続く潮騒
海沿いの町で育った佳代の暮らしには、潮の香りと潮騒があるのが常だった。大きな入江は然程大きな波もたたず、海面はまるで湖のように穏やかで、外海の荒々しさとはまた別の顔を見せていた。
進学のために地元を出る佳代を、友人たちが見送りに来ている。
列車に乗ってスーツケースを足元に置くと、窓ごしに家族や友人たちがかわるがわるやってきて手を振る。佳代は電車の重たい窓を持ち上げて、彼らと二言三言話した。
やがて列車が動き出した。海沿いの線路を走る列車を、自転車に乗った同級生が手を振って見送っている。見えるのかなと、佳代は小さく笑った。
列車が隣町に差し掛かったとき、佳代はほんの少し不安になった。第一志望の大学に合格したはいいが、住み慣れた町から離れることは、佳代に少なからず緊張感をもたらした。
車窓の向こうに海が見える。日の光が波間を照らして、光の帯がゆらゆらと小さなさざめきを作っていた。
転居先には海がない。しばらく見られないかもしれないなと、佳代は輝く海を目に焼き付けた。
線路を往く列車の、がたんごとんという音が耳に心地いい。
昨夜遅くまでスーツケースに荷物を詰め込んでいた佳代は、うとうとと船を漕ぎはじめた。
どれほど眠っただろう。佳代が眠っている間に列車はうんと進んで、転居先の最寄駅まではもう少しだった。
車窓の向こうに見える景色は、地元ののどかな景色とは違う。次々と列車に乗り込んでくる他の乗客の邪魔にならないよう、佳代は肩をせばめてスーツケースを足元に引き寄せた。
かすかに郷愁に駆られる佳代の耳に、ざわざわと懐かしい潮騒が聞こえてきた。
転居先に海はない。辺りを見渡す佳代の目に、風で大きくしなる木々が映った。木の葉の音が、潮騒のように聞こえたのだろう。
佳代は胸の内にある故郷の海を思い出しながら、大きく息をついた。
<おわり>
この春に進学や就職をした方、おめでとうございます。
ライフスタイルの変化で故郷を離れた方に向けた作品です。
がんばってね。




