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勝者が語らぬ歴史 5

 スタンリー家は爵位こそ伯爵位を持っていたが決して有力な貴族ではなかった。しかもアヴァロン国内では当時まだ少数だった魔女狩り推進派であったため、魔術師を擁護する他の王侯貴族に疎まれていたから。

 けれどマリアが王妃となり、その娘が次期王位継承者となったことから議会や社交界での地位を確実なものとしていった。

 そして二年前に国王が逝去した後、まだ十二歳だった王女が女王として即位し、まだ幼い女王の補佐としてスタンリー伯爵と彼に与する一派がついた。こうしてスタンリー家は今や王国最大の派閥を形成するようになったのだ。

 そのあまりによく出来た話に人々は考えた。

 前王妃は四人の賢人の一人の末裔で、魔術師の血を引いていた。そのため王妃の実家ウォルター家はアヴァロン王国内の魔術師擁護の筆頭で、スタンリー家との軋轢は社交界の誰もが知るところだった。

 その上、前王妃の処刑と処罰を受けた彼女の周辺の人間は、皆スタンリー家にとっては邪魔な存在だった。

 健康だった王太子が突然病に倒れたこともおかしい、実はスタンリー家の人間によって暗殺されたのではないかという話がまことしやかに囁かれたが、日々勢力を増していくスタンリー家を恐れ、やがて皆が沈黙した。

 そして八年前の王妃の処刑と王太子の急死とそれにまつわる不穏な噂は、社交界でタブー視されるようになったのだ。


「ああ、カゴ入りお嬢様にしては意外に知っていたな」

 エセルは少しばかり意外そうな顔をした。

 反論したかったが、物を知らないと思われても仕方がないのは先程までに証明してしまった。

「意外で悪かったわね。それであの事件が何だって言うの? 正直、いつ人が来るとも知れぬ部屋でゆっくり話したいことでもないんだけど」

「それもそうだな。まぁ今の話を聞く限りおおおよその話は把握しているようだから、補足することもほとんどなくて助かる」

 さすがのエセルも周囲に窺うように見回してから、少し声のトーンを落とした。

「スタンリー家はアヴァロン最大の魔女狩り推進派。そして前王后は四人の賢人の末裔の魔術師だった」「……は?」

 ミラは零れ落ちるほど大きく両目を見開いた。

「どこから驚けばいいのかわからなくなったんだけど、と言うことはもしかしてスタンリー家出身の現王太后陛下は魔女狩り推進派で、前王后陛下はいわゆる魔女だったと、そういうこと?」

「そういうことだ」

 きっぱりと答えるエセルを前に軽いめまいを覚えた。

「ちょっと待って。それってまさか、スタンリー家による前王后陛下と前王太子殿下謀殺説は真実だとか言うんじゃ……」

「その通り。前王妃はスタンリー家とその一派によって処刑を後押しされ断頭台に送られ、前王太子は毒殺された」

 言葉をうまく継げないミラとは対称的に、エセルはあくまで冷静だ。

「うちの父は前王太子相手に経済学や海外貿易なんかを教えたりしていて、病に伏したって聞いて王太子の元に駆けつけたんだ。医師は堅く面会を拒んだが、王太子付きの侍女が医師達の隙を縫って秘密裏に面会させてくれたんだと。それで王太子の呼吸やら症状、それに侍女達の証言から毒を疑ったらしい」

「で、でもそれだけじゃ……クロフォード侯爵だって医師ではないし」

「父は大学で薬学を専攻していたんだ。伯父上が急死しなければ医者か薬師になるつもりだったと今も言っている。それで王太子は大陸の珍しい薬物による中毒症状にしか見えないと、王宮医師に進言したらしいが一蹴されたらしい。王太子は流行り病だと。流行り病と言えるほど流行っている病なんてなかったのに、だ」

「じゃあ医師も毒殺に一枚噛んでいたとか?」

「だろうな。その医師はスタンリー家の親戚筋の出身だったそうだし」

 事もなげにエセルは答える。

「そうこうしているうちに王太子は死んだ。健康優良な子供がころっとな。そして全ての真相は藪の中。かくしてスタンリー家一派は今日まで繁栄を続けている。その繁栄の裏にどれだけの数の犠牲者がいるのかはわからないけどな。魔女と称される魔術師を始め、スタンリー家にとって邪魔な連中とか、闇に葬られた人間の数は決して少なくない」

「そんなことが、この国で起きていたって言うの?」

 あまりの話に呆然と聞き返すミラにエセルは皮肉るように続けた。

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