

「あなた!」

 ヘリテージ伯爵の言葉に夫人は悲鳴のような声を上げる。

「進んで口にすることではないとは言え、確かにアルバート殿下に万が一のことがあれば、次の王位は第一王女殿下しかない。国王陛下の御子はこのお二人しかいないのだからな」

「ではどうなさるおつもりですか。幸い当家が魔術師ルイ・レヴェックの末裔であると知る者は今となっては近しい親族くらいのものですが、あの薔薇の指輪は知る者は知る代物です」

 エドワードは険しい目でミラの左手を見た。

「薔薇の紋章を用いたルイ・レヴェックの魔術の全てが込められた指輪。ルイ・レヴェックの血を引き、なおかつ魔術の才覚のある者のみを主と認め、主となる人間の手に納まれば花開くという。古い人間なら今でも知っている伝説です。そして残念ながら伝説は真実だった。あんな指輪をしていては、当家の末娘は力ある魔術師であると宣伝して歩くようなものです」

「ご、ごめんなさい……お兄さま……」

 大きな緑の瞳に涙が溜まっていく。

 ミラはエドワードが苦手だ。両親よりも乳母よりも厳しくて怒ってばかりいる。他のみんなが笑ってすませてくれるようなことも、エドワードだけは目を吊り上げて叱ってくる。

 いつもそうやって怒られるからエドワードと目が合っただけで泣いてしまうのだが、今日ばかりは兄はそれ以上叱責の声を上げず、ミラのすすり泣く声だけが書斎に響いた。

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