幕間1
「今日はお疲れでしたね」
「アンナさん……」
今、二人はお見合い用の部屋ではなく、ユーリが自室として使っている部屋にいた。なお、貸し与えられた別荘は大きいため、メイドのアンナも自分専用の個室を持っている。
「明日からも、お見合いの希望者がまだまだやってくるようです。ユーリさまは人気者ですね」
「や、やめてください……」
ユーリは恥ずかしそうに顔をそらした。その頬はうっすらと赤らんでいる。
アンナはふふ、と小さく笑ったあと、ユーリと自分のために用意していた食事を部屋に運び込む。食堂で食事をしないのは、二人で使うには広すぎるからである。
アンナはもともと王国に仕えるメイドであったが、勇者ユーリのパーティーが正式な活動を始めてから、彼らをサポートするための専属メイドのような立ち位置となっていた。王国としても、勇者パーティーに力添えするのは喫緊の課題であったのだ。
ユーリが勇者として活動していた時、戦いの疲れを癒すため拠点に戻ってきた彼をいつもアンナは手作りの料理で出迎え、いっしょに食事をしたものだった。
冒険に出ている時こそユーリとアンナは離れ離れだったが、そうでないときは一番一緒にいる時間が長かったと言える。
「それで、今日のことなんですが」
「うん」
食事も一段落し、二人でお茶を飲んでいた時、機を見計らったアンナが恐る恐るといった風情でユーリに尋ねた。
「念のために聞いておきますが、やっぱり、お三方とはそういった関係にはなれなさそうですか?」
お三方とはもちろん、戦士キリカ、魔女ドロテア、神官ロザリーのことである。
あの顛末ではさすがに結ばれることはないだろうとアンナも考えていたが、それでも本人の口から確認したかったのだ。
「うん……さすがにね……そもそも仲間として組める自信もちょっとなくなりかけてるけど……」
ロザリーはともかく、キリカとドロテアがあまりにもひどい行動をとったものだから、友人としてやっていけるかどうかすらユーリは不安に感じていた。
一緒に旅をした仲間は彼女たち三人以外にもいたが、やはりメインパーティーと言えるのはあの三人と勇者ユーリの組み合わせであった。それだけに、絆もひとしお感じていたのである。
だからこそ、今日のショックは大きかったと言えよう。
ユーリの嘆きを聞いたアンナは少し考えこみ、言葉を選ぶように、ひとことひとことゆっくりと胸の奥から自分の気持ちを述べた。
「その、結婚は難しいかもしれませんが、これまで一緒に戦ってきた仲なのですから、良い着地点が見つかってほしいと思います」
「……そうだね」
うまく水に流せるなら、やっぱりあの三人といつまでも付き合いを続けていきたい。それがユーリの偽らざる気持ちだった。
とはいえユーリはもはや勇者としての力を失っているから、パーティーを組んで行動するのは難しいだろうけども。
「きっと、うまくいきますよ。ユーリさまたちはずっと一緒に戦ってこられたのですから」
「うん、ありがとう、アンナさん。アンナさんがそう言ってくれると、全部うまくいきそうな気がするよ」
「ふふ、どういたしまして」
もう一度背中を押すような激励により、ユーリの表情からようやく影が消え去った。
元気を取り戻したユーリを見て、アンナはにこりと微笑んだ。