ガラクタ
ある日のゴミ捨て場を見て思ったことを書いてみました。
今日も雨が降った。
一段と激しい雨だった。
アスファルトをも削ってしまうような、土をえぐってしまうような、人の歩く音も話す声もかき消してしまうようなそんな雨だった。
朝だというのに空は薄曇っているため辺り一面が暗い。
出勤する大人の姿も学校に向かう各学年の子供も土砂降りの雨の中ではっきりと捉えることはできない。
そんなひどい中でぼくはゴミ捨て場に捨てられている。
冷たくて寒くて身体が震える――――と、こんなとき人間は言うのだろう。
残念ながら人間ではないから話すこともできないし感情という正確なものをきっと持っていない。
――いつからここに捨てられてしまったのだろう……。
感情を持たないとは言ったが、捨てられたことだけは分かる。
人間はいらなくなったもの、必要としなくなったものを『ガラクタ』と呼ぶ。
ここに捨てられているぼくもガラクタだ。昔は名前があったのかもしれない。けれどここではどんなものもガラクタだ。名前なんかない。みんな同じ――――ガラクタだ。
偉大な人が書き残した書物、時代に置き去りにされた電化製品、人間の気まぐれで捨てられたものすべてがガラクタ。
みんなここにいる。
捨てられたということは人間たちにとってぼくたちは必要のない存在なのだ。
だいぶここのゴミ捨て場、ガラクタ置き場に仲間が集いだした。
仲間が集えば必然的に死ぬことになるのをぼくは知っている。
捨てられた時点でぼくたちの器は死んでいる。
しかし、まだ魂は死んではいない。この場からいなくなったとき……それはガラクタの死を意味している。
雨の音とは別の、暗く重い恐怖の足音が徐々に近づいてくるのを感じる。正確ではない。ただ単にそうぼくたちに告げられているんだ。
相変わらずの鉛色の空から幾千幾万の水弾を打ち付けられる。みんなの器に当たって悲鳴を上げている。
誰も必要としないのならいっそ早く――
雨音の中に聞こえてくる祭囃子のような音色。
それは徐々に近くなってきてぼくの前にある水溜りが弾けた。
そこには水色の傘を差してワンピースに長靴を履いた少女が立ち止まって見下ろしていた。ただじっと、周りのみんなには目も向けずにぼく一点をみつめている。
「――みつけた。」
少女はゆっくりとしゃがみ込んでぼくを抱き上げる。すらっとした細い腕だけれど、やさしくて、あたたかくて、まだ信じられない。そして少女はぼくを抱いたまま立ち上がって歩き出した。
薄暗い空の雨は一向に止むことはないようだがぼくの空には冷たさも重たさも恐怖もなく、あたたかさと鳴り止まない軽快な祭囃子があった。
少女の顔には柔らかな笑みがこぼれていた。長靴は次々に水溜りの中に入って大きな波紋をつくり出す。「心配ないよ。」とぼくの中に入ってきた。これが感情なのかな?
――大丈夫。もう心配はない。ガラクタにも役目はまだ残っていたみたいだ。
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