第1章:鉄と炎、始まり
はじめに
『鋼鉄の血 ― 異世界のWar Thunder ―』第1章を読んでいただき、本当にありがとうございます。
まず最初にお伝えしたいのですが、私はあくまで趣味で執筆しているアマチュア作者です。
そのため、更新速度はあまり早くないかもしれません。
また、私自身の日本語力も決して高くありません。
簡単な挨拶や「ありがとうございます」程度しか分からない外国人作者です。
現在この作品は、母国語で書いた原文を翻訳ツールを使用して日本語化し、このプラットフォームへ投稿しています。
そのため、不自然な表現や読みづらい部分もあるかもしれませんが、温かく読んでいただければ嬉しいです。
そしてタイトルにもある通り、私は《War Thunder》のプレイヤーでもあります。
「もし軍事ゲームの要素を異世界ファンタジーに持ち込んだら、どんな物語になるのか?」
そんな興味から、この作品を書き始めました。
混沌とした異世界、神々、戦争、そして鋼鉄。
この世界観を少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
また、Opening 1『Battle Start!』は、Sunoを使用して実際に楽曲化しています。
興味があれば、ぜひYouTubeで検索して聴いてみてください。
改めて、読んでくださってありがとうございます!
第0部:異世界の起源
この世界は――神々によって創られた。
生命も、力も、魂も……あらゆる存在は神々によって生み出され、築き上げられたものである。
「創造」「均衡」「秩序」。
それこそが、この異世界を維持する三つの根幹だった。
もしこの世界を混沌に満ちた実験場と呼ぶのなら、神々は観測者であり、この異世界の惑星そのものが実験体だった。
いや、正確には――神々を裏切った“ある者”を永遠に苦しめるための拷問器具である。
この世界が存在する理由。
それは、異世界から来た一人の魂を封じ込めるためだった。
神々に屈しない裏切り者へ与えられた、終わりなき罰のゲーム。
彼は何度死んでも蘇り、何度絶望に叩き落とされてもなお生き延び続けた。
神々は、彼が膝をつくその時まで観測を続ける。
そして彼が完全に屈服した時、神々は彼の魂を回収し、この世界を見捨てるのだろう。
たとえ世界そのものが、神々自らが生み出した「侵食」によって滅びようとも。
善も悪も、すべては神々の掌の上。
勇者も魔王も神に選ばれ、神に力を与えられ、そして神に奪われる。
狂気に満ちた神々の支配の中で――
かつて神への反逆者と呼ばれた男は、一度の転生において魔王へと至った。
彼は「Gaijin」という名の神の力を借りた。
その名は、“Earth”という惑星に存在した同名企業から着想を得たものだった。
そして彼は、抵抗勢力を覚醒させた。
彼が用いたのは、《War Thunder》と呼ばれる“軍事シミュレーションゲームを偽装したソフトウェア”。
新たな機械を媒介とすることで、それは侵食へ対抗する武器となり、神々の眷属を打ち倒す力となった。
しかし同時に、Earthから来た一部のプレイヤーまでもがこの世界へ巻き込まれてしまう。
召喚された者たちが死に、その「ゲームの操作権」が異世界側の人間へ移る事例も発生した。
だが結局――
彼は再び、神々に選ばれた勇者たちに敗北した。
そして魔王は、深いダンジョンの闇へと姿を消した。
唯一の救いがあるとすれば。
彼に救われた一人の信徒が、史上初となる核攻撃を成功させたことだった。
洗脳されていた英雄や信徒たちへの復讐。
その光景は、一人の狂気の魔導博士を目覚めさせる。
神々へ反旗を翻すため、彼はその「破滅の兵器」を再現し始めたのだ。
――神ですら所在を掴めない最深部の迷宮。
生死不明となった彼のもとで、か細い炎だけが今も燃えている。
唯一の魔王。
そしてかつて“神へ抗う者”と呼ばれた男。
彼は徐々に理性を失いつつあった。
魂を輪廻から閉ざすための鉄鎖が、その身体を柱へと縛り付けている。
彼は世界の滅亡を望まなかった。
無意味な犠牲も望まなかった。
だが、その弱々しい炎はまるで告げているようだった。
彼の魂は、もう限界だと。
あとは神々が現れ、彼を回収するのを待つだけ。
――しかし同時に。
それは最後の賭けでもあった。
この牢獄から自分を救い出す“誰か”を召喚するための、最後の希望だった。
________________________________________
とある孤島にて――
忘れ去られた孤島。
魔法の霧と鋭い珊瑚礁に守られたその地では、巨大な“蝸牛”の姿をした神を崇拝する秘密教団が活動していた。
地下洞窟の奥。
揺らめく松明の光が、古代の壁画を照らし出す。
そこには、巨大兵器と神々との大戦が描かれていた。
白髪の老司書は、深い憂いを宿した目を細めながら、風化した石碑に刻まれた最後の言葉を読み上げる。
蝸牛神教団に伝わる異文
「我らが魔王が救われる前に、魔王様が遺した設計図を用いて“ノア”を完成させよ。
残された時間は少ない。
この星における根源的侵食は、もはや覆せない。
座標 X.X-1241B の惑星へ移住してこそ、この星の人類は救われる」
「――これが、あのお方が最後に遺された言葉です」
老司書は静かにそう語った。
彼の前にいるのは、新たに教団へ加わった信徒たち。
神々による粛清を逃れてきた難民たちだった。
彼らは、わずかな希望を求めてこの島へ辿り着いたのである。
一人の新参信徒が戸惑いながら尋ねる。
「では……その“侵食”というのは、一体何なのですか?」
壇上に立つ宣教師が、敬意に満ちた声で答えた。
「それは、この世界すべての国家が恐れているものです。
人々は“あのお方が作り出した”と言っています。
しかし神々は、それを“無害”だと語った。
だが魔王様は、魔王の座へ至った瞬間に理解されたのです。
それが“制御された時限爆弾”であると」
彼は静かに目を伏せる。
「我々だけが真実を知るこの世界のために……
あのお方は、あまりにも多くを犠牲にされたのです」
別の信徒が口を開いた。
「神々とは、伝承に語られる女神たちなのですよね?
なぜ彼女たちは魔王様の魂をそこまで憎むのです?
古代の魔王と、どんな因縁が……?」
宣教師は意味深な笑みを浮かべた。
「まだ理解できぬのも無理はない。
本来――あのお方こそ、この世界を創った神だったのだ」
洞窟内にざわめきが走る。
「だが、様々な姿を取り、数多の世界を旅する中で、あのお方は女神たちの怒りを買った。
その結果、この空間は歪み、女神たちの世界同士が重なり合ったのだ。
そこから魔力、魔法、混沌が生まれた。
精神世界も、科学すらもな……」
彼はそこで言葉を止め、ゆっくりと微笑む。
「……続きは、お前たちが“プレイ”を始めてから話そう」
――蝸牛神を崇める教団の集会は、静かに幕を閉じた。
か細い炎は、一つの標語を掲げながら、Earthへ向けた召喚信号を密かに起動する。
それは世界の裂け目を貫き、時空を超え――
未来の分岐世界へと飛翔していった。
第1部:裂け目
か細い炎は、多重時空を貫くように――
名もなき“ある現実”へと辿り着く。
そして、現在。
2025年1月初旬――。
ミンは、大学を卒業したばかりの青年だった。
現在は首都のオフィスでインターンとして働いている。
変化のない毎日。
息苦しく、どこか閉ざされたような生活。
長く続いた感染症のパンデミックは、彼の未来も夢も、すべて奪い去った。
結局、ミンは現実を受け入れるしかなかった。
この街に残り、
経験不足のまま、平凡なデスクワークを続けるしかなかったのだ。
そんな閉塞した日々の中で――
彼は一つの“救い”を見つけた。
《War Thunder》。
戦車、航空機、軍艦――
あらゆる兵器を操れる軍事シミュレーションゲーム。
社会隔離が続いていたあの頃。
世界のどこかで“SMO”と呼ばれる有名な軍事衝突が勃発した時期でもあった。
その影響もあり、多くのゲーマーたちは《War Thunder》へ集まった。
軍事兵器を知るため。
ゲーム世界へ没入するため。
そして――現実から目を逸らすために。
ミンもまた、その一人だった。
彼が《War Thunder》を始めたのは2022年。
特にソ連ツリーを愛していた。
仮想世界の中では、自分が現実よりも強くなれた気がした。
戦術を理解し、戦場を支配できるような感覚。
二年以上のプレイを経て、彼のアカウントにはソ連陸空軍の兵器がほぼ揃っていた。
旧式のT-34。
近代化されたT-80BVM。
Yak-3。
Su-27。
そして、ターボジェットエンジンの轟音。
もう少しで、ソ連・ロシアツリー屈指の高性能機――Su-30SMの開発も完了するところだった。
さらに、大型アップデートも控えている。
もちろん、ソ連ツリーだけではない。
他国兵器にも触れ、それぞれの戦闘スタイルやテンポも理解していた。
――あの炎が現れるまでは。
運命に導かれるように、異世界への扉が開くまでは。
その日も、いつも通りだった。
仕事を終えたミンはアパートへ戻る。
ノートPCを机へ置き、スマホを充電へ繋ぐ。
椅子へ腰を下ろし、《War Thunder》を起動した――その時。
違和感があった。
画面が2025年版ではない。
まるで2020年頃の古いバージョンを無理やり継ぎ接ぎしたような、不自然な画面。
こんなバグは滅多に起きない。
確認しようとした、その瞬間。
ノートPC画面が、青白い炎のような光を放った。
空間そのものが歪み、亀裂が走る。
そして画面中央には、ただ一つ。
“Start”
という英単語だけが表示されていた。
ミンは反射的に、それを押してしまう。
――それが、彼の最大の後悔となった。
「なっ……なんだよ、これッ!?」
叫んだ瞬間にはもう遅い。
真空のような凄まじい吸引力が、ミン自身とノートPC、スマホを飲み込んでいく。
視界が暗転する。
……
目を開けた時。
ミンは、鬱蒼とした原生林の中へ投げ出されていた。
背丈を超える草木。
湿った腐葉土の臭い。
衣服を貫く冷たい風。
彼は荒い呼吸をしながら立ち上がり、周囲を見回す。
どう見ても北方地域の針葉樹林だった。
夕暮れの薄暗い光が、不安をさらに掻き立てる。
「荷物……スマホは!?」
慌てて周囲を探し回る。
しばらくして、近くの低木のそばにノートPCとスマホを発見した。
「はぁ……壊れてなきゃいいけど……。
なんで“Start”を押しただけで、こんな場所に……?」
恐る恐る動作確認を行う。
そして、ミンは凍りついた。
ノートPCもスマホも正常に起動していた。
バッテリーは減っていない。
通信は圏外。
――なのに、《War Thunder》だけは正常に動いている。
その時だった。
前方の茂みが揺れる。
低く濁った獣の咆哮。
空は急速に暗くなり始めていた。
木々の隙間から、黄金色の瞳が光る。
「ま、魔物……?」
心臓が激しく脈打つ。
闇の中から現れたのは、黒い鱗を持つ四足獣。
鋭い牙。
犬と蛇を掛け合わせたような異形。
しかも、一体ではない。
さらに三体。
ミンは反射的に後退し、スマホを掴む。
その瞬間。
ノートPC画面に警告ウィンドウが表示された。
________________________________________
【生物災害レベルIIを検知】
《戦闘車両を召喚しますか?》
________________________________________
「いや……《War Thunder》にこんな警告機能ないだろ……!」
だが、考える余裕はなかった。
魔物たちは完全にこちらを獲物として認識している。
突然森へ現れた、格好の獲物として。
ミンは必死に走り、少し開けた空き地へ飛び出した。
震える指で、先ほど出撃していたT-80BVMの召喚キーを押す。
________________________________________
《Cancel…》
《車両召喚まで 3…2…1…》
________________________________________
光の粒子が空間を構築していく。
地面が震え、木の葉が舞い上がる。
そして――
森林の中央に、T-80BVMが出現した。
ただし、それは完全改修済みの愛車ではなかった。
________________________________________
【T-80BVM】
状態:Stock + ドーザーブレード装備
主砲弾薬:
125mm HEAT-FS 3BK18M ×25
装甲:未改修
搭乗員:未育成
モジュール進行度:0%
________________________________________
「う、嘘だろ……!?」
ミンは目を見開く。
確かに自分のT-80BVMはフル改修済みだったはずだ。
なのに今目の前にあるのは、完全初期状態のStock車両。
しかし考える暇はない。
再び魔物の咆哮が迫る。
これが、彼にとって初めて“本物”の戦車へ触れる瞬間だった。
幸い、ノートPCを通してある程度の操作支援は行えるらしい。
現実の戦車のように複雑な手順をすべて必要とするわけではない。
ミンは慌ててハッチを開け、操縦席へ飛び込む。
混乱しながらスイッチを探し、ゲームで覚えた手順を頼りにエンジン始動を試みた。
もちろん、ゲームが補助してくれるのは照準や射撃だけ。
細かな操縦系統は、自分で理解しなければならない。
計器類が次々と点灯する。
座席が振動した。
そして――
V-92S2Fエンジンが、獣のような咆哮を轟かせた。
第2部:血と鉄
ミンは操縦席へ深く身体を沈めた。
冷や汗が首筋を伝う。
震える右手をノートPCのキーボードへ伸ばし、反射的に《F》キーを押す。
照準システム起動。
視界の端で、ステータスパネルが脈動するように明滅していた。
________________________________________
【T-80BVM ― 稼働中】
装填弾種:125mm HEAT-FS / 3BK18M
《射撃可能》
________________________________________
まさか、自分が本当に“戦場の怪物”を操縦する日が来るなんて。
ただの軍事ゲームだったはずなのに。
ガスタービンエンジンの重低音が森林へ轟く。
夕陽の残光すら震わせるような鋼鉄の咆哮。
その音に、先ほどの魔物ですら動きを止めていた。
自分たちの理解を超えた“何か”が現れた――
本能的にそう察したのだろう。
だが。
本当の恐怖は、夜が訪れてから始まった。
ミンは一人きりで戦車の中にいた。
ノートPCの第三者視点を切り替えながら周囲を確認するが、闇が濃すぎる。
ほとんど何も見えない。
すると、自動的に表示が切り替わった。
________________________________________
《NVD 起動》
________________________________________
画面全体が緑色に染まる。
目に痛いほどの暗視映像。
だが少なくとも、外の様子は見える。
V-92S2Fエンジンの咆哮が、まるで野獣のように森へ響き渡った。
重く、鋭く、圧倒的。
空気そのものが震えているようだった。
ミンは極度の恐怖に襲われていた。
これはゲームじゃない。
分厚い複合装甲。
エンジンから伝わる熱。
鼻を刺す油と金属の臭い。
全部、本物だ。
ノートPCに映るステータスバーも、ただのUIではない。
――自分の命そのものだった。
外では、魔物の足音が徐々に近づいてくる。
枝が砕ける音。
飢えた獣のような唸り声。
暗闇の中で、黄金色の瞳が不気味に点滅する。
ミンは唾を飲み込んだ。
シャツの内側は汗でびっしょりだった。
しかも、奴らは単独では狩りをしない。
NVD越しの濁った緑色の映像の中。
少なくとも四つの黒い影。
……いや、もっといるかもしれない。
四体の魔物が慎重に戦車を囲んでいる。
その瞳には困惑と警戒が浮かんでいた。
本能が告げているのだ。
“これは普通の獲物じゃない”と。
「くそっ……まさか、本当に突っ込んでくる気かよ……!」
苛立ち混じりの罵声が漏れる。
しかも。
群れの中には、一際巨大な個体がいた。
――ボス個体。
嫌な予感が走る。
「まずい……下がれッ……!」
ミンは慌てて《S》キーを押し、後退を試みる。
その瞬間。
先頭の怪物が飛びかかってきた。
咆哮。
速度は虎以上。
ミンは反射的にマウスを叩いた。
瞬間――
主砲が火を噴く。
轟音。
閃光。
125mm HEAT-FS弾が空気を裂いて飛翔する。
初弾は魔物の頭部をかすめ、後方の茂みへ着弾。
巨大な爆発と共に樹木を焼き払った。
耳鳴りがする。
薬莢排出。
そして自動装填装置が次弾を送り込む音。
だがミンは気づいていた。
今のT-80BVMは“Stock状態”だ。
搭乗員スキルも未育成。
改修もゼロ。
照準精度も装填速度も、本来より遥かに劣っている。
たとえオートローダー搭載車でも。
――それでも。
二発目。
砲撃。
轟音。
今度は直撃。
HEAT-FS弾のメタルジェットが、魔物の身体を容易く貫通する。
550mm級の貫徹力。
生物相手には、あまりにも過剰火力だった。
怪物の肉体は内側から破裂し、焼き潰される。
ミンは叫んでいた。
まるでゲームで初めてStock弾キルを決めた時のように。
「当たった!
当たったぞ、この野郎ォォォ!!」
だが。
喜ぶ暇などなかった。
ボス個体が突撃した瞬間、他の個体も一斉に襲いかかってくる。
二体目が左側面へ接近。
ミンは慌てて砲塔を旋回させ、後退しながら照準を合わせる。
汗で手が滑る。
そして――
再び発砲。
怪物の身体が真っ二つに吹き飛ぶ。
だが。
血の臭い。
火薬の煙。
背後から迫る咆哮。
終わっていない。
T-80BVMの後退速度は時速10〜11km程度。
逃げ切れない。
ミンは車体を反転させ、森林突破を決断する。
だが群れは散開していた。
一体が側面へ。
一体が車体後部へ飛びつく。
さらに別の個体は砲塔上へ登り、装甲を狂ったように引っ掻き始めた。
________________________________________
《警告:後部装甲に衝撃》
《速度低下 ― エンジン部損傷リスク》
________________________________________
ゲームでは聞いたことのない警報音。
だが今重要なのは、生き延びることだけだった。
「やめろッ!! クソがァァ!!」
ミンは武装切替キーを叩く。
NSVT 12.7mm重機関銃。
安全装置解除。
照準旋回。
そして射撃。
重機関銃が猛烈な連射音を響かせた。
12.7mm弾が魔物たちを撃ち抜いていく。
悲鳴。
肉片。
血飛沫。
車体後部や砲塔上へ取り付いていた怪物たちが次々と地面へ落下した。
痙攣。
そして沈黙。
最後の引っ掻き音が止む。
森は再び死の静寂へ包まれた。
――だが。
遠くから、まだ別の咆哮が聞こえる。
________________________________________
【4 Targets Destroyed】
+320 SL
+240 XP
獲得SP:180
________________________________________
報酬表示が浮かび上がる。
しかし今は、それどころではない。
「こんなの見てる場合じゃねぇ……!」
ミンは急いで車体を旋回。
残った魔物を履帯で弾き飛ばし、そのまま森林突破を開始した。
オートギア設定。
エンジン全開。
T-80BVMが木々を薙ぎ倒しながら突進する。
後には、焼け焦げた死体だけが残された。
……
何時間も走り続けた末。
ようやく大きな街道へ辿り着く。
夜明けの光が差し始めていた。
ミンは疲労困憊のまま車長ハッチを開ける。
朝の冷たい空気。
そして車体へこびり付いた黒い血臭。
爆発反応装甲の一部は歪んでいたが、X-ray表示を見る限り損傷は軽微だった。
戦車はなおも低速自動走行を続けている。
「ここ……絶対、俺の世界じゃない……」
ミンは呟く。
「異世界転移ってやつかよ……。
でも、変わったのはスマホとノートPCだけ。
バッテリーは減らない。
《War Thunder》はオフラインで動いてる。
戦車も召喚できる……。
なのに俺自身には、何の力もない……」
睡魔が限界へ達していた。
一晩中、死に物狂いで逃げ続けたのだ。
ミンは街道脇の小道へ車体を寄せ、休息を取ることにした。
――その先で。
自分が“虐殺の痕跡”を見ることになるとは知らずに。
そして。
城を護衛する傭兵たちとの出会いが待っていることも。
………………………………………………
カァ……カァ……
鴉の鳴き声。
ミンはゆっくり目を覚ました。
既に日は傾き始めている。
「……今夜までに、安全な場所を見つけないと……
昨日みたいに襲われたら終わる……」
そう呟きながら、戦車内に残っていたビスケットと牛乳を取り出す。
簡素な食事を取りつつ、彼は道路の痕跡へ視線を向けた。
そこには履帯とは異なる轍。
――馬車の跡。
つまり近くに、人がいる。
あるいは、防衛可能な拠点が。
ミンは再びT-80BVMを動かし、轍を辿り始めた。
だが。
進むにつれて、嫌な感覚が強くなる。
ノートPCによる運転補助のおかげで移動自体は安定している。
しかし、妙な違和感があった。
「魔物……。
全部同じじゃない……?」
やがて。
木々の向こうに巨大な建造物が現れる。
古城。
色褪せた石壁。
崩れた外壁。
それでもなお、失われた栄光の残骸のように立ち続けている。
「……今夜は、あそこで身を隠すしかない」
T-80BVMが再び低く唸る。
重々しい履帯音を響かせながら、戦車はゆっくりと城門へ向かって進み始めた。
ミンはまだ知らない。
外の闇よりも恐ろしいものが――
既に城の中に存在していることを。
第3部:人と影
重々しい履帯が、凍りついた石畳をゆっくりと踏み潰していく。
砕けた氷。
小石。
黒ずんだ泥。
すべてを押し潰しながら、T-80BVMは低い唸り声を響かせていた。
ギアを切り替えるたび、エンジンが獣のように咆哮する。
まるで“鋼鉄の怪物”が呼吸しているかのようだった。
ミンの前に広がるのは、北方の針葉樹林に佇む古い黒石の要塞。
だがその光景は、あまりにも異様だった。
城塞は半ば崩壊している。
つい最近、大規模な戦闘があったのは明らかだった。
白骨化した人間と魔物の死骸が入り混じり、地面には血のように粘つく黒い泥が広がっている。
まだ新しい死体もあった。
――虐殺は、そう昔の出来事ではない。
城門は粗雑な木材で補強されているだけだった。
T-80BVMがゆっくり押し進むと、脆い木製ゲートは簡単に左右へ吹き飛ぶ。
ミンは砲塔ライトを点灯した。
冷たい白光が、苔と血にまみれた広間を照らし出す。
その瞬間。
まるで封じ込められていた亡霊が解き放たれたかのような冷気が流れ出した。
「普通の人間なら……この時点で戦う気力なんて失ってるよな……」
ミンは小さく呟く。
そして、自分が“まだ正気を保てている理由”にも気づいていた。
もし《War Thunder》へ魂を売るように数千時間も費やしていなければ。
何百回も仮想空間で死に続けていなければ。
きっと、とっくに恐怖で壊れていた。
ゲームの中で培った“疑似的な戦場経験”。
それだけが、今の彼の精神を支えている。
皮肉なことに。
現実の戦場を知らぬゲーマーの方が、初めて死地へ放り込まれた時には強いのかもしれなかった。
ミンは城門前で車体を停止させる。
ノートPC上で慣れたキー操作を行い、一度状況整理を始めた。
________________________________________
【VEHICLE STATUS : T-80BVM】
国家:ソ連 / ロシア
分類:MBT(主力戦車)
BR:12.7(Realistic)
状態:STOCK
主砲弾薬:
125mm HEAT-FS 3BK18M ×15
装填速度:7.1秒
副武装:
12.7mm NSVT ×300
7.62mm PKT ×1200
システム:
Thermal 未搭載
二軸スタビライザー未搭載
レーダーなし
エンジン:V-92S2F
出力:1250馬力
《警告:APFSDS 未解放》
SL:1,832,750
SP:360
未使用XP:920
________________________________________
ミンは深くため息を吐き、太腿を軽く叩いた。
「昨日だけで7発使ったのか……。
しかも稼働だけでSL消費。
HEAT-FSだけじゃ限界がある……」
Thermalなし。
スタビライザーなし。
現代MBTとは思えない欠陥状態。
今のT-80BVMは、ただの巨大な鋼鉄砲台に近かった。
周囲は静まり返っている。
城門脇には、民間人、兵士、魔物の死体が散乱していた。
おそらくここは貴族の居城だったのだろう。
だが今は。
ただの死の跡地だった。
「K-59拳銃……。
MREも少し残ってる……。
少なくとも、戦車の中に最低限の装備はあるか……」
ミンは苦笑する。
本来ゲーム内に存在しないはずの装備まで、現実として車内に出現していた。
太陽は沈みかけていた。
闇が再び世界を飲み込もうとしている。
ミンはスマホのライトを点灯しながら考える。
油臭い戦車内で夜を越すべきか。
それとも、城内を探索するべきか。
――その時だった。
背後で、何かが動いた。
ミンは即座にノートPCへ視線を向ける。
ミニマップ上に高速移動する反応。
9……10……。
さらに増えている。
「人間か……?
それとも別の群れか……?」
ミンは砲塔を旋回。
車長ハッチを開け、K-59を構えながら外を見る。
やがて霧の向こうに、人影が浮かび上がった。
馬。
騎乗した集団。
先頭には、白髪の女性。
フード付きの外套。
傷んだ革鎧。
鋭く真っ直ぐな視線。
明らかに警戒していた。
そして。
その背後。
揺らめく黒い影。
昨日の魔物たちだった。
追ってきている。
「後ろに魔物がいるぞ!!」
ミンは咄嗟にベトナム語で叫ぶ。
――だが、言語が通じるはずもない。
しかし次の瞬間。
ノートPC上で、《Translation Software》が自動起動した。
戦車外部スピーカーから、機械的な音声が響く。
________________________________________
《翻訳システム起動》
「危険!
後方より魔獣接近中!」
________________________________________
その警告で、騎兵たちの空気が一変した。
直後。
森の闇から魔物が飛び出す。
昨日と同じタイプ。
騎兵隊後列へ襲いかかった。
距離、およそ500m。
近距離戦には遠すぎる。
先頭の白髪の女騎士――隊長らしき女性が剣で魔物を迎撃する。
他の兵士たちも馬を反転させ、後衛防御へ回った。
人数は二十名ほど。
動きに無駄がない。
歴戦の兵士たちだった。
――だが。
さらに大型の個体が現れる。
《レベルIII》
隊列が一気に乱れた。
________________________________________
(翻訳ログ)
「誰かが警告してくれたのか……!
危なかった……!」
「くそッ、またレベルIIハウンドかよ!
救助任務じゃなければ断ってたぜ……!」
「城まで走れ!
一時的に防衛線を張るぞ!」
「隊長! 危険――!」
________________________________________
咆哮。
レベルIII個体が、白髪の隊長へ飛びかかる。
ミンは迷わなかった。
装填速度7.1秒。
判断が遅れれば死人が出る。
主砲発射。
轟音。
________________________________________
《装填速度:7.1秒》
《残弾:17》
《HEAT 装填》
________________________________________
砲弾が一直線に飛翔。
メタルジェットが魔物を粉砕する。
衝撃波で周囲の兵士たちすら吹き飛ばしかけた。
さらに。
二発目。
三発目。
ミンは装填完了表示が出た瞬間、迷わず発砲を続ける。
HEAT弾が次々とレベルIII個体を吹き飛ばしていく。
血飛沫が木々へ飛び散る。
________________________________________
《残弾:7》
【8 Targets Destroyed】
+820 SL
+660 XP
SP:880
________________________________________
数分後。
群れは撤退した。
リーダー格を失ったことで、森の奥へ消えていく。
騎兵隊は息を整えながら、城門前のミンへ接近した。
「……鉄の怪物を操る男、か」
白髪の女隊長が呟く。
しかし城内に残されていたのは、無残な死体だけだった。
兵士。
民間人。
食い荒らされた遺体。
そして。
血に染まった静寂。
残されたのは、城門前に佇む“鉄の亀”と、奇妙な言語を話す青年だけ。
騎兵たちは馬を降りる。
剣を構えながら、慎重にミンへ近づいていく。
ミンは急いで翻訳入力を始めた。
「こんにちは。
僕は迷子です。
この土地の人間ではありません。
何が起きているのか分かりません。
魔物とは無関係です。
話し合えますか?」
翻訳音声が再生される。
騎兵たちは互いに顔を見合わせた。
________________________________________
「怪しいな……。
奇妙な服、奇妙な鉄の怪物。
教会へ引き渡すべきでは?」
「いや。
まず状況確認が先だ。
侵食がこの辺境まで来ている可能性がある」
「了解です、エリラ・カエル隊長」
________________________________________
白髪の女隊長――エリラは剣を収める。
そしてミンへ向き直った。
翻訳システムが彼女の言葉を表示する。
「その鉄の亀を城門から退かせろ。
我々は内部を確認する」
「……分かった」
ミンは頷き、T-80BVMを後退させた。
履帯が石畳へ深い跡を刻む。
油臭い排気。
兵士たちはその異様な鋼鉄兵器を見て、不安そうな視線を向けていた。
やがて探索隊が戻ってくる。
救助対象は既に避難済みだった。
だが、それ以外の者たちは皆殺しにされていた。
________________________________________
「また“粛清”か……」
「ヴォルダの街へ戻るぞ。
ここはもう危険だ」
「……あいつはどうする?」
「放っておけ。
少なくとも、あの鉄亀は魔物より強い」
________________________________________
誰も笑わない。
ただ死臭だけが漂っていた。
若い兵士が呟く。
「……生きた鉄、なのか……?」
エリラは最後にミンを見た。
その瞳には、警戒と僅かな困惑が混じっていた。
「お前の武器は、この大陸のものではない。
我々へ面倒を持ち込むな」
ミンは静かにK-59を握り直す。
そして入力した。
「害を与えるつもりはない。
ただ、生き残りたいだけだ」
機械音声が響く。
たどたどしい翻訳。
だが、その言葉に込められた恐怖と孤独だけは、本物だった。
沈黙。
馬の鼻息だけが響く。
やがてエリラは背を向ける。
馬へ跨りながら、最後に言い残した。
「生きていたければ、できるだけ早くここを離れろ。
この城の闇は……人間のものではない。
だが、一晩凌ぐ程度なら可能だろう」
騎兵隊は去っていく。
馬の嘶きが遠ざかる。
ミンはその場に立ち尽くしていた。
________________________________________
SL:1,833,170
累計XP:1,280
SP:780
自動消火装置 ×2
________________________________________
「……こうして、俺の終わりの見えない旅が始まったのか」
ミンは呟き、暗い城内を見つめる。
そして。
T-80BVMを中心に、仮設拠点の準備を始めた。
――第1章・起源 完――
Opening 1:Battle Start!
---
私はただの臆病者かもしれない、体も強くない
でも心の奥深く、この意志は誰にも消せない!
На борт! Водитель, готов!
Стрелок, готов!
Заряжай, готов!
Вперёд! Есть, вперёд!
一命、一命…
このゲームは始まったばかりだ!
---
頭の中がぐるぐる回る
導くのは燃え盛る炎
一つの些細な出来事が
人生の転機となった
(地球から来た名もなき者)
私は壊れた世界を見た
もう、この場所に属していない
空には魔王の影が
運命に抗うため、全力を尽くしている
(あいつは一体誰だ?)
エンジンの轟音が
戦車を前へと押し出す
この混沌とした戦場で…
神々の笑い声が響く
嘲笑う…もがき苦しむ裏切り者を!
---
一人のプレイヤーとして…私は最後まで戦い抜く
生き残るために…この侵食される世界で!
---
私は魔法を使えないかもしれない
体も強くない
ただの無力な存在…
だけどこの胸には…不滅の炎がある!
世界を救うために招かれた、十二人目の最後の者
この運命…私は拒むことはできない
いつか、必ず頂点に立つ
あの美しい景色が…私が家に帰るのを待っている!
---
運命とのダンスのために、心の準備はできている
見ていよう、人間か…それとも神か…
どちらが勝者かを!
---
たとえ血が鉄と混じり合っても、私は進み続ける!
たとえ闇が光を飲み込んでも、この意志は死なない!
空が崩れる時、私は雲を突き破る!
神が審判を下す時、私は運命を打ち砕く!
---
神々とのダンスパーティー…
混沌の淵で、私はあなたたちと共に踊り狂う
勝とうと…倒れようと…
この世界は…変わるだろう!!
あとがき
次章では――
ついに“地球の兵器”が、異世界の魔法装甲を持つ魔物と本格的に激突します。
魔法の存在しない世界から来た兵器は、
果たして“魔法耐性”を持つ怪物たちに通用するのか。
鋼鉄と魔力。
科学と幻想。
異なる世界の力が交差するとき、戦場の常識は大きく変わり始めます。
ぜひ、次回も読んでいただければ嬉しいです。




