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冷泉皇帝(4)

広間から辞した麗華はそのことを星羽に報告した。なるほどね、と星羽は唸り、




「まあ、武家も胡家も伝統ある一族ですから、気位は高いでしょうしね」




と言った。




「私は読めと言った皇帝に従ったまでだわ。頬を張られるのかと思ったのを助けて下さったのは嬉しいけど、あの方何を考えてらっしゃるのか、さっぱり分からないわ……」




皇帝のことを読んで後宮を守れと出てしまうとは思わなかった。


あの時怒号で子供のことを言っていたけど、麗華が知らないだけで美琪か惠燕にでも子がいるのかもしれない。そうすれば大事な世継ぎだ。後宮を守ることも大事になってくる。




「あのお二人の所には通ってらっしゃらないでしょうね、残念ながら。人格が悪いとかそういう意味ではなく、官吏のお嬢さまですから、権力争いがますます広がってしまうのですよ」




成程、そういうもんなのか。とすると……。




「美琪さまでも惠燕さまでもないとなると……、……もしかして」




ちらり、と麗華は星羽を見た。星羽は微笑みながら静かにお茶を飲んでいる。




「まさか……、……星羽さまのところに秘密裡にお越しになっていたり……、しましたか……?」




窺うような目で見てしまった。麗華の言葉に星羽がごくりと飲みかけのお茶を飲み込んだ。途端にむせこんで、けほんけほんと咳込んでしまう。




「な……、な……、なにを、ご冗談を……」




咳込んだ所為で目元に涙が浮かんでいる。黒く済んだ瞳に雫が光ってきれいだった。




「だって、美琪さまでも惠燕さまでもないとしたら、星羽さましかいらっしゃらないじゃないですか」




じとっと星羽を見ると、星羽は慌てたように首を横に振った。




「私はそういうことに参加しないのです」




「後宮に居るのに?」




「はい」




「じゃあ、何のために後宮に居るんですか? 星羽さまも、陛下に望まれたから、此処に居るんでしょう?」




麗華の問いに、星羽は少し考えたようなそぶりをして、それから口許に微笑みを浮かべるとこう言った。




「自分の運命を探す為……、かしらね」




そう強い眼差しで応える星羽を正面から見て、麗華は美しいと思った。




こんな意思のある瞳を持った女性なら、絶対あの冷帝に負けることなく隣に立てて、かつ、国を前に進めていける。


頭から布を被るゆったりとした服装は最初の頃から変わらず、だから余計に瞳の印象が強くなる。紅も刷かない唇は熟れた桃のようにみずみずしい。




最初から美人だとは思っていたけど、星羽と話せば話すほどに打ち解けて、その性格が好きだと思う。


最初から物腰柔らかに応対してくれて、瞳のこともきれいだと言ってくれた。美琪や惠燕のように侮蔑の色を浮かべることもなく、また冷帝のように品定めするように見られたこともなかった。


皇帝のことで弱気になっていた麗華を慰めてくれたし、星読みの事だって素直に信じてくれた。




あの町を離れてからこの瞳のことで良い思いなんてしてなかったけれど(花淑とは邂逅を果たせたけど)、この瞳のおかげで星羽と会えたのだったら、それは素晴らしい運命だ。


麗華が翠の瞳に飽きた冷帝に捨てられるまでは後宮ここで暮らしていかなければいけないのだし、だとしたら心を許せる友達が居たほうが良い。


星羽は、まさに信頼に値する、麗華が好きな人だった。




星羽は勉強熱心だし、絶対に皇帝の隣にいるにふさわしい人だと、そう思う。




「……私は、そうやってご自分の運命を探す星羽さまが美しいと思います」




心を込めてそう言うと、星羽はふふ、と微笑んでくれた。




「嬉しいわ、私のことをそんな風に思ってくれて。私も、貴女のその、嘘のないきれいな翠の瞳が好き。もっと見せて頂戴」




星羽が向かいの椅子から麗華の隣の椅子へと移動し、ひじ掛けにおいていた麗華の手を取る。間近にきれいな透明な黒の瞳が寄って、視線を外すなんて考えもしなかった。




……目の前が陰になる。




ちゅ、と瞼に湿った感触と小さな音が聞こえて、麗華は呆然とした。


影が去り室内の灯りが目の前に戻ると、目の前に黒い瞳を細めて微笑む星羽の顔があった。




……えっ?




「陛下には内緒ですよ……?」




まるでいたずらが成功したみたいな笑みを浮かべている。状況が飲み込めない麗華はぼんやりと席を立つ星羽の姿を目で追った。


その視線に気が付いた星羽が振り向いて微笑んだまま口を開く。




「あら、もう一度して欲しい?」




「ええっ!? いややややややや!?」




神秘的で透明な黒の瞳は奥深く、何を考えているのか分からない。口づけされたことに驚いて頭の中が混乱しているけれど、麗華の心には、決して嫌な気持ちはなかった。




「び……、びっくりしましたけど、嫌じゃありません……。……でも……」




自分たちは皇帝と結ばれるために此処に居る筈だ。そう言いたくて言えないでいると、星羽は、そうね、と笑みを浮かべたままそう言った。




「だから、これは二人だけの秘密。さあ、今日はもう宮にお戻りなさい。またお話しましょう」




やさしい声でそう言われて、麗華はぼんやりとしたまま自分の部屋に戻った。




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